慢性の痛みと疲労

 

痛みと疲労は、からだの調子が悪くなっていることを、真っ先に教えてくれる症状であると言われています。

近年、慢性の痛みと疲労は、感覚神経自律神経であるsmall fiber(Aδ線維とC線維)ホメオスタシスの歪みにより障害を受け、小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:以下SFN)を発症することが初期の原因であると考えられています。

そこで慢性の痛みと疲労の原因の治療を行うため、ホメオスタシスの歪みを捉えることが重要となります。

 

 

 

感覚神経

触った感じ(触覚)、圧された感じ(圧痛)、いろいろな痛みを皮膚ファッシア(筋肉、関節、内臓をとりまく膜)から脊髄を通って脳に伝える神経にはいろいろな形態(かたち)があり、それぞれの感覚を伝えるのに役割を分担しています。

 

Aβ(エー・ベータ)線維は、太くで丈夫で、伝えるスピードが速く、触った感じ(触覚)、圧された感じ(圧痛)を伝えます。

Aδ(エー・デルタ)線維は、中くらいで、やや丈夫で、伝えるスピードがやや速く、けがをした直後などの鋭い痛みを伝えます。

C(シー)線維は、最も細く、弱く、伝えるスピードが遅く、けがをしてしばらくしてからの鈍い痛み、焼けつく痛みを伝えます。

ホメオスタシス(恒常性)に歪み(ゆがみ)により、からだの中で真っ先に反応するものは、最も細くて、最も過敏な神経である、小径線維(small fiber)です。

小径線維(small fiber)とはAδ(エー・デルタ)線維C(シー)線維のことです。

 

特に、C線維はからだ中の感覚神経の約80%を占めます。

C線維、けがも炎症もないにも関わらずホメオスタシス(恒常性)に歪み(ゆがみ)により、真っ先に影響を受け、からだのあちこちに痛みが発生します。その痛みは、主に感覚神経の先端(自由神経終末)がある、ファッシア(筋肉、関節、内臓などを覆う膜)や皮膚で感じます。

 

 

 

自律神経

自律神経(交感神経と副交感神経)の多くはC線維です。正常なC線維の働きによりいろいろな内臓の働きが上手くいきます。

ホメオスタシス(恒常性)に歪み(ゆがみ)により、C線維が真っ先に障害を受け、いろいろな内臓の調子を悪くします。

 

 

 

洞窟(炭鉱)のカナリア

C線維はからだの変調を真っ先に教えてくれます。まるで洞窟(炭鉱)のカナリアです。

 

 

 

心臓と血管の自律神経障害

心臓の自律神経の調子を悪くするために疲労感立ちくらみめまい息切れ頭痛などを引き起こし、血管の自律神経の調子を悪くするために、心臓に血液を十分に戻さなかったり、逆に手足の冷えがおきたりします。それらのことにより、起立不耐症という、長時間立つことや座ることが困難な状態になることもあります。

 

 

 

 

消化器の自律神経障害

消化器(胃や腸)の自律神経の調子を悪くし、腹痛、下痢、便秘などを引きおこし過敏性腸症候群の状態になることもあります。

 

 

 

その他の臓器の自律神経障害

泌尿器系、婦人科系、汗の調整などいろいろな臓器に影響を与えてしまいます。

 

 

 

小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFN)

C線維やAδ線維が、ホメオスタシス(恒常性)の歪みが続くことによって損傷する病気を小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFN)といいます。

 

線維筋痛症などの痛みは、じつは小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFN)であるとの研究結果が欧米では盛んに報告されています。

 

 

 

参考文献

・Oaklander: AL,: Herzog ZD, Downs H et al: Objective evidence that small-fiber polyneuropathy underlies some illnesses currently labeled as fibromyalgia, Pain 154(11): 2310-2316, 2013

・Lawson: VH,: Grewal J, Hackshaw KV et al: Fibromyalgia syndrome and small fiber, early or mild sensory polyneuropathy. Muscle Nerve 58: 625-630, 2018

・Grayston: R,: Czanner G, Elhadd K et al: A systematic review and meta-analysis of the prevalence of small fiber pathology in fibromyalgia: Implications for a new paradigm in fibromyalgia etiopathogenesis. Seminars in Arthritis and Rheumatism 48: 933-940, 2019

