筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
ME/CFSは原因不明の疾患で、健康に暮らしていた人に、ひどい全身の倦怠感、異常な疲れやすさ、軽い作業の後にいつまでも続くとれない疲労感、全身に広がる痛み、微熱、喉の痛み、リンパ節の腫脹、起立を続けることの困難さなどの身体の症状に加え、思考力、集中力、注意力の低下といった認知機能の障害や、精神の症状、睡眠障害などさまざまな症状をきたします。そして、この状態が長期間続くために、いつもの普通の社会生活が困難になります。
お勧めのサイト
筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群 情報サイトME/CFS info
ME/CFSは、さまざまな疾患が併存しており、特に線維筋痛症(FM)および起立不耐症(OI)は高頻度に併存します。専門医による最新のME/CFSの手引書(専門医が教える筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き)や、最新の線維筋痛症診療ガイドライン 2017においては、中枢性感作(CS)の可能性を述べています。
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院放射線診療部(佐藤典子部長)および神経研究所免疫研究部(山村 隆特任研究部長)の研究グループは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の自律神経受容体に対する自己抗体に関連した脳内構造ネットワーク異常を明らかにしました。(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ホームページ)
客観的な検査異常が確立していないME/CFSにおいて、この自己抗体が新たな血液診断バイオマーカーの一つとなる可能性が考えられます。治療の観点から、この自己抗体を除去する、あるいは産生を減少させる治療法が抗体価の高い患者に有効な可能性が考えられます。(同ホームページ)
- 山田浩二: 歴史. 倉恒弘彦, 松本美富士 編: 専門医が教える筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き. 日本医事新報社, 東京, pp1-14, 2019
- 松本美富士: ME/CFSと線維筋痛症(FM). 倉恒弘彦, 松本美富士 編: 専門医が教える筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き. 日本医事新報社, 東京, pp88-100, 2019
- 日本線維筋痛症学会,日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班:線維筋痛症診療ガイドライン2017.日本医事新報社,東京,pp10-17, pp54-59, 2017
- Joseph P, Arevalo C, Oliveira RKF, et al: Insights From Invasive Cardiopulmonary Exercise Testing of Patients With Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome. CHEST 6: 1-10, 2021
- Lawson VH, Grewal J, Hackshaw KV et al: Fibromyalgia syndrome and small fiber, early or mild sensory polyneuropathy. Muscle Nerve 58: 625-630, 2018
- 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ホームページ
筋痛性脳症/慢性疲労症候群(ME/CFS)世界啓発デー
近代看護の道を切り開いた、
フローレンス・ナイチンゲールの生誕日である、
5月12日に、線維筋痛症(FM)、
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、
化学物質過敏症(multiple chemical sensitivity:MCS)が
世界各地で行われます。
本邦でも、開催される地区があるようです。
フローレンス・ナイチンゲールは、クリミア戦争に従軍の後、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)にかかっていたのではないかと言われています。彼女は、その後、50年間をほぼ寝たきりの状態だったとも言われています。
そのような彼女にちなみ、看護の日と同じ日に、世界啓発デーが開催されることになりました。
変遷する診断基準
- 1994年、福田基準(FC)
- 2003年、カナダ同意基準(CCC)
- 2011年、国際同意基準(ICC)
- 2015年、米国医学研究所(IOM)/全米医学アカデミー(NAM)
- 2021年、英国国立医療技術評価機構(NICE)(2007年より更新)
本邦、2017年、診断基準(案)
