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線維筋痛症①(病態)

線維筋痛症とは

とにかく、いつも全身が痛い、こわばるように痛い。いつまでも続く、刺されたような痛み、切られたような痛み、じりじりした痛み、ズーンとした重い痛み、突然襲いかかる激しい痛み。
全身が重い。重しが全身にいつも乗っているよう。水の中で生活しているよう。少しでも活動すると、何日も回復しない。 物忘れがひどい。思考力がおちている。頭がぼーっとする。
お腹の調子も悪い。
他にもいろいろな身体の症状がありすぎて説明できない。
気分が、わけもなく落ち込む。わけもなく不安になる。眠れない。寝付きが悪い。寝付いてもすぐに起きてしまう。
あまりのつらさで、のたうち回っていても‥‥‥誰も理解しようとしてくれない。誰にも理解されない。ときには、心ない言葉を投げかけられ、時に精神論でかたづれられてしまう。軽くあしらわれてしまう。
これだけ、辛いのに、社会は理解してくれない。社会的保障もない。社会支援も期待できない。かえって心ない対応をされてしまう。軽くあしらわれてしまう。

線維筋痛症(FM)は全身の痛みがつらく長く続いてしまう疾患ですが、自分以外の人や、医師にまでも理解されないことが多く、孤独な闘いを強いられます。

FMは、いまだに、その病因、病態の解明、治療法の確立が遅れており、この疾患の診療医療機関は全国的に数が少ないようです。

整形外科外来では、肩こり、腰痛などの痛みの患者さんの中に、線維筋痛症(FM)の患者さんがしばしば存在します。
わが国の報告において、2011年の改定診断基準(Wolfら)を満たした患者のうち、医療施設を受診しFMと診断されたのはわずか2.5%であったと報告しました(Nakamura Iら)。

またFMは過小診断や誤診されることの多い疾患であり主に診断基準および治療法などの医学的な不確実性が影響していると報告されています(Hauser Wら)。

さらに医師側の判断として
1、FMの認識と診断について十分な知識を持っていない可能性がある。
2、FMに対するスティグマを考慮し、診断を下すことを避けている可能性がある。
3、臨床診断を確認するための検査での客観的異常やバイオマーカーによる判断に慣れており、
FMなどのFSSに対する心理社会的アプローチや症状に基づく診断の不確実性に対する消極性の可能性がある。
4、FMは「存在しない」という考えによる可能性などを挙げています。

  • 日本線維筋痛症学会,日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班:線維筋痛症診療ガイドライン2017.日本医事新報社,東京,pp4-9, 2017
  • Nakamura: I,: Nishioka K, Usui C et al: An epidemiologic internet survey of fibromyalgia and chronic pain in Japan. Arthritis Care Res (Hoboken) 66: 1093-1101, 2014
  • H?user: W,: Puttini PS, Fitzcharles MA: Fibromyalgia syndrome: under-, over- and misdiagnosis. Clin Exp Rheumatol 37: 90-97, 2019

線維筋痛症世界啓発デー

近代看護の道を切り開いた、フローレンス・ナイチンゲールの生誕日である、5月12日に、線維筋痛症(FM)、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、化学物質過敏症(multiple chemical sensitivity:MCS)が世界各地で行われます。
本邦でも、開催される地区があるようです。

フローレンス・ナイチンゲールは、クリミア戦争に従軍の後、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)にかかっていたのではないかと言われています。
彼女は、その後、50年間をほぼ寝たきりの状態だったとも言われています。
そのような彼女にちなみ、看護の日と同じ日に、世界啓発デーが開催されることになりました。
線維筋痛症(FM)は、紫のリボン、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS」は、青のリボン、化学物質過敏症(MCS)は、緑のリボンで象徴されます。
そのことを踏まえて、各地で、大きな建造物に対して、紫、青、緑色のライトアップが行われています。

線維筋痛症を取り巻く医療社会状況

W Häuser,とMA Fitzcharlesは

「線維筋痛症は〝激しく物議をかもし出す状態〟である。線維筋痛症の〝闘争(war)〟は、「線維筋痛症(FM)」という診断名 の正当性と臨床的有用性、病態分類、病因と病態生理 の示唆、「所有権(「※線維筋痛症は私のもの)」、望ましい治療法などについて戦われている」。 ※個人的な解釈

「線維筋痛症の〝闘争(war)〟の中には、有効な科学的・臨床的進歩という目的よりも、医学や心理学の専門分野の信念体系、患者の自助団体の利益、製薬業界の経済的利益、個人的な学問的進歩のために争われるものもあるというのが、私たち(W Häuser & MA Fitzcharles)の見解である。」

と述べています。

W Häuser, MA Fitzcharles: Fact and myths pertaining to fibromyalgia. Dialogues in Clinical Neuroscience: 53-61, 2018

線維筋痛症の診断

提案されている、主な診断基準を示します。

米国リウマチ学会(ACR)診断予備基準(2010)

2010年診断基準は以下の3項目からなります。

  1. 定義化された慢性疼痛の広がり(疼痛拡大指数:widespread pain index: WPI)が一定以上あり、かつ臨床SSスコアが一定以上あること。
  2. 臨床徴候が診断時と同じレベルで3か月間は持続すること。
  3. 慢性疼痛を説明できる他の疾患がないこと。

