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起立不耐症 (起立性調整障害)

起立不耐症(orthostatic intolerance:OI)とは、起立中のめまい、たちくらみ、頭痛、倦怠感などの症状を呈し、横になることにより症状が緩和される近縁の病態の総称です。本邦では起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)と呼ばれることが多いようです。

OIには起立性低血圧(orthostatic hypotension:OH)、体位性起立頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)および血管迷走神経性失神(vasovagal syncope:VVS)などがあります。

★POTSの病名について:1982年にRosenらが体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome: PoTS)と報告し、1993年、Schondorfらは、この病態を体位性起立頻脈症候群(postural  orthostatic tachycardia syndrome: POTS)と命名しました。また欧州心臓病学会(European Society of Cardiology: ESC)、失神の診断と管理のためのガイドライン(実践的指示)2018年において、後者を採用していました。

よって、本ホームページでは、POTS=体位性起立頻脈症候群(postural  orthostatic tachycardia syndrome)としています。

起立不耐症研究会(POTS and Dysautonomia Japan)から以下のような小冊子がでています。

 

以下、

  1. 小児心身医学的見地からのOI(OD)
  2. 循環器科の見地からのOI
  3. 小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFN)の見地からのOI
  4. 線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の見地からのOI
  5. 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalopathy / chronic fatigue syndrome:ME/CFS)の見地からのOI
  6. 新型コロナウィルス感染症後症候群(long COVID)の見地からのOI

分類して述べます。

1,小児心身医学の見地によるOI(OD)

本邦の小児科では起立性調節障害(OD)の名称が一般的であるため、この章では起立不耐症(OI)ではなくODと表現します。

ODは頻度の高い病態で、一般中学生の約1割、小児科を受診する中学生の約2割を占めます。ODはあくまでも「身体機能異常(からだの異常)」が中心となる病態ですが、心理状態、社会状況とに関わりで悪化してしまう心身症の側面が強い疾患です。

日本小児心身医学会から、小児起立性調節障害診断・治療ガイドラインが報告されました。

OD 診断・治療ガイドラインより、抜粋してできるだけ分かりやすいようにしました。

子ども・家族用のガイドから

1,起立性調節障害(OD)とはどんな病気?

ODは自律神経の働きが悪くなり、

起立時に身体や脳への血流が低下する病気です。症状は午前中に強く、午後からは体調が回復します。

夜には元気になり、目がさえて眠れません。

2,起立性調節障害(OD)の症状

症状の程度は‥‥

  • 日によって異なる
  • 天候によって異なる
  • 一般に春先から夏に悪くなる

その他に‥‥

  • 慢性疲労、気分不良、動悸、寝付きが悪い
  • 失神発作、イライラ、頭痛、腹痛など

さらに、その他に‥‥

  • 脳の霧(brain fog)
    思考力低下、短期記憶障害
    語彙検索の困難さ(ことばがでてこない)
  • 成績の低下 など

3,なぜ起こるのでしょうか?(病態生理)

ODの病態生理は

サブタイプ(いろいろなタイプ)によって異なりますが、脳の自律神経中枢(大脳辺縁系、視床下部など)の機能が悪くなり、その結果、交感神経と副交感神経の働きが強すぎたり弱すぎたりして、両方のバランスが崩れてさまざまな症状が出現します。

また、遺伝的体質精神的ストレスに大きく影響を受けます。

4,だらだらして怠けているのではないですか?