・Treister: R,: Lodahl M, Lang M et al: Initial development and validation of a patient-reported symptom survey for small-fiber polyneuropathy. J Pain 18: 556-563, 2017

・Levine: TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve System Disease 10: 1-6, 2018

・Oaklander: AL,: Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

 

 

 

 

 

ホメオスタシス(恒常性)の歪みとsmall fiber neuropathy

からだの外からのストレスな刺激(ストレッサー)から、からだの状態を安定させ健康を維持するしくみをホメオスタシス(恒常性)といい、適応反応をすることをアロスタシスといいます。まとめてホメオスタシス(恒常性)として説明します。

 

ホメオスタシス(恒常性)の種類はさまざまです。その中で、small fiber(Aδ線維とC線維)に大きな影響を与え、痛みや疲労に主に関わっているものを、永田勝太郎先生は以下にように挙げました。

特に、4~6を重視しました。

 

1,自律神経系

2,内分泌系

3,免疫系

4,血行動態系

5,代謝系

6,酸化ストレス防御系

 

 

 

自律神経系と小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy)

ホメオスタシスの歪みは、真っ先に感覚神経(Aδ線維とC線維)自律神経(B線維とC線維)に悪影響を与えます。

障害を受けた自律神経は、真っ先に内臓の働きを悪くします。

心臓と血管の自律神経が障害を受けると、体中の血液の流れ(血行動態)が悪くなり、手足の虚血、脳の虚血、下肢や腹部の静脈の貯留を引き起こします。

そのせいで、いろいろなからだの症状が出現します。

 

 

 

 

・Levine: TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve System Disease 10: 1-6, 2018

・永田勝太郎:機能性身体症候群(FSS)としての慢性疼痛-線維筋痛症の臨床から-. 慢性疼痛 32: 25-32, 2013

・永田勝太郎:線維筋痛症の背後に潜む疾患. 慢性疼痛 34: 191-194, 2015

・永田勝太郎, 志和悟子, 大槻千佳ほか:線維筋痛症の発症要因の追究:糖化, 酸化, 血行動態について. 慢性疼痛 39(1): 114-118, 2020

 

 

 

内分泌系と小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy)

人は身体的(からだ)、心理的(こころ)、社会的(環境や参加)、実存的(やりがい、生きる意味)のストレスを受けます。

これらのストレスから視床下部ー脳下垂体ー副腎 軸(hypothalamic-pituitary-adrenal-axis:HPA axis) は体を守ります。

 

副腎からでるストレスホルモンであるコルチゾールは体内の炎症やアレルギーを抑える役割があります。

また一時的に血糖値を上げ、物質代謝を高める役割があります。

ストレスが慢性に続くとHPA axisの働きが悪くなり、コルチゾールの分泌が少なくなり、体のどこかの炎症を抑えることができません。

体内に炎症が起きると、発痛物質や炎症メディエーターといわれる物質があふれます。

 

small fiber(Aδ線維とC線維)はこれらの物質のために障害を受け小径線維ニューロパチー(SFN)が発症する可能性があります。

さらに脳の神経細胞もこれらの物質に弱く、痛みを強く感じてしまう中枢性感作に至る可能性があります。

 

 

・半場道子:慢性炎症と痛み. ペインクリニック 41(4): 513-522, 2020

 

 

免疫系と小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy)

免疫不全と小径線維ニューロパチー(SFN)の関係の報告があります。

橋本病による甲状腺機能低下症が4.4%であったとの報告があります。

・Lang: M,: Treister R, Oaklander AL: Diagnostic value of blood tests for occult causes of initially idiopathic small-fiber polyneuropathy. J Neurol 263(12): 2515-2527, 2016

・永田勝太郎:線維筋痛症の背後に潜む疾患. 慢性疼痛 34: 191-194, 2015

 

 

血行動態(自律神経系と血圧調整系)と小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy)

からだにストレスがかかると、血液の流れ(血行動態)が変化します。

ドイツの自律神経学者のデリウスは、ストレスによる血液の流れ(血行動態)の身体に良くない変化をDysdynamische Syndromeと定義しました。

日本では、東京大学心療内科の教授であった石川中(ひとし)先生が、デリウスの分類をわかりやすく表現し心身医学の医学書で紹介しました。

東邦大学や浜松医科大学心療内科などに在籍していた永田勝太郎先生は、血行動態不良症候群と和訳し、この症候群が身体の痛みと関連していることを数々報告しています。

ドイツでは、現在でもDysdynamische Syndromeの疾患名を使用しています。

 