この3項目を満たす場合に線維筋痛症(FM)と診断できる。

2011年改訂診断基準(Wolfeら)

2016年改訂診断基準(Wolfeら)

その他、さまざまな診断基準や質問表が存在します。

  • 日本線維筋痛症学会,日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班:線維筋痛症診療ガイドライン2017.日本医事新報社,東京,pp4-9, 2017 より抜粋

慢性疼痛の分類(ICD-11)

線維筋痛症はICD-11の分類において、慢性一次性疼痛のカテゴリーに分類されます。

  1. 慢性一次性疼痛 MG30.0(例:過敏性腸症候群、非特異的腰痛、線維筋痛)
  2. 慢性がん関連疼痛 MG30.1(例:慢性がん疼痛、慢性化学療法後疼痛)
  3. 慢性術後および外傷性疼痛 MG30.2 (例:切断後の慢性疼痛、火傷後の慢性疼痛)
  4. 慢性二次性筋骨格痛 MG30.3(例:持続性炎症による慢性筋骨格痛、変形性関節症に関連する)
  5. 慢性二次性内臓痛 MG30.4(例:持続性炎症または血管機構からの慢性内臓痛)
  6. 慢性神経障害性疼痛 MG30.5(例:有痛性ポリニューロパチー、脳卒中後疼痛)
  7. 慢性二次性頭痛または口腔顔面痛 MG30.6(例:慢性口顔面筋痛)
  8. その他の特異性のある慢性疼痛 MG30.Y
  9. 慢性疼痛(分類不能)MG30.Z

線維筋痛症の病態の概要

Siracusa R , Di Paola R, Cuzzocrea S, et al: Fibromyalgia: Pathogenesis, Mechanisms, Diagnosis and Treatment Options Update. Int. J. Mol. Sci. 22: i-32, 2021,

線維筋痛症病態としての痛覚変調性疼痛

近年、線維筋痛症は、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に次ぐ、第3の痛みとして痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)の代表的疾患であると明言されるようになりました。

痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)とは、末梢侵害受容器の活性化を引き起こす、実質的または切迫した組織障害の明確な証拠がないにも関わらず、あるいは、痛みを引き起こす体性感覚系に疾患や病変の証拠がないにもかかわらず、侵害受容が変化することによって生じる痛みと定義されています。

本邦における、2022年の線維筋痛症(FM)ついての論文によると、FMは中枢感作症候群(central sensitization syndrome:CSS)の一つであり、痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)の代表的疾患であると述べています。

慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編: 慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易(株)医書出版部, 東京, 2021
松本美富士:線維筋痛症の臨床:痛覚変調性疼痛とその治療. 現代医学69(1): 44-49, 2022
臼井千恵:線維筋痛症. 臨床精神薬理 25: 513-519, 2022
三木健司:線維筋痛症はどんな病気なの?どうすればいいの?どう支えていく?. 難病と在宅ケア 28(6): 38-42, 2022

痛覚変調性疼痛とは

Fitzcharles MA, Cohen SP, Clauw DJ, Littlejohn, Usui C, H?user W: Nociplastic pain: towards an understanding of prevalent pain conditions. www.thelancet.com 397: 2098-2110, 2021

によると

パネル1:痛覚変調性疼痛の診断に関する包括的原則

  • 以下を含む詳細な病歴
    • 痛みの訴え
    • 関連する疲労と睡眠障害
    • 付随する気分や記憶障害
    • 感覚刺激に対する過敏性など、その他の身体症状
    • 主訴である疼痛から離れた他の臓器系症状
    • 機能的状態
  • 末梢性疼痛の誘因となりうる他の疾患(例:変形性関節症、末梢神経障害)を特定するための総合的な身体診察
  • 病態に特異的な選択的検査(例えば、臨床検査、画像診断、関連ガイドラインで推奨されている特異的検査)
  • 症状に特異的な質問票の選択的使用(例:睡眠、気分、疲労、または全体的機能)
  • 痛みの重症度の評価(例:軽度、中等度、重度)
  • 不必要な検査や専門医の紹介を避ける

パネル2:痛覚変調性疼痛症候群を示唆する病歴の手がかり

  • 小児期および思春期の疼痛症状(例:頭痛、腹部、腰部)
  • 全身症状(例:疲労、認知障害)
  • 環境刺激に対する過敏症(例:光や音)
  • 精神症状(不安や抑うつなど)
  • 精神的負担が大きい症状
  • 慢性疼痛や精神疾患の家族歴
  • 医療サービスの利用が多い(例:医師の診察や検査が多い)
  • 従来の鎮痛薬(オピオイドを含む)に対する反応が悪い、または全くない。

EULAR=European League Against Rheumatism(欧州リウマチ連盟)

