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小径線維ニューロパチー(SFN)

小径線維ニューロパチー(Small Fiber Neuropathy:SFN)

痛みと疲労は、からだの不調を真っ先に教えてくれる症状であると言われています。

近年、明らかな原因のない痛みと疲労は、細い神経である小径線維(Aδ線維とC線維)が障害を受けて発症する小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:以下SFN)の可能性があると報告されました。

  • Oaklander: AL,: Herzog ZD, Downs H et al: Objective evidence that small-fiber polyneuropathy underlies some illnesses currently labeled as fibromyalgia, Pain 154(11): 2310-2316, 2013

神経系

神経系は、脳や脊髄などの中枢神経や、中枢神経から全身に広がる、あるいは全身から中枢神経へ向かう末梢神経に分類されます。

  • Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡 監訳:神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京,pp340,2021)より引用

小径線維(細い神経)

末梢神経は、太い順に、A線維、B線維、C線維と名づけられています。A線維のなかでも、太い順に、Aα(エー・アルファ)、Aβ(エー・ベータ)、Aδ(エー・デルタ)と名付けられています。Aα線維、Aβ線維を大径線維(太い神経)、Aδ線維、B線維、C線維を小径線維(細い神経)といいます。

小径線維の形態

Aα線維、Aβ線維、Aδ線維は、神経の中心の軸索の周囲に髄鞘が取り囲んでいますが、C線維には髄鞘がありません。

  • Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡 監訳:神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京,p.322,2021)より引用

  • Shünke M, Shulte Erik, Shumacher U: Allgbeine Anatomie und Bewegungssystb PROMETHEUS LernAtlas der Anatomie. Georg Thibe Verlag, Stuttgart・New York, 2005(坂井建雄, 松村讓兒(監訳): プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系. 医学書院, 東京,PP85, 2007)より引用

からだの感覚(痛み、かゆみ、ほてり、冷え)を伝える感覚神経と、からだの働きを調整している自律神経は、小径線維(細い神経)でできています。
感覚神経はAδ線維とC線維、自律神経はB線維とC線維で構成されています。

  • 喜山克彦: 痛み・疲労と小径線維ニューロパチー(SFN):ナラティブ・レビュー. Comprehensive Medicine 全人的医療 21(1):62-80, 2022
  感覚神経 自律神経
(節後線維)
髄鞘 薄い有髄 無髄 無髄
分類 Aδ線維 C線維 C線維
筋・関節からの Ⅲ群 Ⅳ群  
直径(μm) 1~5 0.2~1.5 0.2~1.5
伝導速度(m/s) 5~30 0.5~2 0.5~2
特徴 受容器のタイプ モダリティ 受容器のタイプ モダリティ  
  • 皮膚と皮下の機械受容器
  • 無毛部
    温度受容器
  • 寒冷受容器
  • 温熱侵害受容器
    侵害受容器
  • 機械的
  • 温度機械的
    筋および骨格の機械受容器
  • 伸張感受性自由神経終末
  • 伸張感受性自由神経終末
  • 軽いタッチ
  • 皮膚冷却(25℃)
  • 高温(>45℃)
    痛み
  • 鋭く、針を刺すような
  • 灼熱痛
    四肢固有感覚
  • 過度の伸張もしくは力
  • 温度受容器
  • 温暖受容器
  • 寒冷侵害受容器
    侵害受容器
  • 温度機械的
    ポリモーダル受容器
  • 触覚
  • 皮膚の温かさ(41℃)
  • 低温(<5℃)
    痛み
  • 凍るような痛み
  • 緩徐に燃えるような痛み
  • かゆみ

小径線維の分類と働き (文献14と16から引用)

  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al.: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. Journal of Neuromuscular Diseases 8(2): 185-207, 2021
  • Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡 監訳:神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京,p.321,021)
  • 喜山克彦: 痛み・疲労と小径線維ニューロパチー(SFN):ナラティブ・レビュー. Comprehensive Medicine 全人的医療 21(1):62-80, 2022

