DRGニューロンで発現する 電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)
電位依存性ナトリウムチャネルの構造と機能
電位依存性ナトリウムチャネルは1つの長いポリペプチドから形成されています。
この分子は4つの独立したドメインをもち、それらはⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと番号がつけられています。
各ドメインは膜貫通型αヘリックスからなる6つのセグメントからなり、S1~S6の番号がつけられています。
この4つのドメインが寄り集まって、その間に孔を形成していると考えられています。
負の静止膜電位では、、この孔が閉じています。
膜が閾値まで脱分極すると分子構造はねじれて形が変わり、
Na+が孔を通過できるようになります。
Na+チャネルを作るS5とS6の間にループ状に膜に陥入するポアループ(孔形成ループ pore loop, S5-S6リンカー)を持っています。
そして、それらが集まってイオン選択性フィルターを形成しています。
このフィルターにより、Na+チャネルでのNa+に対する透過性はK+より12倍高くなります。
Na+がチャネルに入るとき、ほとんどのNa+のまわりに配位した水分子は取り除かれます。
取り除かれずに残っている水分子はイオンに対する付き添い役(分子シャベロン molecular chaperone)として働き、
イオンが選択性フィルターを通るときに必要です。
イオンがまわりに水を配位して複合体を作ることにより、
Na+を選択し、K+を排除することができます。
Na+チャネルは、膜をはさんだ電位(膜電位)の変化によって、
ゲートの開-閉が制御されます。
電位センサーは、この分子のS4セグメントにあることが明らかになっています。
このセグメントでは、ヘリックスのコイルに沿って正に帯電したアミノ酸残基が
規則正しく配列しています。
これにより、セグメント全体が膜電位の変化により強く影響されて動きます。
つまり、脱分極によってS4セグメントのねじれがおきます。
この形態変化により、チャネルが開くのです。
-80mVから-65mVまでの軸索のパッチ膜の膜電位を変化させても、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav )は
ほとんど影響をうけません。
しかし、-65mVから-40mVまでの膜電位を変化されると、これらのチャネルはポンと急に開きます。
上図に示すように、電位依存性ナトリウムチャネルは次のように特徴を持っています。
①チャネルは、ゆっくりではなく急速に開く。
②チャネルは、約1msec開き、その後閉じる(不活化する)。
③膜電位が閾値近くの負の値に戻るまで、チャネルは脱分極によって再び開くことはできない。
これらの特徴は、電位依存性ナトリウムチャネルの構造変化によって説明できます。
仮説的モデルを(c)に示します。
Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡 監訳:神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京,pp74-78,2021)より引用
電位依存性チャネルの多様性と遺伝子機構
電位依存性ナトリウムチャネルのαサブユニットをコードしている遺伝子は10種類あります。
Gonçalves T C, Benoit E, Partiseti M, Servent D: The Nav 1.7 Channel Subtype as an Antinociceptive Target for Spider Toxins in Adult Dorsal Root Ganglia Neurons. Neurons. Front. Pharmacol 9: 1-21, 2018
Navチャネルサブタイプの組織における発現とテトロドトキシン(TTX)感受性
Nav サブタイプ | 遺伝子 | 組織における発現 | TTX感受性 |
Nav 1.1 | SCN1A | ・一次感覚ニューロン(DRG) ・中枢神経系(海馬、新皮質、小脳、網膜神経節、ミクログリア)、角化細胞 |
Yes |
Nav 1.2 | SCN2A | ・一次感覚ニューロン(DRG) ・中枢神経系(海馬、新皮質;小脳、アストロサイト)、線維芽細胞、膵島β細胞 歯牙細胞、骨芽細胞 |
Tes |
Nav 1.3(胎児) | SCN3A | ・一次感覚ニューロン(生後早期、神経損傷や炎症が起こる成人DRG、シュワン細胞) ・中枢神経系(海馬、大脳新皮質) ・線維芽細胞、膵島β細胞 |
Yes |
Nav 1.4 | SCN4A | ・骨格筋 | Yes |
Nav 1.5 | SCN5A |
・心臓 ・骨格筋(除神経または胎児) |
No |
Nav 1.6 | SCN8A |
・一次感覚ニューロン(DRG、運動ニューロンランビエ節、シュワン細胞) ・中枢神経系(プルキンエ、錐体・顆粒ニューロン、ランビエ節、 軸索初期セグメント、アストロサイト、ミクログリア) ・がん細胞、内皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、マクロファージ |
Yes |
Nav 1.7 | SCN9A |