そのような見方は正しくありません。

ODの子供は、疲れてだらだらしているように見えます。

特に午前中にひどく、朝なかなか起きられません。

それは、自律神経機能障害が午前中に著しいためです。

登校しぶりや「怠け」のように見えますが、そのような見方は正しくありません。

ODでは自律神経機能が悪いために、起立時に全身の血流が悪くなり、その結果、さまざまな症状が出現します。

特に、脳血流が悪いと、立ちくらみ、ふらふら、倦怠感だけではなく、思考力の低下、判断力の低下、イライラがひどくなります。

5,かかりやすい年齢と頻度

原因ははっきりしていませんが、現代の夜型社会や、複雑化した心理社会的ストレスが背景にあるといわれています。

6,日常生活や学校生活で注意すること

  • 水分を多くとりしましょう(1日 1.5~2 L)。
  • 塩分を多くとりましょう。いつもの食事に3g程、余分にとりましょう。(1日 10~12g

  • 寝た状態・座った位置から、急に立ち上がってはいけません。30秒以上かけてゆっくりと。
  • 朝起きるときは、上のイラストのように、頭を下げたまま歩き始めてください。頭を上げて立ち上がると、脳血流が低下して気分が悪くなります。1度気分が悪くなると、なかなか治りません。

  • 早寝・早起きなど、生活リズムを正しくしましょう。だるくても日中は体を横にしてはいけません。

  • 暑気は避けてください。
  • 学校の体育の見学は日陰か室内で。

7,どのような治療がありますか?

  • 毎日、運動しましょう。無理をせず、15分程度の散歩から始めます。
  • 水泳は身体にかかる重力が少ないので、おすすめです。

 

  • ODに効く薬がある場合があります。
    医師の指示に従って服用してください。
  • 薬はヘッドアップ・チルト試験などによって、
    ODのタイプを診断した後に、
    そのタイプに合わせて処方します。
    タイプによっては適切な薬がない場合があります。

 

 

 

 

  • その他に、OD予防装具があります。
    市販製品もありますが、詳しくは医師にご相談ください。

8,いつ頃に治るのでしょう

  • どのような状態を「治る」と考えるのか、それによって答えも変わります。
    ここでは、
    「身体症状があっても薬を服用せずに日常生活に支障が少なくなった状態」
    とします。
  • 軽症 :適切な治療が行われた場合、数カ月で改善します。しかし、翌年に再発する可能性もあります。
  • 中等症:日常生活に支障があります。1年後の回復率は約50%、2~3年後は70~80%です。
  • 重症 :不登校を伴います。1年後の復学率は30%であり、短期間での復学は困難です。社会復帰に少なくとも2~3年はかかると、考えたほうがよいでしょう。
  • 体力に見合った高校に進学した場合、第2~3学年になると90%程度が治ると考えられます。
  • 身体症状の残存率は、数年後でも20~40%といわれており、軽い症状は成人しても続く場合があります。

9,朝起きが悪いが、起こしたほうがよい?

朝起きが悪い理由

① 朝に交感神経の活性化が悪い。血圧が上がらないので、脳血流が維持できない。

② 午後から交感神経が活性化して、夜に最高潮になり、寝つきが悪くなる(入眠困難)。

③ 寝られないので遅くまで起きてしまい、また朝起きが悪くなる。

①~③が悪循環になり、ますます朝起きが悪くなります。

どれが一番問題なのか、まだわかっていませんが、①→③の順で病気が進むと考えたほうがよいでしょう。

多くの家族は③が一番問題だと考えてしまいます。

軽症の場合:親が声をかけるだけでなんとか起きます。

中等症以上の場合:大声だしても起きることができません

そこで、夜に早く寝かせようとして、怒鳴ったり、怒ったりするようになり、家族のほうがイライラして、親子関係の悪化につながります。

①が一番の原因と考えましょう。いくら大きな声で怒鳴っても、よい結果になりません。

そこで次のようにします。

  • 朝起こすとき、何回か声かけをする、でも怒らない。
  • カーテンを開けて朝日を部屋に入れ、布団をはがす。
  • 夜は眠くなくても、日常就寝時刻より30分早く布団に入るように努め、消灯する。

10,不登校が続いているが、どうすればよい?