感覚神経のニューロンのタイプ

感覚神経のニューロンのタイプは偽単極性ニューロンです。このニューロンは後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)内にある神経細胞体から2つの方向に軸索が伸びていきます。

自律神経のニューロンのタイプ

自律神経のニューロンのタイプは、多極性ニューロンで、図のような構造です。

感覚神経の後根神経節(DRG)

脊髄の近くには、後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)が、左右31対存在します。

後根神経節(DRG)1個につき、6から10万個の神経細胞が存在します。

  • Lavin MM: Dorsal root ganglia: fibromyalgia pain factory?. Clin Rheumatol 40(2): 783-787, 2021より引用

後根神経節(DRG)内の組織です。

  • Lavin MM: Dorsal root ganglia: fibromyalgia pain factory?. Clin Rheumatol 40(2): 783-787, 2021より引用

後根神経節(DRG)は、髄膜層に覆われおり、脳脊髄液に浸されており、脳脊髄液の成分の異常に影響を受けやすいと考えられます。

  • Agur AMR, Lee MJ: Grants Atlas of Anatomy tenth edition. Lippincott Williams & Wilkins, pp288, 1999より引用

小径線維(small fiber)の後根神経節(DRG)は、血液-神経関門(blood-nerve barrier、血液の有害物質から脳などの神経を守る壁)に守られず、その毛細血管は有窓性(穴あき)です。

  • Boulpaep EL: the microcirculation. Medical Physiology Third Edition. Elsevier, Philadelphia: pp462, 2017より引用

ニューロン(神経細胞)の細胞体は血液由来の毒素、感染症、免疫攻撃に対して弱いようにできています

筋の血管、ファッシア、皮膚の神経支配

筋の血管、皮膚の血管、ファッシア、皮膚は、交感神経(血管、ファッシア、皮膚)、感覚神経(皮膚、ファッシア)、感覚・運動神経(血管)に支配されています。

  • Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡 監訳:神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京,pp340,2021)より引用

末梢血管の神経支配

細動脈の血管は、外膜中膜内膜に分かれています。
中膜の中に、血管を収縮する役割のある血管平滑筋があります。
血管平滑筋を収縮したり拡張したりする神経は、中膜の血管平滑筋周囲に神経の網(神経叢)を形成し、
そこから神経は平滑筋細胞のすきまに入っていきます。

  • 鈴木郁子(編著): やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み. 中外医学者, 東京, pp88, 2015

血管神経には2つの種類あります。

1つめは交感神経です。

交感神経は、C線維であり、脊髄から血管へ向かっていく方向へ情報が伝わる遠心性です。そして血管平滑筋に働き、血管を収縮させます。

2つめは、感覚・運動神経です。副交感神経ではありません。

感覚・運動神経は、Aδ線維(少ない)とC線維(多い)で成り立ち、脊髄へ向かっていく方向へ情報が伝わる求心性です。そして血管平滑筋に働き、血管を拡張させます。また、痛みを伝える神経でもあります。
 感覚・運動神経は、偽単極性ニューロンのタイプなので、後根神経節(DRG)に神経細胞体が存在します。つまり、後根神経節(DRG)への、さまざまなストレッサーは、筋の細動脈の血流障害と痛覚過敏を引き起こす可能性があるということです。(神経障害性微小血管障害:neuropathic microvasculopathy

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

通常は、交感神経は感覚・運動神経より多く存在します。

  • Aalkjær C, Nilsson H, De Mey JGR: SYMPATHETIC AND SENSORY-MOTOR NERVES IN PERIPHERAL SMALL ARTERIES. Physiol Rev 101: 495-544, 2020
  • Albrecht PJ, Hou Q, Argoff CE, et al: Excessive Peptidergic Sensory Innervation of Cutaneous Arteriole-Venule Shunt(AVS) in the Palmer Glabrous Skin of Fibromyalgia Patient: Implications for Widespread Deep Tissue Pain and Fatigue.