★当院では、2006年から、カナダ同意基準(CCC)を使用しており、文献上、CCCが最もよくサポートしているとの報告があり、現在でも、CCCを採用しています。また、本邦における診断基準(2017年)も合わせて参考にしています。
Conroya KE, Islamb MF, LA: Evaluating case diagnostic criteria for myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome (ME/CFS): toward an empirical case definition. Disabil Rehabil. 45(5): 840–847, 2023
ME/CFS臨床診断基準(カナダ基準 2003)
下記の1~4の症状が必ずあること。
その上で、5で2つ以上の所見があること。
そして、6と7を満たす場合にME/CFSの診断を下します。
- 倦怠感
- 活動後の強い疲労・倦怠感
- 睡眠障害
- 痛み
- 神経学的または認知機能の障害
- 下記3項目のうち2項目以上の項目で何らかの症候がある
- a, 自律神経系の所見
- b, 神経内分泌系の所見
- c, 免疫系の所見
- 病気の持続期間は少なくとも6か月で、徐々に発症する場合もあるが、通常は発症時期がはっきりしている
- 診断に際しては、症状は新たに発症したものであるか、発症時に明らかに変化したものでなけらばならない。
- 5,6のすべての症状を有することは稀である。
- 症状はいくつかの症状がまとまって出没を繰り返す傾向がある。
- 少数ではあるが、痛みや睡眠障害がみられないがME/CFSとしか分類しょうがない例がある。このような例では、もし発症が感染後のような経過ならME/CFSと考えてよい。
- 病前から他の理由で健康な状態ではなく、発症のきっかけもはっきりせず、徐々にあるいはいつのまにか発症しているような場合もある
除外すべき疾患・病態
- ほとんどの主症状(倦怠感、睡眠障害、痛み、認知機能障害)を説明できる活動性ほ疾患がある場合。
- 見逃すと重大な結末になる以下の疾患も除外することが必須
アジソン病、クッシング症候群、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、鉄欠乏症、その他の治療可能な貧血、鉄過剰症、糖尿病、がん - 以下の疾患の除外も必須
治療可能な睡眠障害(上気道抵抗症候群、閉塞性または中枢性無呼吸)、膠原病関連疾患(関節リウマチ、SLE、多発性筋炎、リウマチ性多発筋痛症)、免疫系疾患(AIDS)、神経疾患(t多発性硬化症、パーキンソン症候群、重症筋無力症、ビタミンB12欠乏症)、感染症(結核、慢性肝炎、ライム病など)、精神疾患や薬物乱用
病歴や身体診察では除外できない疾患があり、その場合は適切な検査や画像診断で診断する。併存疾患があっても治療によってコントロールされている場合は、診断基準に合致する場合はME/CFSと診断してよい
共存を認める疾患・病態
線維筋痛症(FM)、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)、側頭下顎関節症候群(TMJ)、過敏性腸症候群(IBS)、間質性膀胱炎、過活動膀胱、レイノー現象、僧帽弁逸脱症、うつ病、片頭痛、アレルギー、化学物質過敏症、橋本病、乾燥症候群、その他
これらの共存疾患・病態はME/CFSと同時期に発症することもあるが、IBSのように何年も前に発症していることもある。同じようなことが片頭痛やうつ病でもある。後者のような場合は、症候の関係性は弱い。ME/CFSとFMは関係性が強く「重複症候群」と考えるべきである。
特発性慢性疲労
もし、患者が6か月異常続く原因不明の疲労・倦怠感を訴えているがME/CFSの診断基準を満たさない場合は、特発性慢性疲労(idiopathic chronic fatigue)と分類する
ME/CFS臨床診断基準(カナダ基準 2003)の詳細
1,倦怠感
新たに発症した説明のつかない、持続性ないし再発を繰り返す肉体的・精神的極度の疲労を有し、活動レベルが著しく損なわれるほどである。
2,活動後の強い疲労・倦怠感
肉体的・精神的持久力の不適切な喪失があり、急激に筋や認知力が疲労する。労作後の倦怠感 および/または 疲労感 および/または 痛みがあり、その患者のもつ一連の症状と関連する症状が悪化する傾向がある。病態の回復が遅く、通常24時間またはそれ以上かかる。
3,睡眠障害
疲労回復のなされない睡眠、睡眠量の障害、昼夜逆転や無秩序な日中の睡眠リズムなどのサーカディアンリズム障害
4,痛み
(かなりの強度の筋痛。痛みは筋 および/または 関節で感じられ、しばしば広範で移動性である。しばしば新たな種類やパターンや強さの激しい頭痛もみられる。)
5,神経学的または認知機能の障害
次にあげる困難さが2つ以上観られること:①錯乱、②集中力や短期記憶の固定力低下、③失見当識、④情報処理・分類・語彙検索障害、⑤空間認識の不安定性や空間識失調、⑥視点の焦点を合わせられないほどの知覚や感覚の障害
運動失調、筋力低下、線維束性収縮は良く観られる
認識や感覚のオーバーロード現象(過負荷現象)も観られる:例えば光過敏症(羞明)や音声過敏症、および/または 〝クラッシュ〟状態、および/または 不安に陥るほどの感情の〝オーバーロード)
- オーバーロード(過負荷):発症する前の状態から変化した、刺激に対する過敏性を指す