パネル3:痛覚変調性疼痛治療の包括的原則

  • 第一段階として望ましい非薬物療法
    • 症状の妥当性を認める医師と患者の信頼関係
    • 患者教育
      • 神経系の亢進、感作、発火など、簡単な用語を用いて神経生理学的メカニズムを伝えること
      • 治療戦略の説明
      • 現実的な期待
    • 自己管理と内的コントロールの促進
    • 生活参加の継続(仕事、身体活動、社会活動など)
    • 良好な生活習慣の維持
      • 健康に関連した身体活動
      • 食事と体重の管理
      • 適切な睡眠衛生
      • ストレスの軽減
    • 心理療法
      • 認知行動療法
      • 受容に基づく療法
      • その他の治療法(催眠療法や精神力動療法など)
  • 心理療法
    • 認知行動療法
    • 受容に基づく療法
    • その他の治療法(催眠療法や精神力動療法など)
  • 精神的併存疾患(うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害)の精神医学的-心理療法的治療
  • 学際的治療(可能な場合)
  • 適応があれば、医師による治療
  • 理学療法、カイロプラクティック治療、鍼治療、マッサージ、自然療法
  • 薬物療法
    • 中枢作用薬(疼痛調整薬)
      • 三環系抗うつ薬
      • セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬
      • ガバペンチノイドなどの膜安定剤
    • 単純な鎮痛薬や非ステロイド性抗炎症薬は効果が小さい。
    • オピオイドは効果が低く、重大なリスクを伴うので避けるのが理想的である。
  • 神経調節(脳刺激や経皮的アプローチを含む)およびその他の中枢作用薬(N-メチル-D-アスパラギン酸拮抗薬や大麻由来薬など)は、特定の患者に対して可能性があるかもしれないが、さらなる研究が必要である。

Analgesic, Anesthetic, and Addiction Clinical Trial Translations Innovations Opportunities and NetworksおよびAmerican Pain Society Pain Taxonomy Diagnostic Criteria for Fibromyalgia.41から推定。

Fitzcharles MA, Cohen SP, Clauw DJ, Littlejohn, Usui C, Häuser W: Nociplastic pain: towards an understanding of prevalent pain conditions. www.thelancet.com 397: 2098-2110, 2021

線維筋痛症に対する理解の新たなパラダイム

2013年に1か月違いで、線維筋痛症臨床における革新的な2つの論文が報告されていました。

最初に報告された論文は、ドイツのヴュルツブルク大学の 神経学教授であるヌルカン・ユセイラー(Nurcan Üceyler)らによるもの、次に報告された論文は、米国ハーバード・メディカルスクール・マサチューセッツ総合病院、神経内科医教授であるアン・ルイーズ・オークランダー(Anne Louise Oaklander)らによるものでした。

それによると、線維筋痛症(FM)の一部は小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFN)であり、原因は不明ではなく、一部のFMはSFNとして病理学的に明らかに証明できるものであると述べました。

この報告以来、欧米の線維筋痛症(FM)に対する理解に、SFNの病理が加わり、議論の的となりました。

以後、同様の報告が、数多くなされるようになりました。

  • Üceyler N, Zeller D, Kahn AK, et al: Small fibre pathology in patients with fibromyalgia syndrome. Brain 136(6): 1857-1867, 2013
  • Oaklander AL, Herzog ZD, Downs H et al: Objective evidence that small-fiber polyneuropathy underlies some illnesses currently labeled as fibromyalgia, Pain 154(11): 2310-2316, 2013

線維筋痛症の病態:最新の欧米の3つの論文(Ⅰ~Ⅲ)に論じられている病態論

以下の3つが、最新の線維筋痛症の病態に対するレビューの論文です。

Ⅰ、線維筋痛症の病態生理

Gyorfi M, Rupp A, Abd-Elsayed A: Fibromyalgia Pathophysiology. Biomedicines 10: 1-10, 2022 より要約

このレビュー論文では、線維筋痛症の病態を以下に分類して述べています。

  1. 線維筋痛症における異常な疼痛シグナル
    中枢感作ではなく「感覚入力の中枢増強」
  2. 線維筋痛症のイメージング
    SPEC、PETおよびfMRIによる脳画像
  3. 線維筋痛症における小径線維ニューロパチー
  4. 線維筋痛症の遺伝学
  5. 線維筋痛症における環境トリガー

Ⅱ、線維筋痛症に関する事実と神話

W Häuser, MA Fitzcharles: Fact and myths pertaining to fibromyalgia. Dialogues in Clinical Neuroscience: 53-61, 2018 から要約あるいは抜粋して記載

このレビュー論文において、
「カナダ、ドイツ、欧州リウマチ学会(EULAR)のFMに関する学際的なエビデンスに基づいた臨床ガイドラインに基づき線維筋痛症の神話と事実、特に精神衛生の専門家(精神医学、心身医学、臨床心理学)と神経科医が賞賛する神話に焦点をあてて論じる。」
と述べており、以下が神話と事実です。

1,事実:症状の妥当性

線維筋痛症の診断ラベルは「疾患」や「病気」ではなく、「障害」という意味で妥当である。

2,分類
  1. 事実:線維筋痛症は痛みの病気である
  2. 神話:線維筋痛症は「仮面うつ病」である
  3. 神話:線維筋痛症は持続的な「身体表現性疼痛障害」である
  4. 神話:線維筋痛症は「身体症状症」である。
  5. 一部事実:線維筋痛症は脳の障害である
  6. 一部事実:線維筋痛症は小径線維ニューロパチーである
3,診断
  1. 神話:線維筋痛症は除外診断であり、リウマチ専門医による圧痛点が必要である
  2. 神話:線維筋痛症は中年女性に発症する病気である
4,管理
  1. 神話:線維筋痛症は患者にとっても医師にとっても役に立たない診断である
  2. 少数事実:線維筋痛症の症状に対する、抗うつ薬、抗けいれん薬、抗精神病薬のクラス効果
  3. 神話:FDA(アメリカ食品医薬品局承認)の薬物(デュロキセチン、ミルナシプラン、プレガバリン)は、効果的で忍容性が高い
  4. 神話:精神力動療法は線維筋痛症を治す
5,結論:線維筋痛症分野の進歩
  • 線維筋痛症の生物的・心理的・社会的モデル:神経学的基盤を強調した、線維筋痛症の素因、誘発、および慢性化における心理的、社会的要因の重要性を含む
  • 学際的なエビデンスに基づくガイドライン:精神的苦痛のスクリーニングと、併存する精神障害がある場合、メンタルヘルスケアの専門家への紹介を推奨する。
  • 学際的なエビデンスに基づくガイドライン:非薬物療法(有酸素運動、認知行動療法)を促進し、「悲惨に対する過度の医療化(薬剤による治療)」を減らす必要性を強調する。