毛血管の平滑筋細胞間には、交感神経と感覚・運動神経の軸索の末端が入り込み、神経には膨隆部が存在します。

  • 鈴木郁子(編著): やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み. 中外医学者, 東京, pp88, 2015
  • Aalkjær C, Nilsson H, De Mey JGR: SYMPATHETIC AND SENSORY-MOTOR NERVES IN PERIPHERAL SMALL ARTERIES. Physiol Rev 101: 495-544, 2020

交感神経の末端の膨隆部からは、神経伝達物質で、強力な血管収縮物質である、ノルエピネフリンなどが血管平滑筋に向かって分泌され、感覚・運動神経の末端の膨隆部からは、強力な血管拡張物質であるCGRPなどが分泌されます。

  • Aalkjær C, Nilsson H, De Mey JGR: SYMPATHETIC AND SENSORY-MOTOR NERVES IN PERIPHERAL SMALL ARTERIES. Physiol Rev 101: 495-544, 2020

皮膚の血管の神経支配

動静脈シャント(AVS:Arteriovenous shunt)

無毛皮膚(glabrous skin)と体温調節機能

動静脈シャント(AVS)は、無毛皮膚(glabrous skin)に多く存在します。一方、有毛皮膚(hairy skin)の真皮深部には血管はほとんど見られず、動静脈シャント(AVS)は手掌と比べてはるかに少ないです。

  • Albrecht PJ, Hou Q, Argoff CE, et al: Excessive Peptidergic Sensory Innervation of Cutaneous Arteriole-Venule Shunt(AVS) in the Palmer Glabrous Skin of Fibromyalgia Patient: Implications for Widespread Deep Tissue Pain and Fatigue.

AVSは、主に体温の調節、全身の血液供給の調整のために働きます。

暑さの刺激は、交感神経(C線維)の活動をあげ、AVSが収縮し、動脈血が手掌に向かって流れてゆき、手掌において熱が放散されます。

寒さの刺激は、感覚・運動神経(Aδ線維・C線維)の活動をあげ、AVSが拡張し、動脈血が手掌に向かわずAVSを通り、そのまま静脈へ流れ込み、体内に熱を蓄えます。

  • Fibromyalgia is not all in your head, new research confirms. Diseases, Conditions, Syndromes news
    https://medicalxpress.com/news/2013-06-fibromyalgia.html
  • Albrecht PJ, Hou Q, Argoff CE, et al: Excessive Peptidergic Sensory Innervation of Cutaneous Arteriole-Venule Shunt(AVS) in the Palmer Glabrous Skin of Fibromyalgia Patient: Implications for Widespread Deep Tissue Pain and Fatigue.

皮膚と骨格筋の血流は、逆相関の関係にあり、相互作用により体温を維持します。熱ストレス条件下では、心拍出量の60%が皮膚に分配され、手掌の無毛皮膚と手背の有毛皮膚の血液の割合は6:1 になります。

  • Albrecht PJ, Hou Q, Argoff CE, et al: Excessive Peptidergic Sensory Innervation of Cutaneous Arteriole-Venule Shunt(AVS) in the Palmer Glabrous Skin of Fibromyalgia Patient: Implications for Widespread Deep Tissue Pain and Fatigue.

骨格筋の微小循環と支配神経

筋の血管(運動)神経は、筋全体(ファッシアを含む)の約40%を占めます。

  • Lesondak D: Fascia: What it is and Why it Matters. Handspring Publishing Limited, Pencaitland, 2018.(小林只監訳: ファッシア-その存在と知られざる役割. 医道の日本社, 横須賀: p45-92, 2020)

血管の支配神経は、主に細動脈に存在し、交感神経(C線維)が血管の収縮に働き、感覚・運動神経(Aα線維とC線維)が血管の拡張に働きます。正常では、交感神経が感覚・運動神経に比べて、多くを占めます。