ODに不登校を伴うことは、めずらしくありません。

過去の調査によると、約半数に不登校を伴います。

登校を阻害する5つの要因に対して適切な対応が必要です。

① 朝目覚めない、身体を起こすことができない。

体調が悪いのに、登校させると逆効果です。

体力が回復してから登校を促しましょう。

電車通学の場合は、座席に座れるように、ラッシュアワーを避けるのも一案です。

② 遅刻をするのが嫌、授業の途中では入りづらい。怠け者と言われそう。

③ 学校側の理解が乏しく、怠け者のレッテルをはられて、学校との信頼関係が損なわれている。

ODは病気です。

学校にもよく理解してもらい、午後からの登校や別室登校(保健室や相談室)を試みてください。

体力に自信がなければ、家族が付きそうようにしてください。

④ 周囲に気配りをする性格(過剰適応な性格傾向)で、実は学校生活に疲れはてている。

⑤ 子どもの家族に対する抑圧された依存感情(抑え込んでいた甘えたい気持ち)や反抗(両価性感情)が不登校によって満たされる。

④と⑤は、いわゆる「不登校」の子どもと共通した心のメカニズムが働いています。精神疲労が強い可能性もあります。十分な休養が必要ですので、登校や学習刺激はしばらく控えるのが

得策です。

親の過干渉は、病気の治療を遅らせます。

ODの詳しい説明

ODの4つのサブタイプ
動脈系の異常が関与する病態

1, 起立直後性低血圧:INOH

静脈系の異常が関与する病態

2,体位性起立頻脈症候群(体位性頻脈症候群):POTS

3,遅延性起立性低血圧:delayed OH

4,血管迷走神経性失神:VVS

★ hyper response型:新しいサブタイプ、起立後脳血流のみ低下
ODの必須の検査

ヘッドアップチルト試験(当院ではParamaTec社nico PS-501を使用)

非薬物治療

その他、血液検査や24時間血糖値測定の結果より食事療法やサプリメントを勧めるときがあります。

薬物治療
塩酸ミドドリン(α受容体刺激薬)

早朝と夕食後(眠前)投与から開始、1日8mgまで

血圧上昇は8週目ごろから

服薬2カ月後くらいに臨床効果が高まる

心拍増加をきたしにくい

INOH, POTSに効果的

学校が休みの日には、服薬を中止する

メチル硫酸アメジニウム(ノルアドレナリン再吸収阻薬)

睡眠薬・抗精神病薬
睡眠リズムを整える
  • メラトニン 1~2mg 午前10時ごろに服用
  • 15歳以上、ラメルテオン(ロゼレム🄬)2~8mgを使用

抗精神病薬に一定の指針はありません。

精神科専門医独自の判断で使用されています。

一般に抗精神病薬は起立性低血圧を起こしやすいので注意が必要です。

元々身体の問題だったODにこころと社会の問題が加わって状態が複雑になります。

ODはお子さんのとって予期せぬ、つらい、長く続く身体の症状です。

周囲の家族、学校、友人たちに理解されず、そのため、心理的、精神的、社会的にも追い込まれさらに、つらい思いをしてしまいます。

何よりも周囲の理解と温かい支援がとても必要です。

2,循環器科の見地からのOI

欧州心臓病学会(European Society of Cardiology: ESC)から2018年、失神の診断と管理のためのガイドライン(実践的指示)が報告されました。

それによると、起立不耐症(OI)には以下のような症候群があります。

  1. 起立性低血圧(orthostatic hypotension:  OH
    1)初期・起立性低血圧(initial orthostatic hypotension: Initial OH
    2)古典的・起立性低血圧(classical orthostatic hypotension: Classical OH
    3)遅延型・起立性低血圧(delayed orthostatic hypotension: Delayed OH
  2. 起立性・血管迷走神経性失神(orthostatic vasovagal syncope: Orthostatic VVS
  3. 体位性起立頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome: POTS

必須の補助診断は以下の2つです。

AST:シェロングの起立試験(能動的起立試験, active standing test)

TTTもしくはHTT:チルトテーブル試験、もしくはヘッドアップチルト試験(受動的起立試験, tilt-table test,  head-up tilt test)

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

1,起立性低血圧(OH)

