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DRGニューロンで発現する 電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)

[2024.12.08]

電位依存性ナトリウムチャネルの構造と機能

電位依存性ナトリウムチャネルは1つの長いポリペプチドから形成されています。

この分子は4つの独立したドメインをもち、それらはⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと番号がつけられています。

 

各ドメインは膜貫通型αヘリックスからなる6つのセグメントからなり、S1~S6の番号がつけられています。

 

この4つのドメインが寄り集まって、その間に孔を形成していると考えられています。

 

負の静止膜電位では、、この孔が閉じています。

膜が閾値まで脱分極すると分子構造はねじれて形が変わり、

Na+が孔を通過できるようになります。

 

 

Na+チャネルを作るS5とS6の間にループ状に膜に陥入するポアループ(孔形成ループ pore loop, S5-S6リンカー)を持っています。

そして、それらが集まってイオン選択性フィルターを形成しています。

このフィルターにより、Na+チャネルでのNa+に対する透過性はK+より12倍高くなります。

 

 

Na+がチャネルに入るとき、ほとんどのNa+のまわりに配位した水分子は取り除かれます。

取り除かれずに残っている水分子はイオンに対する付き添い役(分子シャベロン molecular chaperone)として働き、

イオンが選択性フィルターを通るときに必要です。

イオンがまわりに水を配位して複合体を作ることにより、

Na+を選択し、K+を排除することができます。

 

 

Na+チャネルは、膜をはさんだ電位(膜電位)の変化によって、

ゲートの開-閉が制御されます。

電位センサーは、この分子のS4セグメントにあることが明らかになっています。

このセグメントでは、ヘリックスのコイルに沿って正に帯電したアミノ酸残基が

規則正しく配列しています。

 

これにより、セグメント全体が膜電位の変化により強く影響されて動きます。

つまり、脱分極によってS4セグメントのねじれがおきます。

この形態変化により、チャネルが開くのです。

 

-80mVから-65mVまでの軸索のパッチ膜の膜電位を変化させても、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav )は

ほとんど影響をうけません。

しかし、-65mVから-40mVまでの膜電位を変化されると、これらのチャネルはポンと急に開きます。

上図に示すように、電位依存性ナトリウムチャネルは次のように特徴を持っています。

 

①チャネルは、ゆっくりではなく急速に開く。

②チャネルは、約1msec開き、その後閉じる(不活化する)。

③膜電位が閾値近くの負の値に戻るまで、チャネルは脱分極によって再び開くことはできない。

 

これらの特徴は、電位依存性ナトリウムチャネルの構造変化によって説明できます。

仮説的モデルを(c)に示します。

 

Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡 監訳:神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京,pp74-78,2021)より引用

 

 

電位依存性チャネルの多様性と遺伝子機構

 

電位依存性ナトリウムチャネルのαサブユニットをコードしている遺伝子は10種類あります。

 

 

Gonçalves T C, Benoit E, Partiseti M, Servent D: The Nav 1.7 Channel Subtype as an Antinociceptive Target for Spider Toxins in Adult Dorsal Root Ganglia Neurons. Neurons. Front. Pharmacol 9: 1-21, 2018

 

 

Navチャネルサブタイプの組織における発現とテトロドトキシン(TTX)感受性

Nav サブタイプ 遺伝子 組織における発現 TTX感受性
Nav 1.1 SCN1A ・一次感覚ニューロン(DRG
・中枢神経系(海馬、新皮質、小脳、網膜神経節、ミクログリア)、角化細胞
Yes
Nav 1.2 SCN2A ・一次感覚ニューロン(DRG)
・中枢神経系(海馬、新皮質;小脳、アストロサイト)、線維芽細胞、膵島β細胞
 歯牙細胞、骨芽細胞
Tes
Nav 1.3(胎児) SCN3A ・一次感覚ニューロン(生後早期、神経損傷や炎症が起こる成人DRG、シュワン細胞)
・中枢神経系(海馬、大脳新皮質)
・線維芽細胞、膵島β細胞
Yes
Nav 1.4 SCN4A ・骨格筋 Yes
Nav 1.5 SCN5A

・心臓

・骨格筋(除神経または胎児)

No

Nav 1.6 SCN8A

・一次感覚ニューロン(DRG、運動ニューロンランビエ節、シュワン細胞)

・中枢神経系(プルキンエ、錐体・顆粒ニューロン、ランビエ節、

       軸索初期セグメント、アストロサイト、ミクログリア)

・がん細胞、内皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、マクロファージ

Yes

Nav 1.7 SCN9A

・一次感覚ニューロン(DRG、交感神経節ニューロン、神経内分泌細胞)

・中枢神経系(嗅覚ニューロン)

・平滑筋細胞

・前立腺腫瘍細胞、乳腺腫瘍細胞、ヒト赤血球前駆細胞、線維芽細胞、免疫細胞

Yes

Nav 1.8 SCN10A

・一次感覚ニューロン(DRG)