  • Boron WF, Boulpaep EL: Medical Physiology third edition. ELSEVIER, Philadelphia, pp563, 2017
  • Albrecht PJ, Hou Q, Argoff CE, et al: Excessive Peptidergic Sensory Innervation of Cutaneous Arteriole-Venule Shunt(AVS) in the Palmer Glabrous Skin of Fibromyalgia Patient: Implications for Widespread Deep Tissue Pain and Fatigue.
  • Aalkjær C, Nilsson H, De Mey JGR: SYMPATHETIC AND SENSORY-MOTOR NERVES IN PERIPHERAL SMALL ARTERIES. Physiol Rev 101: 495-544, 2020

  • 鈴木郁子(編著): やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み. 中外医学者, 東京, pp88, 2015

ファッシア(fascia)とは

日本で最もファッシアの研究が行なわれている日本整形内科学会(JNOS)において、ファッシアは以下のように定義されました。

  • 医学用語としてのファッシア:ネットワーク機能を有する線維性の立体網目状組織
  • 一般用語としてのファッシア:全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う、線維性の立体網目状組織。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。
  • 筋と関連するファッシアである筋膜(Myofascia):個々の筋線維、筋肉または筋膜群を包み、お互いを分割および連結する線維性組織。筋や関節の動きを滑らかにしつつも、これらと制御して位置を保つ。
参考サイト

NHK WORLD JAPAN Fascia: Cause of Chronic Pain

Superficial fascia(浅在性のファッシア)とDeep fascia(深在性のファッシア)

  • H Elsharkawy, A Pawa, ER Mariano: Interfascial Plane Blocks Back to Basics. Regional Anesthesia and Pain Medicine 43(4): 1-6, 2018

Superficial Fascia(浅在性のファッシア)の神経支配

Superficial Fascia は感覚神経(感覚・運動神経を含む)と交感神経線維の両方で神経支配を受けています。

Superficial Fasciaを横断して皮膚に達するのは、一部の大きな神経束のみで、ほとんどの神経線維は血管周囲に存在しているか、疎性結合組織(波状のコラーゲン線維、脂肪組織など)に埋め込まれています。

感覚神経(Aδ線維とC線維)、自律神経線維(C線維)が血管とは関係なく、間質(結合組織)内部に存在します。交感神経終末の一部は血管上で終端しないため、未知の機能を果たしている可能性があります。

  • C Fede, L Petrelli, C Pirri, et al.: Innervation of human superficial fascia. Frontiers in Neuroanatomy: 1-10, 2022

  • Lesondak D: Fascia: What it is and Why it Matters. Handspring Publishing Limited, Pencaitland, 2018.(小林只監訳: ファッシア-その存在と知られざる役割. 医道の日本社, 横須賀: p45-92, 2020)

ストレス状態や外傷、急激な温度変化により、皮膚だけでなくSuperficial Fasciaでも交感神経活動が亢進する可能性があります。交感神経の活動は、Superficial Fasciaの緊張を制御する役割も担っている可能性があります。Superficial Fasciaの硬さと交感神経の活性化との間に密接な関係があることが報告されています。慢性的なストレスは、自律神経系の活性化によって、Superficial Fascia組織の基礎的な緊張に影響を与える可能性があります。

慢性的なストレス状態がSuperficial Fasciaに変化をもたらし、体温調節、リンパの流れ、静脈循環に何らかの変化をもたらす可能性があります。慢性ストレスは、免疫系にも影響を及ぼし、リンパ球のアポトーシスと免疫抑制を引き起こすことが報告されました。Superficial Fasciaの結合組織に存在する神経線維の一部は、疼痛調節メカノレセプターとして、炎症性疼痛など、触覚によって誘発される、機械的アロディニアを媒介する役割を果たす可能性があります。

Superficial Fasciaの特異的な神経支配と皮膚との強い関係から、この神経支配が皮膚感覚の一部である可能性があります。線維筋痛症のメカニズムにSuperficial Fasciaが関与している可能性があります。

  • C Fede, L Petrelli, C Pirri, et al.: Innervation of human superficial fascia. Frontiers in Neuroanatomy: 1-10, 2022

Deep Fascia(深在性のファッシア)の神経支配(Myofasciaを含む)