Ⅲ、中枢性感作症候群と小径線維ニューロパチーとの間の線維筋痛症のパズル:神経生理学的および形態学的エビデンスに関するナラティブ・レビュー

De Tommaso M, Vecchiol E, Nolano: The puzzle of fibromyalgia between central sensitization syndrome and small fiber neuropathy: a narrative review on neurophysiological and morphological evidence. Neurol Sci 43(3) : 1667-1684, 2022のまとめ(Conclusion)から引用

線維筋痛症は小径線維ニューロパチーに類似した症状から、神経因性疼痛に典型的な特徴まで、幅広い表現型のスペクトラムを持つ疾患である。

線維筋痛症の事例は、機能的・解剖学的変化が、末梢もしくは中枢のどちらかに限定されない、それ以外の神経疾患として拡大される。さらに、中枢と末梢の複雑な相互作用は、多くの神経疾患の管理について、新たなシナリオに展開する。

第1の未解決の問題は、線維筋痛症が、末梢性なのか中枢性なのか、その起源である。非長さ依存性小径線維ニューロパチー(NLDSFN)が線維筋痛症の初期症状なのか、あるいはストレスに関連した(脳の)島皮質の過剰興奮の結果なのかは、まだ不明である。

末梢性・求心性神経(小径線維)の(伝達による)軽度の苦痛は、おそらく、遺伝的または免疫学的に決定され、素因のある人々における、いわゆる「salience matrix(突出したマトリックス)」に対する過剰反応のトリガーとしてはたらく可能性がある。したがって、共通の遺伝的領域が、末梢の軽い除神経(denervation)と、大脳皮質の過剰興奮を説明できる可能性がある。

一方、動物モデルから得られた興味深い仮説は、大脳皮質の機能亢進が、末梢の小さな求心性神経(小径線維)の損傷を引き起こす可能性があることを示している。

このような末梢性および中枢性の異常の、遺伝学的または免疫学的な起源、後天的な促進因子、および、さまざまな表現型の存在についての研究を進め、まだ不足している有効な治療法を探す必要がある。

中枢感作の徴候、精神病理学的特徴、自律神経の関与を考慮した、慎重な神経学的検査は必須である。

小径線維ニューロパチーのルーチンのスクリーニングは、少なくとも治療可能な原因を認識し、さらなる治療戦略、および現在の利用可能な薬剤の反応が予測される、可能性のある要因を探求するのに有効であろう。

線維筋痛症に対する小径線維ニューロパチーと中枢性感作の〝闘争(war)〟

欧米のFM臨床の世界では、FMの病態理解に対する、中枢性感作症候群(CSS)と小径線維ニューロパチー(SFN)の関連についての議論が多数あります。

実際、由緒ある米国の医学雑誌「PAIN(ペイン)」において、

2015年、ミシガン大学アナーバー校慢性疼痛および疲労研究センター、麻酔学・リウマチ学・精神医学の教授および所長であるダニエル・ジェイ・クロウ(Daniel J Clauw)は、その誌上で、小径線維ニューロパチー(SFN)の報告に対して「小径線維ニューロパチーが線維筋痛症の痛みの〝原因〟であるという考えにうんざりしている」と意見を述べ、さらに「中枢性感作が主要な病態であるという圧倒的な証拠がある」とも述べています。

Clauw DJ: What is the meaning of "small fiber neuropathy" in fibromyalgia? Pain 156(11): 2115-2116, 2015

2016年、その論文に対して、アン・ルイーズ・オークランダー(Anne Louise Oaklander)は、次の年の雑誌「PAIN(ペイン)」上で、「脳の可塑性が関与することには同意する。しかし、中枢性感作が主要な病態である可能性は低い。」と反論しています。

Oaklander AL: What is the meaning of "small-fiber polyneuropathy" in fibromyalgia? An alternate answer. Pain 157(6): 1366-1367, 2016

主張1

SFNとFMの間で多様なケラチノサイト(角化細胞:皮膚の最外層の表皮に存在する主要な細胞であり、ヒトでは表皮の細胞の90%を占める)のトランスクリプトーム(mRNAの総称)・シグネチャー(2群間を分類する際に使用される特徴的な遺伝子)が得られており、両者の小径線維感受性の病理メカニズムが異なることを示唆し、高度診断の基礎となることが期待される。

Karla F, Bischlerb T, Egenolfa N et al: Fibromyalgia vs small fiber neuropathy: diverse keratinocyte transcriptome signature. Pain 162(10): 2569-2677, 2021