OHによる失神では、自律神経系の機能的・構造的な障害により、起立時の末梢抵抗と心拍数(HR)の増加が不十分であることが知られています。

原発性および二次性・自律神経障害では、心血管系・交感神経線維が直立姿勢で全末梢血管抵抗を増加させることができません

重力ストレスは、血管収縮、向精神および強心作用の障害と相まって、横隔膜下に静脈血が溜まり、静脈還流と二酸化炭素が減少し、低血圧となります。

下の図 は、頸動脈と大動脈弓にある動脈圧受容器からの情報を伝達する求心路(赤色で示す)を示しています。

その情報は、延髄の血管運動中枢に到達します。

遠心性経路(青色で表示しています)は、2つの基本的な心血管系反応、つまり、心拍数と血管収縮を制御します。

血管収縮の上昇は重要であり、心拍数の上昇は重要な寄与をしません。

中枢神経系内の自律神経の核の変性(傷んでいる)や、末梢の自律神経の徐神経(自律神経が働けない)は、自律神経失調症の特徴である起立性低血圧(OH)を引き起こし、最終的に失神に至る可能性があります。

自律神経失調症(起立性低血圧)のメカニズム。
求心性経路 (青色) は、頸動脈と大動脈弓の圧受容器から延髄の血管運動中枢に情報を伝達します。
赤で示した遠心路は、心拍数と血管緊張という2つの基本的な心血管系反応を制御しています。

ANS = 自律神経系、HR = 心拍数。

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

★以下は、日本循環器学会編, 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)からの引用です。

人が仰臥位から立位になると、約500-800mLの血液が胸腔内から下肢や腹部内臓系へ移動し、心臓への還流血液量が約30%減少します。
このため心拍出量は減少し血圧は低下します。この循環動態の変化に対し、生体は圧受容器反射系の賦活により対処します。

圧受容器反射系は、以下の経路から成り立ちます。

  • 頸動脈・大動脈弓部・心肺・大静脈に存在する圧受容器(伸展受容器)
  • 迷走神経(求心路)、延髄にある血管運動中枢(延髄孤束核、頭側延髄腹外側野)、交感神経(遠心路)
  • 末梢血管・心臓(効果器)

圧受容器反射系賦活の結果、心拍数増加、心収縮力増加、末梢血管抵抗増加、末梢静脈の収縮を生じます。健常者では、この圧受容器反射系が適切に機能して血圧の過剰な低下を抑制していますが、圧受容器反射系のいずれかの部分に異常をきたすか循環血液量が異常に低下した状態では、起立時に高度の血圧低下をきたします。

OHは病態により以下の3つのタイプに分類されます。

  • 初期OH
  • 古典的 OH
  • 遅延性(進行性) OH
1,初期・起立性低血圧(Initial OH)

初期OHは、起立時に収縮期血圧で40mmHg以上拡張期血圧で20mmHg以上起立後15秒以内に血圧が低下することで特徴的です。

その後、血圧は自然かつ迅速に正常値に戻るため、低血圧と症状の期間は短い(40秒未満)ものの、失神を引き起こす可能性があります。

最近の知見では、起立時に最初に血圧が低下した後の上昇速度が予後に重要な影響を与えることが示されており、

高齢者では回復の遅れが予後不良因子となります。

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

2,古典的・起立性低血圧(Classical OH)

古典的OHは、収縮期血圧≧20mmHg、拡張期血圧≧10mmHgの持続的低下、またはASTまたは60度以上のHTTの3分以内収縮期血圧が90mmHg以下になる持続的低下と定義されています.