血行動態不良症候群高反応型低反応型に分類されます。

高反応型は急性のストレス反応で、心臓が全身に送る血液量が通常より多くなります。

低反応型は慢性のストレス反応で、心臓が全身に送る血液量が通常より少なくなります。

 

低反応型になると、強い疲労感、立ちくらみ、めまい、息切れ、頭痛、時に失神することがあり、起立不耐症あるいは起立性調節障害と呼ばれることがあります。

低反応型は、坐位や立位で末梢の血管が自律神経系の反応で強く締まってしまい、筋肉(fascia)やsmall fiberは血液が足りない状態(虚血)となります。

そして、その後末梢の血管がゆるむことにより血液が再度流れ(再灌流)ます。

 

この虚血と再灌流の繰り返しは、活性酸素種などの筋肉(fascia)やsmall fiberを痛める物質が作り出され、小径線維ニューロパチー(SFN)の痛みとなる可能性があります。

低反応型は、心臓の筋肉の疲れ(心原性:心筋代謝異常)と心臓を動かす自律神経の働きの鈍り(神経原性:小径線維ニューロパチー)で起きる可能性があります。

生まれつき、心臓が疲れやすく、自律神経の働きも鈍りやすいタイプの方もいます。

 

心臓の筋肉の疲れ(心原性:心筋代謝異常)の原因として、

血糖値の異常(低血糖、血糖値スパイク)とそれに伴うミトコンドリア内酵素の糖化(メイラード)反応タンパク質や脂質摂取のアンバランスビタミン類や鉄の不足低酸素、活性酸素種などの酸化ストレスの増加や、体の中にある抗酸化物質(コエンザイムQ10、ビタミンA,C,E、グルタチオン、リポ酸、ウロビリノーゲン、ビリルビンなど)の減少などが挙げられます。

 

・Delius: L, Fahrenberg J et al: Psychovegetative Syndrome. Stuttgart George Thieme Verlag, Stuttgart 290: 1996

・石川中:循環器心身症の進歩.医学と薬学3:197-202,1980

・永田勝太郎,村山亮介:慢性疼痛と血行動態・血行動態の改善が疼痛の解除につながる.医学の歩み142:804,1987

・Mallet: ML,: Hadjivassiliou M, Sarrigiannis PG et al: The Role of Oxidative Stress in Peripheral Neuropathy. Journal of Molecular Neuroscience 70: 1009-1017, 2020

・永田勝太郎:機能性身体症候群(FSS)としての慢性疼痛-線維筋痛症の臨床から-. 慢性疼痛 32: 25-32, 2013

・永田勝太郎:線維筋痛症の背後に潜む疾患. 慢性疼痛 34: 191-194, 2015

・永田勝太郎, 志和悟子, 大槻千佳ほか:線維筋痛症の発症要因の追究:糖化, 酸化, 血行動態について. 慢性疼痛 39(1): 114-118, 2020

・Taegtmeyer: H,: Young ME, Lopaschuk GD et al: Assessing Cardiac Metabolism: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circ Res 118(10): 1659-1701,

2016

・Zhang: H,: Zhabyeyev P, Wang S et al: Role of iron metabolism in heart failure: From iron deficiency to iron overload. Molecular Basis of Disease 1865: 1925-1937, 2019

・Ortancil: O,: Sanli A, Eryuksei R et al: Association between serum ferritin level and fibromyalgia syndrome. Eur J Clin Nutr 64(3): 308-312, 2010

 

 

 

 

代謝系と小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy)

代謝系でsmall fiberが影響を受けやすいのは血糖(グルコース)値の異常です。

 

血糖(グルコース)値は、一日中おおよそ濃度が80~140mg/dlで安定するように調節されています。

安定した血糖(グルコース)の供給は全身の臓器に必要です。

また、この濃度の範囲であれば組織は障害を受けることはありません。

 