- クラッシュ:一時的に動けなくなるほどの肉体的 および/または 認知的な疲労を指す
6,下記3項目のうち2項目以上の項目で何らかの症候がある
a, 自律神経系の所見
- 起立不耐症:神経調節性低血圧、体位性頻脈症候群(POTS)、遅発性体位性低血圧など
- 頭のふらつき
- 極度の蒼白
- 嘔気や過敏性腸症候群(IBS)
- 頻尿や膀胱機能不全
- 不整脈と伴う、あるいは伴わない動悸
- 労作性呼吸困難
b, 神経内分泌系の所見
- 恒温調節障害:低体温と著明な日内変動、発汗現象、繰り返す四肢の冷汗と熱感の反復、極度の温熱や寒冷に対する不耐症
- 著しい体重の変動:食思不振や異常な食欲亢進。
- 順応性の欠如とストレスによる症状の悪化
c, 免疫系の所見
- リンパ節痛
- 繰り返す咽頭痛
- 繰り返すインフルエンザ様症状
- 全身倦怠感
- 食物・薬物 および/または 化学物質に対する新たな過敏症の獲得
7,病気の持続期間は少なくとも6か月で、徐々に発症する場合もあるが、通常は発症時期がはっきりしている
通常、明確な発症時期があるが、徐々に発症する場合もある。より早期に予備的診断を下すことも可能。
小児の場合は3か月が適当。
※ME/CFSの発症以前に、すでに他の理由で健康でなかった患者もおり、発症時に検出できるような誘因がなく、もっと緩やかに、あるいは知らぬ間に進行して発症した者もいる。
多彩なME/CFSの臓器別の症状(診断基準以外も含む)
神経系、免疫系、内分泌系が広範囲に障害されているため、症状は数が多く、多彩で、強さもさまざまです。以下の症状の多くは、すべての人あるいは常に存在するわけではないため、診断基準の一部として含めることはできません。
1,循環器系
- 神経性低血圧(neurally mediated hypotension:NMH)
- 体位性起立頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)
- 遅延型起立性低血圧(delayed orthostatic hypotension)
- 軽い頭痛(light-headedness)
- 動悸
- 体液貯留
- 四肢蒼白
- 皮下出血
2,消化器系
- 咽頭違和感
- 吐き気
- 胸やけ
- 腹痛
- 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)
3,神経内分泌系
- 恒温安定性の喪失 正常以下の体温または日内変動
- ホットフラッシュ
- 過度の発汗または寝汗
- 火照る感覚
- 手脚の冷える感覚
- 暑さ/寒さへの不耐性
- 食欲不振または異常な食欲
- 著しい体重変化
- 脱毛
4,筋骨格系
- 筋痛
- 筋けいれん、特に脚
- 胸部の圧迫感と痛み
- 顎関節痛
5,神経系
- 持続する疲労感
- 不耐性
- 偏頭痛もしくは新たな発症の頭痛
- 発作様現象
感覚
- 痛みに対する過敏症
- 有害な刺激に対する過敏性
- 知覚的および空間的な歪み
- 灼熱感または腫れ
- オーバーロード現象
- 認知マップの喪失
- 味覚異常、嗅覚異常
認知
- 情報処理の困難さ
- 集中力の問題
- 混乱
- 語彙検索の困難さ
- 言葉の取り違え
- 短期記憶障害
- 認知プロセスの遅さ
運動とバランス
- 筋力低下または麻痺
- バランス不良、運動失調、タンデム歩行(つま先を一直線に向け歩行する)
- 不器用となり、物を落とす傾向
- タンデム歩行の困難さ
- 典型的でないしびれとうずき
睡眠障害
- 睡眠障害 - 過眠症または不眠症
- すっきりしない睡眠
視覚と聴覚障害
- 羞明(光がまぶしい)
- 視覚的な変化または目の痛み
- 二重、かすみ目、または波状の見えかた
- 目の乾き(ドライ・アイ)やかゆみ
- 耳鳴り:ジー、キーンという音
- 聴覚過敏とカクテルパーティー現象(多くの音の中から、ある音や声だけが聞こえる)
神経心理
- 適応性の喪失
- ストレスによる症状の悪化
- 感情の平坦化または人格の変化
- 不安および/またはパニック発作
- 反応性うつ状態
6,免疫系
- 圧痛のあるリンパ節
- 繰り返す咽頭痛
- 繰り返す風邪のような症状
- 新たに出現した薬剤や化学物質の過敏性
7,生殖系
- 月経困難症
- 月経前症候群(PMS)もしくは不規則は月経周期
- 性欲減退またはインポテンス
8,呼吸器系
- 労作性呼吸困難
- 副鼻腔炎
- しつこい咳と喘鳴
9,泌尿器系
- 頻尿、膀胱機能障害
- Carruthers BM, Kumar Jain A, De Meirleir KL, Paterson DL, Klimas NG, et al: Myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: clinical working case definition, diagnostic and treatment protocols, journal of Chronic Fatigue Syndrome 11(1):7-115, 2003