研究されたすべての筋および深部のファッシアに、Aδ線維もしくはC線維の自由神経終末が発見されました。

  • V S Rodrigez, C Fede, C Pirri, et al: Fascial innervation: A Systbatic Review of the Literature. Int J Mol Sci 23(10): 2-12, 2022

  • Lesondak D: Fascia: What it is and Why it Matters. Handspring Publishing Limited, Pencaitland, 2018. (小林只監訳: ファッシア-その存在と知られざる役割. 医道の日本社, 横須賀: p45-92, 2020)

慢性疼痛における深在性のファッシア(Myofasciaを含む)の異常(小径線維の異常以外も含む)

F Kondrup, N Gaudreault, G Venne: The deep fascia and its role in chronic pain and pathological condition: A review. Clinical Anatomy(35): 649–659, 2022

DRGは痛みの工場?

後根神経節(DRG)は、さまざまなストレッサーを感知して、線維筋痛症などの慢性の痛み(神経障害性疼痛)に変換するハブではないか? 「痛みの工場」ではないか? との意見もあります。

  • Lavin MM: Dorsal root ganglia: fibromyalgia pain factory?. Clin Rheumatol 40(2): 783-787, 2021

軸索輸送

軸索輸送(Axonal transport)とは、神経細胞の軸索の中で、様々なものを運ぶ働きを指します。
神経細胞の細胞体から軸索の先端にあるシナプスまで、ミトコンドリア、脂質、シナプス小胞、タンパク質、および他の細胞内小器官が運ばれています。 軸索は細胞体にくらべ、1,000倍から1万倍の長さがあります。軸索にはタンパク質を作り出すリボゾームが含まれていないので、タンパク質が必要な場合は軸索輸送によって細胞体から運ぶ必要があります。これを順行性軸索輸送(anterograde movbent)といいます。また、軸索末端から取り込まれた物質などを細胞体に送る逆行性軸索輸送(retrograde movbent)も存在します。
軸索の中の大多数のタンパク質は、神経細胞体で作られ軸索に沿って輸送されます。 このため軸索輸送は、神経細胞の成長と生存に不可欠です。 軸索内には微小管が存在し、モーター蛋白質に「レール」を提供しています。 この微小管上を動くタンパク質がキネシン(kinesin)ダイニン(dynein = MAP-1c)です。キネシンは順行性(軸索先端に向かって)に貨物を動かすのに対して、ダイニンは逆行性に(細胞体に向かって)動きます。 これらのモータータンパク質は、ミトコンドリアや、細胞骨格や、神経伝達物質を含む小嚢などのオルガネラを含む数個の異なった貨物に結合して輸送します。
小さなベシクルは比較的速く(50-400mm/日)動きますが、タンパク質の輸送ははるかに長く(8mm/日未満)かかります。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より

  • Bruce R. Ransom: Organization of The Nervous Systb. Medical Physiology Third Edition. Elsevier, Philadelphia: pp258, 2017

神経細胞は軸索で大切な物質を運んでいますが(軸索輸送)、特に下肢の軸索は、細く長く、1m以上にもなることがあります。何らかの要因が重なると、それが上手く機能せず、神経障害をきたしやすいと考えられます。

  • Connors BW: sensory transduction. Medical Physiology Third Edition. Elsevier, Philadelphia: pp396, 2017
  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

C線維は、軸索を取り囲む髄鞘(ずいしょう)がなく、エネルギーを節約できる跳躍伝導(ちょうやくでんどう)ではありません。エネルギーの不足の影響を受けやすいと考えられます。