・中枢神経系(プルキンエ神経細胞、アストロサイト、ミュラーグリア)

・内皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、Tリンパ球

No

Nav 1.9 SCN11A

・一次感覚ニューロン(DRG)

・中枢神経系(視床下部、アストロサイト、ミュラーグリア)

・がん細胞、内皮細胞、線維芽細胞、、Tリンパ球

No

Nav 1.10

(Nav 1.x,

Nav 2.1-2.3)

SCN7A

・肺、子宮、心臓

・一次感覚ニューロン(DRG、シュワン細胞)

・中枢神経系(視床、海馬、小脳、視索前核中央部)

No

 

Gonçalves T C, Benoit E, Partiseti M, Servent D: The Nav 1.7 Channel Subtype as an Antinociceptive Target for Spider Toxins in Adult Dorsal Root Ganglia Neurons. Neurons. Front. Pharmacol 9: 1-21, 2018

 

 

DRGニューロンに発現し、疼痛に関与するNavチャネルサブタイプに関連する電気生理学的特性と障害

 

以下に示す、電位依存性ナトリウムチャネルは、有害な刺激を伝えることの関与している可能性があり、痛みの治療のターゲットとなる可能性があります。

Nav 1.6-1.9 サブタイプは、ヒトの疼痛障害と関連していることが遺伝的に証明されています。

染色体2q24.3の遺伝子SCN9AをコードするNav 1.7は、DRGや交感神経節に主に発現しています。Nav 1.7の変異は、DRGの感覚ニューロンの電気的過活動を引き起こし、同時に交感神経節ニューロンの低反応を引き起こします。

 

Lavin MM, Solano C: Dorsal root ganglia sodium channels and fibromyalgia sympathetic pain. Med Hypotheses 72:64 -66, 2009

 

特発性・小径線維ニューロパチー(ideopathic SFN)患者の約3分の1がこの変異を有していたとの報告があります。

 

 

  活性化(m)と不活性化(h)のゲート特性 痛み 遺伝性疼痛疾患 痛みとは無関係の障害
時間依存性 電位依存性
Nav 1.1 速い Vm0.5=-20mV
Vh0.5=-52mV
・急性痛
・機械的アロディニア
・内臓知覚過敏
・過敏性腸症候群
  ・てんかん症候群
・家族性片麻痺性片頭痛
・神経発達障害

Nav 1.3

(胎児)

速い Vm0.5=-20mV
Vh0.5=-58mV
・疼痛性神経外傷
・糖尿病性疼痛障害
・中枢性神経障害性疼痛
  ・発作感受性増大
Nav 1.6 速い Vm0.5=-19mV
Vh0.5=-56mV
・オキサリプラチン誘発性
 寒冷アロディニア
・糖尿病性疼痛障害
・炎症性疼痛
・疼痛性ニューロパチー
(特発性三叉神経痛)
・耐発作性
・てんかん性脳症
・知的障害
・小脳萎縮、行動障害、運動失調
   ⇒ 復活/持続する電流
Nav 1.7 速い Vm0.5=-33mV
Vh0.5=-62mV
・糖尿病性疼痛障害
・炎症性疼痛
・急性有害機械感覚
・先天性不感症
・遺伝性、感覚・自律神経 ニューロパチー
・遺伝性疼痛性ニューロパチー
・無嗅覚症・低嗅覚症
・てんかん症候群
・自閉症スペクトラム障害
   ⇒ 閾値電流
Nav 1.8 遅い Vm0.5=-6mV
Vh0.5=-35mV
・疼痛性ニューロパチー(エイズ、糖尿病、癌)
・炎症性疼痛
・骨悪性腫瘍の疼痛維持
・疼痛性ニューロパチー
(小径線維ニューロパチー、遺伝性紅痛症)
・多発性硬化症
・心臓伝導異常
   ⇒ 持続する電流
Nav 1.9 非常に遅い Vm0.5=-48mV
Vh0.5=-31mV
・炎症誘発性痛覚過敏と末梢感作
・炎症性、熱性、機械性疼痛過敏症
・骨悪性腫瘍の疼痛維持
・冷痛覚
・内臓痛
・先天性不感症
・遺伝性、感覚・自律神経 ニューロパチー
・遺伝性疼痛性ニューロパチー
・ヒルシュスプルング病(巨大結腸症)
・膀胱運動機能障害
・家族性発作性疼痛に伴う本態性振戦
   ⇒ 閾値電流
     
     
     
     
Nav 1.10

(Nav 1.x,

Nav 2.1-2.3)
Na依存性(閾値=150mM) ・骨悪性腫瘍関連痛   ・慢性高ナトリウム血症
・てんかん発作

 

Gonçalves T C, Benoit E, Partiseti M, Servent D: The Nav 1.7 Channel Subtype as an Antinociceptive Target for Spider Toxins in Adult Dorsal Root Ganglia Neurons. Neurons. Front. Pharmacol 9: 1-21, 2018

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