主張2

線維筋痛症(FM)の中枢メカニズムの1つとして同定されている島における興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)の増加との関連性が示唆されており、表皮内小径線維密度(IENFD)を減少させる可能性がある。
つまり、中枢神経系の変調がSFNにつながる可能性がある。

Harte SE, Clauw DJ, Hayes JM, et al. Reduced intraepidermal nerve fiber density after a sustained increase in insular glutamate: a proof-of-concept study examining the pathogenesis of small fiber pathology in fibromyalgia. PAIN Rep 2: e590.,2017

主張3

病理学的に証明された小径線維ニューロパチー(SFN)患者の大脳辺縁系および疼痛処理領域において、構造的および機能的な障害が確認された。
脳形態計測とfMRIを組み合わせることによって、SFNのバイオマーカーを得ることができ、疾患の重症度と中枢神経の関与との関連性を客観的に評価することができる。
神経障害性疼痛の末梢感作に加えて、皮膚の変性の伴う脳内反応の低下も明らかになり、末梢神経障害による神経障害性疼痛の中枢メカニズムにも光が当てられた。

Hsieh PC, Tseng MT, Chao CC, et al: Imaging signatures of altered brain responses in small-fiber neuropathy: reduced functional connectivity of the limbic system after peripheral nerve degeneration. Pain 156(5): 904-916, 2015

主張4

線維筋痛症(FM)と診断された患者のうち、小径線維ニューロパチー(SFN)が確認された患者とされなかった患者では、ほとんどの症状が同程度の重症度で認められ、これらの集団が重複していることがさらに証明された。
また、いくつかの症状、すなわち、知覚異常の存在と重症度、末梢性自律神経障害の集合的な症状は、症状のある患者間のスクリーニングに予測的な有用性を持つかもしれない。
さらなる努力が必要である。

Lodahla M , Treisterb R, OaklanderaAL: Specific symptoms may discriminate between fibromyalgia patients with vs without objective test evidence of small-fiber polyneuropathy. Pain reports 3: 1-6, 2018

主張5

線維筋痛症患者の大きなサブグループに小径線維ニューロパチーが認められたことは、自律神経失調症神経障害仮説を補強し、線維筋痛症の痛みを検証するものである。
これらの新しい知見は、線維筋痛症が主として神経学的なものであることを支持するものである。

LavÍn M: Fibromyalgia and small fiber neuropathy: the plot thickens!. Clinical Rheumatology37: 3167-3171, 2018

主張6

線維筋痛症(FM)患者における小径線維ニューロパチー(SFN)が確認されたことにより、治療、特に神経障害性疼痛の治療において何らかの示唆を与えることが期待される。
これまでFMは、病態生理のはっきりしない曖昧な疾患として扱われ、その診断も主観的な基準に基づいて行われてきた。
FMにおけるSFNの研究は強固であり、一部の患者では末梢組織病変の基本的な要素があることが示唆されている。
さらに、SFNはFM患者において容易に検出され、診断をより客観的なものにする。さらに、FM で見られる症状の多くは、免疫介在性である可能性が高いという結論に至る。
残念ながら、この研究は一部の患者にしか適用できず、FMやSFNが持つ複雑性のすべての側面を説明するためには、まだまだ研究が必要である。

Swiecka M, Maslinska M , Kwiatkowska B: Small fiber neuropathy as a part of fibromyalgia or a separate diagnosis? .Int. J. Clin. Rheumatol 13(6): 353-359, 2018)

主張7

線維筋痛症の診断基準の改訂により、かえって線維筋痛症とSFNを区別することはできない。
線維筋痛症とSFNを区別するためには皮膚生検、レーザー誘発電位、QST、角膜共焦点顕微鏡を行うとよい。
正しい診断ができれば、患者に適切な情報を提供することができ、薬物療法や非薬物療法を適応させることができる。
患者のケアを向上させるために、これら2つの疾患の個別化に関するさらなる研究が必要である。

Bailly F: The challenge of differentiating fibromyalgia from small-fiber neuropathy in clinical practice. Joint Bone Spine 88, 2021

主張8

線維筋痛症(FM)は小径線維ニューロパチー(SFN)と中枢性感作症候群(CSS)の複雑な相互作用による幅広い表現型をもつ疾患である。

de Tommaso, Vecchio E, Nolano M: The puzzle of fibromyalgia between central sensitization syndrome and small fiber neuropathy: a narrative review on neurophysiological and morphological evidence. Neurological Science 43. 1667-1684, 2022

主張9

線維筋痛症(FM)のある症例では中枢神経を介したプロセスが、他の症例では末梢神経を介したプロセスが原因であり、おそらくは、その2つの組み合わせである可能性がある。

Kelley MA, Hackshaw KV: Intraepidermal Nerve Fiber Density as Measured by Skin Punch Biopsy as a Marker for Small Fiber Neuropathy: Application in Patients with Fibromyalgia

慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編: 慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易(株)医書出版部, 東京, 2021
W Häuser, MA Fitzcharles: Fact and myths pertaining to fibromyalgia. Dialogues in Clinical Neuroscience: 53-61, 2018

線維筋痛症の末梢病態としての小径線維ニューロパチー

Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve System Disease 10:
1-6, 2018より引用

病態仮説1:DRG(後根神経節)核の変性

Dorsal root ganglia : fibromyalgia pain factory?(後根神経節は線維筋痛症の痛みの工場?)というタイトルの論文が報告されました。

Lavin MM: Dorsal root ganglia: fibromyalgia pain factory ?. Clin Rheumatol 40(2): 783-787, 2021

DRG核の変性により、細長い神経単位の代謝ニーズを維持できなくなり、軸索遠位の神経の退縮を引き起こす可能性があります。

Lavin MM: Dorsal root ganglia: fibromyalgia pain factory?. Clin Rheumatol 40(2): 783-787, 2021

DRGは痛みの工場?