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251,

小径線維ニューロパチーの症状(MGH Small-Fiber Symptom Survey : MGH-SSS)より

  1. Tiredness (fatigue):疲れ(疲労)
  2. Reduced endurance or strength for activities:活動に対する持久力や体力の低下
  3. Headaches:頭痛
  4. Difficulty thinking, concentrating, or rbbbering:思考力、集中力、記憶力の低下
  5. Eye difficulties (dry, sensitive to light, and hard to focus):目の障害(目が乾く、光に敏感、焦点が合いにくい)
  6. Changed pattern of sweating on body:体の発汗パターンの変化
  7. Less hair growth on lower legs or feet:下肢または足の発毛が少ない
  8. Need to move legs often for comfort:快適さのために足を頻繁に動かす必要がある
  9. Skin that hurts for no reason:理由もなく皮膚が痛む
  10. Skin that itches for no reason:理由もなくかゆくなる皮膚
  11. Skin that hurts after gentle contact (touch, breeze):優しく触れると(触れる、そよ風)痛む皮膚
  12. Skin that burns or requires cooling for comfort:ほてり快適さのために冷却を必要とする皮膚
  13. Skin that has less sensation (numbness):感覚が鈍い皮膚(しびれ)
  14. Tingling or “pins and needles”: ピリピリする、または 「ピン・アンド・ニードル」
  15. Deep pains or aches:深い痛みや痛み
  16. Deep vibration or fluttering:深い振動またはびらん
  17. Feeling dizzy or faint when standing up:立ち上がるとめまいや失神を感じる
  18. Rapid heartbeat:速い心拍
  19. Swelling in hands or feet:手足のむくみ
  20. Skin with unusual color or changes in color:異常な色の皮膚または色の変化
  21. Blisters or sores inside mouth:口の中の水疱またはただれ
  22. Blisters, sores, or ulcers on feet and hands:足や手の水疱、ただれ、潰瘍
  23. Less appetite or unintended weight loss:食欲不振または意図しない体重減少
  24. Stomach quickly full or bloated after meals:食後、胃がすぐに満腹になる、または膨満する
  25. Nausea or vomiting:吐き気または嘔吐
  26. Abdominal pain:腹痛
  27. Diarrhea:下痢
  28. Constipation:便秘
  29. Urinary frequency, urgency, or accidents:頻尿、尿意切迫感または失禁
  30. Difficulty starting to urinate:排尿困難
  31. Difficulty completely bptying bladder:膀胱を完全に空にするのが難しい
  32. Difficulty with sexual function:性機能障害
  33. Chronic Widespread Pain (CWP):慢性広範痛(CWP)
  • Component 1 (gastrointestinal; 3, 23, 24, 25, and 28)
  • Component 2 (somatosensory; 9, 11, 12, and 32)
  • Component 3 (miscellaneous; 1, 2, 5, 18, and 27)
  • Component 4 (microvascular; 6, 7, 10, 19, and 20)
  • Component 5 (urological; 29, 30, and 31)

M Lodahl, R Treister, AL Oaklander: Specific symptoms may discriminate between fibromyalgia patients with vs without objective test evidence of small-fiber polyneuropathy. Pain Reports (3): 1-6, 2018

小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFN)の原因

SFNの原因には、1,後天性(acquired)、2,遺伝性(hereditary)、3,症候性(syndrome)、4,特発性(idiopathic)の4つがあります。
そのうち特発性SFN(idiopathic SFN:iSFN)が約50%を占め、多因子、つまりたくさんの要因が絡みあって発症すると考えられています。そのたくさんの要因をまとめてホメオスタシスの歪み(ゆがみ)と捉えることができます。ホメオスタシスとは恒常性と訳され、健康や命を守るからだ全体のシステムのことです。ホメオスタシスの歪みとは、ホメオスタシスが正常に機能しない状態のことです。

 iSFNは、病気(器質的病態)が発症しないように、ホメオスタシスの歪みを、主に痛みと疲労の症状によって脳に伝えている状態と考えられます。

  • Cazzato D, Lauria G: Small fibre neuropathy. Curr Opin Neurol 30(5): 490-499, 2017
  • Voortman M, Fritz D, Vogels OJM, et al: Small fiber neuropathy: a disabling and underrecognized syndrome. Curr Opin Pulm
    Med 23(5): 447-457, 2017
  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251,
    2019
  • 喜山克彦, 永田勝太郎: 機能性身体症候群の筋骨格系疼痛に対してホメオスタシスの歪みを中核病理とする意義. 慢性疼痛 40(1): 103-108, 2021
  • 喜山克彦: 痛み・疲労と小径線維ニューロパチー(SFN):ナラティブ・レビュー. Comprehensive Medicine 全人的医療 21(1):62-80, 2022