・一次感覚ニューロン(DRG、交感神経節ニューロン、神経内分泌細胞) ・中枢神経系(嗅覚ニューロン) ・平滑筋細胞 ・前立腺腫瘍細胞、乳腺腫瘍細胞、ヒト赤血球前駆細胞、線維芽細胞、免疫細胞 |
Yes |
Nav 1.8 | SCN10A |
・一次感覚ニューロン(DRG) ・中枢神経系(プルキンエ神経細胞、アストロサイト、ミュラーグリア) ・内皮細胞、線維芽細胞、角化細胞、Tリンパ球 |
No |
Nav 1.9 | SCN11A |
・一次感覚ニューロン(DRG) ・中枢神経系(視床下部、アストロサイト、ミュラーグリア) ・がん細胞、内皮細胞、線維芽細胞、、Tリンパ球 |
No |
Nav 1.10 (Nav 1.x, Nav 2.1-2.3) |
SCN7A |
・肺、子宮、心臓 ・一次感覚ニューロン(DRG、シュワン細胞) ・中枢神経系(視床、海馬、小脳、視索前核中央部) |
No |
Gonçalves T C, Benoit E, Partiseti M, Servent D: The Nav 1.7 Channel Subtype as an Antinociceptive Target for Spider Toxins in Adult Dorsal Root Ganglia Neurons. Neurons. Front. Pharmacol 9: 1-21, 2018
DRGニューロンに発現し、疼痛に関与するNavチャネルサブタイプに関連する電気生理学的特性と障害
以下に示す、電位依存性ナトリウムチャネルは、有害な刺激を伝えることの関与している可能性があり、痛みの治療のターゲットとなる可能性があります。
Nav 1.6-1.9 サブタイプは、ヒトの疼痛障害と関連していることが遺伝的に証明されています。
染色体2q24.3の遺伝子SCN9AをコードするNav 1.7は、DRGや交感神経節に主に発現しています。Nav 1.7の変異は、DRGの感覚ニューロンの電気的過活動を引き起こし、同時に交感神経節ニューロンの低反応を引き起こします。
Lavin MM, Solano C: Dorsal root ganglia sodium channels and fibromyalgia sympathetic pain. Med Hypotheses 72:64 -66, 2009
特発性・小径線維ニューロパチー(ideopathic SFN)患者の約3分の1がこの変異を有していたとの報告があります。
活性化(m)と不活性化(h)のゲート特性 | 痛み | 遺伝性疼痛疾患 | 痛みとは無関係の障害 | ||
時間依存性 | 電位依存性 | ||||
Nav 1.1 | 速い | Vm0.5=-20mV Vh0.5=-52mV |
・急性痛 ・機械的アロディニア ・内臓知覚過敏 ・過敏性腸症候群 |
・てんかん症候群 ・家族性片麻痺性片頭痛 ・神経発達障害 |
|
Nav 1.3 (胎児) |
速い | Vm0.5=-20mV Vh0.5=-58mV |
・疼痛性神経外傷 ・糖尿病性疼痛障害 ・中枢性神経障害性疼痛 |
・発作感受性増大 | |
Nav 1.6 | 速い | Vm0.5=-19mV Vh0.5=-56mV |
・オキサリプラチン誘発性 寒冷アロディニア ・糖尿病性疼痛障害 ・炎症性疼痛 |
・疼痛性ニューロパチー (特発性三叉神経痛) |
・耐発作性 ・てんかん性脳症 ・知的障害 ・小脳萎縮、行動障害、運動失調 |
⇒ 復活/持続する電流 | |||||
Nav 1.7 | 速い | Vm0.5=-33mV Vh0.5=-62mV |
・糖尿病性疼痛障害 ・炎症性疼痛 ・急性有害機械感覚 |
・先天性不感症 ・遺伝性、感覚・自律神経 ニューロパチー ・遺伝性疼痛性ニューロパチー |
・無嗅覚症・低嗅覚症 ・てんかん症候群 ・自閉症スペクトラム障害 ・ |
⇒ 閾値電流 | |||||
Nav 1.8 | 遅い | Vm0.5=-6mV Vh0.5=-35mV |
・疼痛性ニューロパチー(エイズ、糖尿病、癌) ・炎症性疼痛 ・骨悪性腫瘍の疼痛維持 |
・疼痛性ニューロパチー (小径線維ニューロパチー、遺伝性紅痛症) |
・多発性硬化症 ・心臓伝導異常 |
⇒ 持続する電流 | |||||
Nav 1.9 | 非常に遅い | Vm0.5=-48mV Vh0.5=-31mV |
・炎症誘発性痛覚過敏と末梢感作 ・炎症性、熱性、機械性疼痛過敏症 ・骨悪性腫瘍の疼痛維持 ・冷痛覚 ・内臓痛 |
・先天性不感症 ・遺伝性、感覚・自律神経 ニューロパチー ・遺伝性疼痛性ニューロパチー |
・ヒルシュスプルング病(巨大結腸症) ・膀胱運動機能障害 ・家族性発作性疼痛に伴う本態性振戦 |
⇒ 閾値電流 | |||||
Nav 1.10 (Nav 1.x, Nav 2.1-2.3) |
Na依存性(閾値=150mM) | ・骨悪性腫瘍関連痛 | ・慢性高ナトリウム血症 ・てんかん発作 |
Gonçalves T C, Benoit E, Partiseti M, Servent D: The Nav 1.7 Channel Subtype as an Antinociceptive Target for Spider Toxins in Adult Dorsal Root Ganglia Neurons. Neurons. Front. Pharmacol 9: 1-21, 2018