神経原性OHでは、自律神経の心拍数制御が損なわれているため、起立時の心拍上昇が鈍化します [通常10拍/分(b.p.m.)未満] 。

対照的に、低血糖による OH では、起立性心拍数の増加は維持されるか、あるいは増大します。

古典的OHは、症状を示すこともあれば、無症状のこともあります。

症状の重さは患者によって大きく異なるため、治療上の意義があることがあります。

古典的OHは、死亡率および心血管疾患の有病率の上昇と関連しています。

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

3,遅延性・起立性低血圧(Delayed OH)

遅延性失神は、ASTまたはTTT(HTT)から3分以降に発生する失神と定義され ています 。

徐脈がないことは、遅延性OHと反射性失神の鑑別に役に立ちます。

しかし、遅延性OHによる中心血液量の漸減は、 反射性失神を誘発する可能性があります。

遅延型OHは、高齢者では珍しくありません。高齢者 では心臓が硬く、前負荷の減少や代償性血管収縮 反射の障害に敏感であることが原因とされます。

また、特にパーキンソン病や糖尿病を伴う場合、 古典的OHの軽症型となることがあります。

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

2,起立性・血管迷走神経性失神(Orthostatic VVS)

起立性VVSの血圧低下は、古典的な調節障害とは異なります。

起立性VVSでは、起立後数分で血圧低下が始まり、失神するか横になるか、あるいはその両方が起こるまで血圧低下速度が加速されます。

したがって、起立性VVSにおける低血圧は短時間で終了します。

古典的なOHでは、血圧の低下は起立後すぐに始まり、低下率は減少するため、低血圧は何分も持続することがあります。

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

★日本循環器学会編, 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)で以下のように記載されてます。

VVSはさまざまな要因により交感神経抑制による血管拡張と迷走神経緊張による徐脈が、様々なバランスをもって生じる結果、失神に至ります。

VVSは以下に分類されます。

1,心抑制型(cardioinhibitory type):一過性徐脈により失神発作に至る。

2,血管抑制型(vasodepressor type):徐脈を伴わず、一過性の血圧低下のみにより失神発作に至る。

3,混合型(mixed type):徐脈と血圧低下の両者を伴う。

VVSは立位により末梢静脈のうっ滞が起こり、心臓への静脈還流量が減少するため心拍出量が低下し、これによる動脈圧低下に対して頚動脈洞や大動脈での高圧系圧受容器反射により交感神経系緊張と迷走神経系抑制が生じます。

そのため心拍数、心収縮力、末梢血管抵抗が増加し、立位時の血圧低下を代償します。さらに立位姿勢を継続することにより、容積の減少した左室の収縮力増強は左室の機械受容器を刺激し、C線維を介して脳幹部(延髄孤束核)に至り、ここからの線維により血管運動中枢を抑制、迷走神経心臓抑制中枢を興奮させ、それぞれ遠心性線維を介して血管拡張と心拍数減少をきたすと考えられています。

発症には脳循環、心肺圧受容器反射、心理的要因等が関与することがあります。

3,体位性起立頻脈症候群(POTS)

一部の患者(主に若い女性)は、重度の起立不耐性(頭重感、動悸、振戦、全身脱力、目のかすみ、疲労)と顕著な起立性心拍数上昇(30bpm以上、またはOHがなくともASTまたはTTT(HTT)後10分以内に120bpm以上)を呈します。

12~19 歳の患者の場合、心拍数の上昇は 40以上 であるべきです。

POTSは、衰弱、最近の感染症、慢性疲労症候群、関節可動域過剰症候群、頭痛や胸痛などの非特異的な症状を伴うことが多いです。

病態生理は、コンディショニング不良、免疫介在 過程、過剰な静脈貯留、副腎皮質機能亢進など、様々な説があります。

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

★日本循環器学会編, 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)においては以下としていますが、上記の診断基準と少々異なります。

1982年にRosenらが体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome: PoTS)と報告し、1993年、Schondorfらは、この病態を体位性起立頻脈症候群(postural arthostatic tachycardia syndrome: POTS)と命名しました。

HTTで異常な心拍数の増加を示し、多くの場合、起立2分以内に心拍数が120~170/分まで増加します。

原因および病態生理として、下肢限局型の自律神経ニューロパチー、β受容体感受性亢進、循環血液量の減少、脳循環調節の障害、骨格筋ポンプの障害、遺伝的要因、ヒスタミン分泌増加などが挙げられています。