- 篠原三恵子訳:Carruthers BM, van de Sande M,I, : Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: A Clinical Case Definition and Guidelines for Medical Practitioners, An Overview of the Canadian Consensus Document
日本における診断基準(2017)
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床診断基準【案】
Ⅰ,6ヵ月以上持続ないし再発を繰り返す以下の所見を認める
(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)
- 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下*
- 活動後の強い疲労・倦怠感**
- 睡眠障害、熟睡感のない睡眠
- 以下(ア)(イ)のいずれかを認める
- (ア)認知機能の障害
- (イ)起立性調節障害
Ⅱ、別表1-1に記載されている最低限の検査を実施し、別表1-2に記載された疾病を鑑別する(別表1-3に記載された疾病・病態は共存として認める)
*病前の職業、学業、社会生活、個人的活動と比較して判断する。体質的(例:小さいころから虚弱であった)というものではなく、明らかに新らたに発生した状態である。過労によるものではなく、休息によっても改善しない. 別表2に記載された「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」を医師が判断し、PS 3以上の状態であること
**活動とは、身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む。
別表1-1. ME/CFS診断に必要な最低限の臨床検査
- 尿検査(試験紙法)
- 便潜血反応(ヒトヘモグロビン)
- 血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)
- CRP、赤沈
- 血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、 血清電解質、血糖)
- 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体
- 心電図
- 胸部単純X線撮影
別表1-2. 鑑別すべき主な疾患・病態
- 臓器不全(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)
- 慢性感染症(例;AIDS、B型肝炎、C型肝炎など)
- 膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患(例;SLE、RA、Sjögren症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など)
- 神経系疾患(例;多発性硬化症、神経筋疾患、てんかん、あるいは疲労感を惹き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ 頭部外傷など)
- 系統的治療を必要とする疾患(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、 脳・胸部・腹部・骨盤への放射線治療など)
- 内分泌・代謝疾患(例;糖尿病、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全、など)
- 原発性睡眠障害(例;睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど)
- 精神疾患(例;双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など)
別表1-3. 共存を認める疾患・病態
- 機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)に含まれる病態、線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛など
- 身体表現性障害 (DSP-IV)、身体症状症および関連症群(DSM-5)、気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)
- その他の疾患・病態
起立性調節障害 (OD):POTS(体位性頻脈症候;postural tachycardia syndrome)を含む若年者の不登校 - 合併疾患・病態
脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)
別表2. PS(performance status)による疲労・倦怠の程度(PSは医師が判断する)
- 倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる
- 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある
- 通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、 全身倦怠感の為、しばしば休息が必要である。