・低血糖

低血糖はsmall fiberに障害をきたします。

低血糖が2時間続いた場合、自律神経の働きが鈍くなり、元の戻るまで16時間以上かかるとの報告があります。

低血糖は過敏、不安、不安定、焦燥感、恐怖心、攻撃性などのさまざまな精神症状を引き起こします。

低血糖は、カテコラミンコルチゾールが過剰に分泌するため末梢の血管を強く締め、末梢の血液が足りない状態(虚血)を引き起こします。

 

・血糖値スパイク

血糖値スパイク(食後に高血糖となりその後急降下)は small fiberに障害をきたします。

血糖値スパイク高血糖は糖化(メイラード)反応を引き起こし、small fiberに終末糖化産物(advanced glycation end products:AGEs)を蓄積させ障害を引き起こします。

血糖値スパイクにおける高血糖後の急降下酸化ストレスを上昇させます。

血糖値スパイクにおける高血糖後の急降下カテコラミンやコルチゾールが過剰に分泌するため末梢の血管を強く締め、末梢の血液が足りない状態(虚血)を引き起こします。

低血糖と血糖値スパイクは、主にすい臓のランゲルハンス島から分泌するインスリンの過剰な分泌で引き起こされます。

・米井嘉一:糖化ストレスと炎症・疼痛. Comprehensive Medicine 19(1): 11-20, 2020

・永田勝太郎, 志和悟子, 大槻千佳ほか:線維筋痛症の発症要因の追究:糖化, 酸化, 血行動態について. 慢性疼痛 39(1): 114-118, 2020

・永田勝太郎, 志和悟子, 大槻千佳ほか:Flash Glucose Monitoring (FGM) 時代の血糖値の分類. Comprehensive Medicine 19(1): 21-30, 2020

 

 

・高トリグリセライド血症

高トリグリセライド血症はSFNの原因となる可能性があります。

 

 

 

・グルテン末梢神経障害

含グルテン穀物(小麦、大麦、ライ麦)の摂取はグルテン末梢神経障害を引き起こす患者さんが存在します。

・Terkelsen: AJ,: Karlsson P, Lauria G et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017

・Rouvroye: MD,: Zis P, Van Dam AM et al: The Neuropathology of Gluten-Related Neurological Disorder: A Systematic Review. Nutrients 12(3): 822, 2020

 

 

酸化ストレス防御系と小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy)

酸化ストレス(活性酸素種など)が増え、体内にある抗酸化物質が減ると、

小径線維ニューロパチー(SFN)が発症する可能性があります。

 

私たちは、酸素を吸って生きています。

酸素は肺から血液に取り込まれ、血流に乗って全身の細胞に運ばれます。

人間の細胞や約37兆個あると言われています。

細胞のミトコンドリアでは人間のエネルギーの貨幣を言われるATPを作ります。

ATPは、いつの時点でも40~50グラムしかありません。でもこの量は1分間で使い切ってしまう量です。

ATPは常にリサイクルを繰り返し、絶え間なく作られています。

人間が生きるためには、常に十分なATPを作り続けていかなくてはいけません。

 

1日に必要なATPは約70キログラムです。

そのうちの半分は心臓で作り、心臓で使っています。

 

ミトコンドリアでATPを作るためには、酸素、ブドウ糖、多くの酵素、ビタミン類、鉄分などのミネラルが必要です。

ATPを作る過程で、酸素の約5%活性酸素種(酸化ストレス)となります。

ほどよい量の活性酸素種(酸化ストレス)は、体内に侵入した細菌やウィルスを殺します。良いこともするのです。

 

しかし、過剰な活性酸素種(酸化ストレス)は、細胞やDNAを傷め、小径線維ニューロパチーの痛み、がん、動脈硬化、認知症など様々な病気、早い老化を引き起こし命を脅かします。

例えると、体内の「さび」を作ってしまいます。

体内には元々、抗酸化物質が備わっています。

抗酸化物質には、コエンザイムQ10、ビタミンC、D、B12、E、グルタチオン、リポ酸、尿酸、ウロビリノーゲン、ビリルビンがあります。これらが十分ないと酸化ストレスに対抗できません。

 

体の外から補える抗酸化力のある食材やサプリメントがあります。

 

・二井将光:生命を支えるATPエネルギー. 講談社, 東京, 2017, p36-37

・Mallet: ML,: Hadjivassiliou M, Sarrigiannis PG et al: The Role of Oxidative Stress in Peripheral Neuropathy. Journal of Molecular Neuroscience 70: 1009-1017, 2020