診断は以下の項目のうち、すべてを満たすものを重症POTS、満たさないものを軽傷POTSとします。

1,ASTもしくはHTTにおいて、立位5分後以内に心拍数増加≧30/分

2,ASTもしくはHTTにおいて、立位5分以内に心拍数増加≧120/分

3,OIの症状持続

4,OIを有する患者の症状

・めまい、ふらつき、脱力感、疲労感、または無気力感。

・動悸(心臓性失神の異常拍動のほか、反射性失神、 OH、体位性頻脈の洞性頻脈を指すこともあります)。

・顔面蒼白、発汗、吐き気:自律神経の活性化(反 射性失神)。

・首や肩の痛み(コートハンガー痛)、腰痛、または心 臓前痛(古典的OH、ほとんどは自律神経障害)。

・聴覚障害:聴力低下、パチパチ音、耳鳴り、遠くから聞こえるような音(すべての原因)。

・視覚障害:ぼやけ、明るさの増強、色の喪失、トンネル視、そして最終的には視力の喪失(すべての原因)。

・失神。

これらの症状は通常、起立時に発症し、座るか横になると緩和されます。

また、朝、熱にさらされたとき、食後または労作後に悪化することがあります。

Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al: Practical Instruction for the 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Europian Heart Journal 39: 43-80, 2018

3,小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFN)の見地からのOI

Levineによる分類において、

SFNには

小径線維介在・自律神経機能障害small fiber mediated autonomic dysfunctionSFMAD

存在します。

SFMADは心臓血管系の自律神経障害から

起立不耐症(OI)を引き起こします。

体位性起立頻脈症候群postural orthostatic tachycardia syndromePOTS38

病理学的にSFNであった。

との報告もあります。

・Gibbons CH, Bonyhay I, Benson A, et al: Structural and Functional Small Fiber Abnormalities in the Neuropathic Postural

Tachycardia Syndrome. PLoS One 8(12): e84716, 2013

自律神経の節後線維はほぼC線維です。

C線維は、体内の環境の悪化により、優先的に障害を受けます。

血液成分に不都合があったり、血液そのものが十分に届かないと、C線維は、一時的もしくは長期間、興奮や、機能低下をきたします。

元々、自律神経機能の低下している方(小児のときのODが残っている方など)には追い打ちをかけてしまいます。

また、心臓の筋肉にエネルギーを作るための材料が足りなくなると心臓の筋肉(心筋)の働きが弱くなり、心臓の自律神経機能低下の症状がさらに悪くなります。

治療はSFNに対する原因治療(血液成分を正常化する、血液を十分に供給する)、OIに対する非薬物治療と対症的薬物治療をおこないます。

OIに対する対症的薬物治療には十分なエビデンスはありません。

また、臥位高血圧の問題もあり、できるだけ控えたほうがよいと考えます。

  • 喜山克彦, 永田勝太郎: 起立不耐症が潜在する慢性疼痛患者に対する治療. 慢性疼痛 40(1): 174-180, 2021
  • 田村直俊: 起立性低血圧(体位性頻脈症候群も含めて). 標準的神経治療:自律神経症候に対する治療. 神経治療 33(6): 658-663, 2016
  • 井上博ほか: 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版).循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告): 9-23, 2012
  • Lahmann H, Cortelli P, Hilz M et al: EFNS guidelines on the diagnosis and management of orthostatic hypotension. European Journal of Neurology 13(9): 930-936, 2006

4,線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の見地からのOI

世界の疼痛臨床において、線維筋痛症(FM)の病態に対する理解は、

1,中枢性感作症候群(central sensitization syndrome: CSS)

2,小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFN)

の2つです。

それに、FMをヒト全体から俯瞰し、経時的な要素を加えた概念として

3,機能性身体症候群(functional somatic syndrome: FSS)があります。

近年、Henningsenらは、FSSを身体的苦悩(bodily distress: BD)から慢性機能障害性身体的苦悩(chronic disabling bodily distress:以下CDBD)に至る病態の概念モデルで説明しています。

