線維筋痛症:DRGと、炎症、自己免疫、感染症との関係(1)
線維筋痛症の原因は、炎症性、自己免疫性および感染症が誘発するとの報告があります。
特に、2021年に報告された、線維筋痛症患者の免疫グロブリン(IgG)を注入されたマウスは線維筋痛症の症状を発症し、
そのIgGはDRGのみに標識されたとの報告は画期的でした。
線維筋痛症と免疫系の関係は、以下の項目に分けられます。
Ⅰ、自然免疫系
①肥満細胞
②好中球
③ミクログリアシステム
④ナチュラルキラー細胞
Ⅱ、獲得免疫系
①T細胞
②B細胞と自己抗体
Ⅲ、病原体
Paroli M, Gioia C, Accapezzato D, et al: Inflammation, Autoimmunity, and Infection in Fibromyalgia: A Narrative Review. Int. J. Mol. Sci 25: 1-16, 2024
Goebel A, Krock E, Gentry C, et al: Passive transfer of fibromyalgia symptoms from patients to mice. J Clin Invest 131(13): 1-16, 2021
Paroli Mらは、線維筋痛症の病態における、炎症、自己免疫、感染症の関わりの観点から以下のように、病態の概略を図示しました。
図. 線維筋痛症の発症に関与する因子
図の説明:
線維筋痛症(FM)の発症にはいくつかの因子が関与している。
従来、中枢性・末梢性疼痛感作が活性化しやすい体質では、心理社会的ストレスが主な要因と考えられてきた。しかし、最近の知見では、免疫系が重要な役割を果たしていることが明らかになっている。
マスト細胞、好中球、ミクログリア細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞による炎症は、いくつかの炎症性サイトカインとケモカインを産生し、神経炎症とそれに続く疼痛感作の亢進に寄与する。
一方、最近の研究で獲得免疫も関与しており、T細胞、特に炎症性サイトカインを産生できるTヘルパー(Th)-1細胞やTh17細胞、また、実験動物における受動的IgG移入の動物モデルによって証明されたように、ニューロン特異的自己抗体の産生を介したB細胞の役割が示されている。
最後に、感染症も重要な役割を果たしている。特に、COVID-19の原因物質であるSARS-CoV-2への感染は、いわゆる「ロングCOVID」の間に報告されたFM発症率の増加の原因であると考えられている。線維筋痛症はいったん発症すると慢性経過をたどり、広範な筋骨格痛に加えて、抑うつ、疲労、線維性霧とも呼ばれる認知障害、睡眠障害などのさまざまな衰弱症状を伴う。
Paroli M, Gioia C, Accapezzato D, et al: Inflammation, Autoimmunity, and Infection in Fibromyalgia: A Narrative Review. Int. J. Mol. Sci 25: 1-16, 2024
免疫系の影響により、痛覚変調性疼痛が生じる可能性があります。
図2. 免疫系の細胞による痛覚変調性疼痛の誘発。
先天性免疫系および獲得免疫系の細胞は、線維筋痛症における痛覚変調性疼痛の発生に関与している可能性がある。ミクログリア細胞、好中球、および肥満細胞はインターロイキンおよびケモカインを産生する。B細胞は神経細胞に対する自己抗体を産生する。T細胞は、炎症性サイトカイン(IFN-γやIL-17など)と抗炎症性サイトカイン(IL-10など)の両方を産生する。NK細胞は、μ型オピオイド受容体を刺激することで痛みを抑制すると考えられている。ウイルスや細菌の病原体は、免疫システムの刺激因子として作用する可能性がある。矢印の上の禁止標識の赤丸は、細胞による抑制作用を示している。
Paroli M, Gioia C, Accapezzato D, et al: Inflammation, Autoimmunity, and Infection in Fibromyalgia: A Narrative Review. Int. J. Mol. Sci 25: 1-16, 2024
Goebel Aらは、線維筋痛症のヒトIgGをマウスに注入したところ、マウスは線維筋痛症様の痛みを発症したことを報告しました。
Paroli M, Gioia C, Accapezzato D, et al: Inflammation, Autoimmunity, and Infection in Fibromyalgia: A Narrative Review. Int. J. Mol. Sci 25: 1-16, 2024
線維筋痛症患者のヒトIgGは、DRGのサテライトグリア細胞と神経線維から発見され、脊髄や脳などの中枢神経からは発見されませんでした。
Goebel A, Krock E, Gentry C, et al: Passive transfer of fibromyalgia symptoms from patients to mice. J Clin Invest 131(13): 1-16, 2021
Kelvin JT: COMMENTARY From human to mouse and back offers hope for patients with fibromyalgia. J Clin Invest 131(13): 1-16, 2021
また、重症の線維筋痛症患者は、軽症の患者に比べて、この抗サテライトグリア細胞IgG抗体レベルが高かったと報告されました。
Krock E, Urbina CEM, Menezes J, et al: Fibromyalgia patients with elevated levels of anti-satellite glia cell immunoglobulin G antibodies present with more severe symptoms. Pain 164: 1828-1840, 2023
線維筋痛症における、DRGと免疫系の強い関与を示す、研究報告でした。
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