- 全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である。*1
- 全身倦怠感の為、週に数日は社会生活や労働ができず、 自宅にて休息が必要である。*2
- 通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、 週のうち数日は自宅にて休息が必要である。*3
- 調子のよい日は軽労働は可能であるが、 週のうち50%以上は自宅にて休息している。
- 身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、 通常の社会生活や軽労働は不可能である *4
- 身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、 日中の50%以上は就床して*5
- 身の回りのことはできず、常に介助がいり、 終日就床を必要としている。
疲労・倦怠感の具体例(PSの説明)
- *1 社会生活や労働ができない「月に数日」には、土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む。
- *2 健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する。
- *3 フルタイムの勤務は全くできない状態。
ここに書かれている「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。 - *4 1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。
- *5 外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。
- 伴信太郎: 診断法(臨床診断基準と研究用診断基準). 倉恒弘彦, 松本美富士(編): 専門医が教える筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き. 日本医事新報社, 東京, pp35-47, 2019
ME/CFSの原因
以下の関与が挙げられています。
- 遺伝的素因
- ウイルスの誘発と再活性化
- 毒素および薬物への曝露
- 腸内細菌叢の異常
- 全身性炎症
- 酸化還元不均衡と酸化ストレス
- 血管、内皮、凝固の機能障害
- 自律神経機能障害、血管収縮、低酸素症
- 神経炎症
- エネルギー代謝障害
- ホルモンの変化
- 免疫機能障害
- 自己免疫
Arron HE, Marsh BD, Kel DB: Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: the biology of a neglected disease. Front. Immunol 15: 1-34,2024
ME/CFSの治療
Arron HE, Marsh BD, Kel DB: Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: the biology of a neglected disease. Front. Immunol 15: 1-34,2024
潜在的な治療法
炎症反応を低下させる
- リンタトリモドはTLR3アゴニストです。
- TLR3の働きを阻害し、炎症性サイトカイン(TNF-αなど)や1型インターフェロンの産生を低下させる。
- NK細胞の機能を改善する。
ステロイド
副腎抑制作用があるため、実用化は難しい。従って、ME/CFSにおけるステロイドの使用はまだ不明である。
免疫システムの促進
- 免疫賦活療法
- VDRアゴニスト
免疫系を再活性化するオルメサルタンとメドキソミル
- VDRアゴニスト
- 侵入病原体を除去する抗ウイルス薬
酸化ストレスの低下
- 一酸化窒素(NO)やグルタチオンなどの抗酸化物質
ミトコンドリア機能障害をターゲットに
- ミトコンドリア栄養補助食品
- ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド水素(NADH)、コエンザイムQ10、アセチルL-カルニチンなど。しかし、研究間の一貫性に欠ける。
- PPARアゴニストによるミトコンドリア生合成の亢進。
- AMP擬態薬、メトホルミン、チアゾリジン系PPARアゴニストなど。
自己免疫反応を抑える
- 免疫調節薬
- Yグロブリン、アナキンラ、リツキシマブ、シクロホスファミドなどME/CFSにおける形質芽細胞へのB細胞活性化を抑制する抗増殖作用。
- B細胞減少療法
- 血漿中のIgGを減少させる免疫吸着療法
Arron HE, Marsh BD, Kel DB: Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: the biology of a neglected disease. Front. Immunol 15: 1-34,2024
★当院での治療の実際
推奨されている、すべての検査、すべての治療法を行なうことは困難です。また、高価な検査や治療法をできるだけ行なわないようにしていますが、限界もあります。できる範囲で、さまざまな治療法を駆使し、良好な治療関係の元、良い方向を目指して行きたいと存じます。