後根神経節(DRG)は、さまざまなストレッサーを感知して、線維筋痛症などの慢性の痛み(神経障害性疼痛)に変換するハブではないか?「痛みの工場」ではないか?との意見があります。

Lavin MM: Dorsal root ganglia: fibromyalgia pain factory?. Clin Rheumatol 40(2): 783-787, 2021

DRGに対するさまざまなストレッサー

※後根神経節(DRG)が障害を受ける原因を下に示します。
身体を守るために真っ先に反応する器官として発達したのだと考えます。
しかし、強い痛みはヒトを苦しめてしまいます。

そこまで痛みを感じるシステムを創らなくてもよかったのに、進化のミスマッチなのでしょうか?
後根神経節(DRG)のせっかくの情報を、まともに受け取ることのできない、未発達の脳のせいなのでしょうか?

Lavin MM: Dorsal root ganglia: fibromyalgia pain factory?. Clin Rheumatol 40(2): 783-787, 2021

病態仮説2:神経障害性微小血管障害(neuropathic microvasculopathy)

OaklanderとNolanoは、SFNによる神経障害性微小血管障害(neuropathic microvasculopathy)により線維筋痛症に痛みが出現すると述べました。

Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

Albrechtらの報告:線維筋痛症(FM)患者のAVシャント(AVS)と神経支配

線維筋痛症(FM)患者のAVシャント(AVS)と神経支配は、正常な人とはずいぶん違っていることが分かりました。

Albrechtらは、AVシャント(AVS)が、最も多く分布している、手のひらの皮膚生検を行った研究を報告しました。
以下が、この結果です。

線維筋痛症(FM)患者のAVシャント(AVS)は、正常の人のAVシャント(AVS)より拡大しており、正常の人の支配神経は交感神経が多いのですが、線維筋痛症の人は、感覚・運動神経が多くなっていました。

※感覚・運動神経は偽単極性ニューロンでありDRGに神経細胞体を持ちます。DRG核が有害刺激を受け、手掌の、AVシャント(AVS)の神経支配が拡大することに対して、病態の理解が困難です。

ところが、交感神経の受容体であるはずのα2(α2C)受容体が、線維筋痛症(FM)患者では発現していました。

このことは、交感神経が、感覚・運動神経を抑制しようとする働きを獲得していることが分かります。
※線維筋痛症(FM)の発症に抗っているのでしょうか?

正常の人と比べて線維筋痛症(FM)患者は、AVシャント(AVS)の数には変化はありませんでした。

線維筋痛症(FM)患者のAVシャント(AVS)の全神経支配領域は拡大していました。

正常の人も線維筋痛症(FM)の人も、血管平滑筋の大きさ、細動脈および細静脈の神経支配領域に変化はありませんでした。

以上のことから線維筋痛症(FM)患者は、AVシャント(AVS)が開くことが多くなることになり、身体の血液の多くを皮膚のシャントの中にため込むことになり、身体全体を回る血液(有効血液循環量)と骨格筋の血液量が少なくなります。
また、血液が手のひらに届かないため、冷えに弱くなり、感覚・運動神経は痛みの神経でもありますから、手指に強い痛みを感じるようになります。

ヌルカン・ユセイラー(Nurcan Üceyler)らアン・ルイーズ・オークランダー(Anne Louise Oaklander)らは、線維筋痛症(FM)患者の表皮内神経線維密度(intraepidermal nerve fiber density :IEFD)、つまり、皮膚(表皮)の中の、神経線維の数を調べることにより、線維筋痛症(FM)の一部は小径線維ニューロパチー(SFN)であることを証明しました。

下図のように、線維筋痛症(FM)患者の神経線維は減っています。

正常の人と線維筋痛症(FM)患者の、平均・表皮内・神経線維密度(IEFD)は、
無毛皮膚(glabrous skin )では、変わらず(有意差なし)、
有毛皮膚(hairy skin)では、明らかに減少していました(有意差あり)。

このことは、平均・表皮内・神経線維密度(IEFD)の低下は、(圧痛のある)線維筋痛症(FM)の痛みを直接に表現していないと言えます。
つまり、有毛皮膚(hairy skin)の平均・表皮内・神経線維密度(IEFD)の低下が痛みを発しているとは言えないということです。

Albrecht PJ, Hou Q, Argoff CE, et al: Excessive Peptidergic Sensory Innervation of Cutaneous Arteriole-Venule Shunt(AVS) in the Palmer Glabrous Skin of Fibromyalgia Patient: Implications for Widespread Deep Tissue Pain and Fatigue.