さらに、

4,虚血性筋痛(ischemic myalgia:IM)の病態を主張しているグループもあります。IMはSFNとも関連があります。

線維筋痛症 (FM)の 49病理学的にSFNであったとの報告があります。

・Grayston R, Czanner G, Elhadd K et al: A systematic review and meta-analysis of the prevalence of small fiber pathology in

fibromyalgia: Implications for a new paradigm in fibromyalgia etiopathogenesis. Seminars in Arthritis and Rheumatism 48: 933-

940, 2019

私は、それぞれの理解はFMに対して理解の視点を変えただけであると考えています。

そして、それぞれの病態は、Henningsenらの身体的苦悩(bodily distress: BD)の病態の概念モデル(当ホームページを参照してください)上で説明できると考えています。

・ Henningsen P,: Zipfel S, Sattel H et al: Management of Functional Somatic Syndromes and Bodily Distress.

Psychother Psychosom 87: 12-31, 2018

そして、最も大切なことは、

特発性SFN(ideopathic SFN: iSFN)初期段階(initially iSFN: iiSFN)のうちに適切な治療介入を行い、

CSSあるいは、その固定された状態である痛覚変調性疼痛(nociplastic pain:以下NP)や、

難治性の多彩な身体症状や精神症状を呈した慢性機能障害性身体的苦悩(chronic disabling bodily distress:以下CDBD)を予防することと考えています。

・Aydede M, Shriver A: Recently introduced definition of “nociplastic pain” by the International Association for the Study of Pain needs better formulation. Pain 159: 1176-1177, 2018

・日本痛み関連学会連合用語委員会: Nociplastic pain の日本語訳に関する用語委員会提案【要約版】. 2021,(オンライン)

・ Henningsen P,: Zipfel S, Sattel H et al: Management of Functional Somatic Syndromes and Bodily Distress.

Psychother Psychosom 87: 12-31, 2018

できあがってしまった病態に、抗精神病薬、抗てんかん薬などや、認知行動療法などで対症することではなく

線維筋痛症(FM)はまずSFNで理解し初期の段階で、できるだけ早く適切な治療することが大切であると考えています。

5,筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalopathy / chronic fatigue syndrome:ME/CFS)の見地からのOI

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalopathy / chronic fatigue syndrome:ME/CFS)は

起立不耐症(OI)と線維筋痛症(FM)を高率に合併します。

2017年に提示された本邦のME/CFS診断基準、2015年、米国から提案されたME/CFSに変わる診断名である全身性労作不耐症(systemic exertion intolerance: SEID)診断基準では、特に起立不耐症(OI)が診断項目の1つとして重要視されています。

従来、脳神経の炎症がみられるか否かについて否定的な意見も多かったのですが、脳内の神経炎症つまり脳内ミクログリアの活性化が発症に関与しているのではないかとの研究報告がありました。しかし、脳内ミクログリアの活性化は、ME/CFSやFMに特異的なものではなく、アルツハイマー病や脳血管障害でもみられるため、関連はまだはっきりしません。

★国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院放射線診療部(佐藤典子部長)および神経研究所免疫研究部(山村 隆特任研究部長)の研究グループは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の自律神経受容体に対する自己抗体に関連した脳内構造ネットワーク異常を明らかにしました。(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ホームページ https://www.ncnp.go.jp/topics/2020/20200703.html)

ME/CFSにおいて、この自己抗体が新たな血液診断バイオマーカーの一つとなる可能性が考えられます。また、治療の観点から、この自己抗体を除去する、あるいは産生を減少させる治療法が抗体価の高い患者に有効な可能性が考えられます。(同ホームページ)

大変期待できる研究だと思います。

ただ、まだ有効に治療薬の開発には至っていないため、現在できる、治療法を考えなくてはなりません。

中枢神経へ作用する治療法は対症療法でしかないため、

末梢神経の関与がある程度存在すると仮定し、治療を行ことが臨床上の現実であると考えています。

6,新型コロナウィルス感染症後症候群(long COVID)の見地からのOI

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