Dori Aらの報告:筋の血管周囲のUAS比についての研究

Dori A, Lopate G, Keeling R, et al: Myovascular innervation: axon loss in small-fiber neuropathies.Muscle & Nerve: 514-521, 2015

UAS比とは、筋の、非髄鞘化(Unmyelineted)の軸索(Axon) と シュワン細胞(Schwann cell)の割合、比のことです。

非髄鞘化の軸索とは、C線維の軸索であり、非髄鞘化のシュワン細胞とは、有髄神経のようにバームクーヘンみたいに取り囲んでいるのではなく、まるでC線維を溝にはめているような入れ物みたいなものです。

C線維の軸索が退化してなくなってしまうと、空っぽのシュワン細胞だけが残され、UAS比は小さくなります。
下図は、正常な人と小径線維ニューロパチー(SFN)患者の、無髄神経(C線維)と非髄鞘化のシュワン細胞を特殊な方法で染色したも標本です。

小径線維ニューロパチー(SFN)では、無髄神経(C線維)がなくなっています。
でも、空っぽのシュワン細胞は残っています。

小径線維ニューロパチー(SFN)ではUAS比が明らか(優位)に小さいという結果がでました。

低UAS比(カットオフ値0.25)は小径線維ニューロパチー(SFN)の臨床診断に対して、感度 90%、特異度 91%という結果でした。

下図は、AとDが正常の人の、無髄神経(C線維)と非髄鞘化のシュワン細胞です。
軸索は途切れることなく、ほぼ均一の幅で、つながっています。

B、C、Eは小径線維ニューロパチー(SFN)患者のものです。
軸索はビーズ状であり、不規則なシュワン突起が観られます。シュワン細胞が空っぽであることに由来します。

その他の研究結果は以下のとおりです。

低UAS比(0.25)の患者は、自律神経系の異常が63%、正常UAS比の患者は、自律神経系の異常が0%であった。

低UAS比(0.25)の患者は、長さもしくは非長さ依存性の疼痛、温度感覚の喪失が19人中10人、正常UAS比の患者は、長さもしくは非長さ依存性の疼痛、温度感覚の喪失が12人中2人であった。

下肢皮膚の平均・表皮内・神経線維密度(IEFD)と筋の血管周囲のUAS比は、相関がありました。

線維筋痛症における小径線維ニューロパチー以外の末梢病態仮説

病態仮説3:虚血・再灌流障害(IRI)と誇張された運動昇圧反応(exaggerated EPRs)

虚血はほとんどの場合、永続的ではなく、血流は少なくとも部分的に再確立されます。
このことにより、ミトコンドリア機能を損ない、筋線維を損傷し、アポトーシスを促進させるフリーラジカルおよび過酸化水素のような活性酸素種(ROS)の生成を特徴とする、複雑な、虚血・再灌流障害(ischemia-reperfusion injury:IRI)が生じます。

さらに、再灌流段階では、筋の微小血管系は、その透過性の増加と損傷へ至り、損傷組織に活性化したリンパ球が隔離されやすくなります。

主にマクロファージと好中球は、インターロイキン-1(IL-1)や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF )などの痛覚促進サイトカインを放出します。

ラジカル酵素を含む細胞内顆粒は、細胞の損傷をさらに増大させ、ひいては障害に対する免疫反応を増大させます。

末梢血流障害における筋痛発生の基本的メカニズムは、虚血・再灌流の長さが関係すると報告されています。

Queme LF, Ross JL, Jankowski MP: Peripheral Mechanisms of Ischemic Myalgia. Front Cell Neurosci 11: 1-15, 2017

虚血性損傷を起こした筋のfascia(間質)にはATP、乳酸、低pH:プロトン(H+)などの代謝産物や過酸化水素など有害なフリーラジカルが発生し、それらの刺激にⅢ・Ⅳ群線維(Aδ・C線維)が反応します。
虚血状態ではⅣ群線維(C線維)が優先的に活性化します。

ATP、乳酸、低pH:プロトン(H+)の3つがそろった時のみ機械的疼痛過敏を誘発することができると報告されています。

Ⅲ群(Aδ線維)の約70%が機械的感受性を持つのに対して、Ⅳ群(C線維)は約30%が機械的感受性を持ち、60%以上が化学的感受性を有しています。

化学的に敏感な神経ニューロンには、低代謝物応答(pH7.4-7.0で増加)ニューロンと高代謝物応答(pH7.0-6.6で増加)ニューロンが存在することが分かりました。

低代謝物応答(pH7.4-7.0で増加)ニューロンは正常時に働く求心性神経のグループで高代謝物応答(pH7.0-6.6で増加)ニューロンは、虚血性損傷時に生成される代謝物の濃度を感知する求心性神経のグループです。

低代謝物(pH7.4-7.0)の混合物を筋肉内に注射された被験者は筋肉の疲労を訴え、高代謝物(pH7.0-6.6)の混合物を筋肉内に注射された被験者は筋肉の痛みを感じたと報告されています。

虚血・再灌流損傷(IRI)後には、低代謝物反応性が高まり、後根神経節(DRG)内の代謝受容体の数が損傷を受けていない対照群に比べて減少していました。

虚血性損傷後の後根神経節(DRG)の構成が切りかわることを示唆しています。

Queme LF, Ross JL, Jankowski MP: Peripheral Mechanisms of Ischemic Myalgia. Front Cell Neurosci 11: 1-15, 2017

筋の虚血性損傷が起きると、Ⅲ群(Aδ線維)とⅣ群(C線維)の筋求心性神経からの情報は、脊髄を経て、脳幹の心血管調節中枢の複数の核を活性化し、脊髄の交感神経節前線維および交感神経幹を通り、心血管系の反応を調節します。

つまり、筋に多くの血液を送るために、筋から発した情報が心血管調節中枢に直接働きかけるということです。
このことを運動昇圧反応(exercise pressor reflex :EPR)といいます。
しかし、虚血性筋痛(IM)においては、後根神経節(DRG)内の受容体が過剰発現(中枢感作)し、このことによりEPRが誇張され(exaggerated EPRs)、交感神経が持続的に過緊張し、同時に、痛みの中枢への伝達が強くなり、虚血性損傷の臨床的に重要な合併症になる可能性があります。

Queme LF, Ross JL, Jankowski MP: Peripheral Mechanisms of Ischemic Myalgia. Front Cell Neurosci 11: 1-15, 2017

虚血性損傷を来した筋ではNGF、グリア細胞株由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor:GDNF)およびIL(interleukin)1βなどの炎症サイトカインなどが発生しⅢ・Ⅳ群線維(Aδ・C線維)の自由神経終末や後根神経節を刺激します。
そして虚血性損傷を来したそれらの神経の後根神経節では多様なチャネルや受容体が発現し痛みの末梢性感作(peripheral sensitization:以下PS)および中枢性感作(central sensitization:CS)に関連します。

Queme LF, Ross JL, Jankowski MP: Peripheral Mechanisms of Ischemic Myalgia. Front Cell Neurosci 11: 1-15, 2017

病態仮説4:ファッシアの変化

F Kondrup, N Gaudreault, G Venne: The deep fascia and its role in chronic pain and pathological condition: A review. Clinical Anatomy (35): 649-659, 2022

参考サイト(英語字幕と日本語翻訳により、日本語の字幕で、観ることができます。)

ジネブラ・リプタン医師線維筋痛症の隠れた原因:ファッシア

その他の病態仮説

病態仮説5:Fascial preadipocytes(ファッシア前脂肪細胞)

Bordoni B, Marelli F, Morabito B, et al: Fascial preadipocytes: another missing piece of the puzzle to understand fibromyalgia ?. Open Access Rheumatology Research and Reviews 10: 27-32, 2018

病態仮説6:先天性もしくは後天性の脆弱性要因である起立不耐症(OI)

永田勝太郎:機能性身体症候群(FSS)としての慢性疼痛-線維筋痛症の臨床から-. 慢性疼痛32(1): 25-32, 2013

病態仮説7:交感神経の発芽(sprouting)によりDRG細胞を取り囲む現象(basket formation)

Zheng Q, Dong X, Green DP, et al: Peripheral mechanisms of chronic pain. Med Rev 2(3): 251-270. 2021

病態仮説8:皮下の神経末端の変化

Peppin JF, Albrecht PJ, Argoff C, et al: Skin Matters: A Review of Topical Treatments for Chronic Pain. Part One: Skin Physiology and Delivery Systems. Pain Ther 4: 17-32, 2015

病態仮説9:エピジェネティック

Mauceri D: Role of Epigenetic Mechanisms in Chronic Pain. Cells 11: 1-16, 2022

病態仮説10:炎症

Chen R, Yin C, Fang J, et al: The NLRP3 inflammasome: an emerging therapeutic target for chronic pain. Journal of Neuroinflammation18(84): 2-12, 2021

線維筋痛症発症の全体的な病態仮説

1,慢性機能障害性身体的苦悩CDBD(線維筋痛症)に至る過程

Roenneberg C, Sattel H, Schaefert R, et al: Functional somatic symptoms. Dtsch Arztebl Int 116: 553-560, 2019
Henningsen P, Zipfel S, Sattel H, et al: Management of Functional Somatic Syndromes and Bodily Distress. Psychother Psychosom 87: 12-31, 2018

2,環境刺激と線維筋痛症候群の簡略化されたベンマップ

外部環境の刺激は、物理的刺激から非物理的刺激までの2重の連続体に沿って存在し、負の影響から、正の影響までにわたって存在します。
身体的外傷は、しばしば心的外傷の要素を含有し、両者とも否定的な影響の極端さを表しています。
ストレッサーは負の影響を及ぼし、身体的ではない知覚を含むことができ、また、ネガティブからポジティブな影響の度合いも持つ。すべてが外部環境の影響全体に寄与しています。

外部環境は、潜在的な自律神経恒常性維持機構と意識的な心の声から生み出される内部環境を直接的に制御します。
個人の情動を含有する内部環境は、生理的機能と行動の両方に直接影響を与え、その両方が内部環境と外部環境にそれぞれ影響を与えます。

外的ストレス要因による負の影響の増大、and/or 外的癒やしの減少は、自律神経の恒常性維持 and/or 負の心の声(すなわち、破局的;D型パーソナリティ)の調節障害を通じて、負の内部環境を作りだす可能性があります。
線維筋痛症候群では、刺激の中枢処理の変化や生理機能の衰弱した変化は、これらの環境を負の影響を受ける方向に偏らせる事象に関連している可能性があります。
負の内部(影響)環境が変化した生理と行動を促し、外部環境と内部環境の負の影響を強化するフィードフォワードサイクルが確立されます。

Albrecht PJ, Rice FL: Fibromyalgia syndrome pathology and environmental influences on afflictions with medically unexplained symptoms. Rev Environ Health 31(2): 281-294, 2016

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