原因のはっきりしているSFN

SFNの後天性、遺伝性および症候群性の原因

  原因 補足
後天性SFN 代謝性
  • 糖尿病
  • 高トリセライド血症
  • 尿毒症
全SFNの約20%
ビタミン欠乏症
  • ビタミンB12欠乏症
  • 葉酸欠乏症35)
神経毒の暴露
  • アルコール
  • 過剰ピリドキシン( ビタミンB6)
  • 抗レトロウィルス剤
  • 化学療法剤
  • 有機溶剤
  • スタチン
  • 症例報告:
    一部の抗不整脈薬、一部の抗生物質、
    ボツリヌス菌、
    重金属(タリウム、鉛)
    TNF-α阻害薬
感染症
  • C型肝炎ウィルス
  • HIV
  • インフルエンザウィルス
  • ハンセン病
  • 重症敗血症、敗血症性ショック
  • 新型コロナウィルス36)・そのワクチン摂取37)
  • 症例報告:
    エプスタインバーウィルス、
    単純ヘルペスウィルス、
    B型肝炎ウィルス、
    ワクチン接種(マイコプラズマ肺炎、
    風疹・梅毒・狂犬病・水痘・ライム病、
    ヒトパピローマウィルスワクチン38)
遺伝性SFN  
  • 先天性Naチャネル障害
  • 家族性アミロイドニューロパチー
  • 遺伝性感覚神経障害および自律神経障害
  • ファブリー病
  • ポンペ病
  • エーラス・ダンロス症候群(非遺伝性あり)39
Nav1.7a、Nav1.8、Nav1.9の
サブユニットを各コードする
SCN9A、SCN10A、 SCN11Aの
機能獲得型変異
症候群性SFN 免疫学的原因
  • 甲状腺機能低下症(橋本病)
  • セリアック病(遺伝性)40)
  • ギランバレー症候群
  • 単クローナル・ガンモパチー
  • 原発性アミロイドーシス
  • 傍腫瘍性
  • サルコイドーシス
  • 強皮症
  • シェーグレン症候群
  • 紅斑性全身性エリテマトーデス
  • 血管炎
  • パーキンソン病
 
  その他の原因
  • 中枢性感作
まだ結論はでていない
  • Terkelsen: AJ,: Karlsson P, Lauria G et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017
  • Cazzato D, Lauria G: Small fibre neuropathy. Curr Opin Neurol 30(5): 490-499, 2017
  • Koike H, Takahashi M, Ohyama K, et al: Clinicopathologic features of folate-deficiency neuropathy. Neurology 84(10): 1026-1033, 2015
  • Novac P: Post COVIC-19 syndrome associated with orthostatic cerebral hypoperfusion syndrome, small fiber neuropathy and benefit of immunotherapy: a case report. eNeurologicalSci 21: 1-2, 2020
  • Waheed W, Carey ME, Tandan SR, et al: Post COVID-19 vaccine small fiber neuropathy. Muscle Nerve 64(1): E1-E4, 2021
  • Ryabkove VA, Churilov LP, Shoenfeld Y: Neuroimmunology: What Role for Autoimmunity, Neuroinflammation, and Small Fiber Neuropathy in Fibromyalgia, Chronic Fatigue Syndrome, and Adverse Event after Human Papillomavirus Vaccination? Int. J. Mol. Sci. 20: 1-14, 2019
  • Cazzato D, Castori M, Lombardi R, et al: Small fiber neuropathy is a common feature of Ehlers-Danlos syndromes. Neurology 87(2): 155-159, 2016
  • Rouvroye: MD,: Zis P, Van Dam AM et al: The Neuropathology of Gluten-Related Neurological Disorder: A Systbatic Review. Nutrients 12(3): 822, 2020
  • 喜山克彦: 痛み・疲労と小径線維ニューロパチー(SFN):ナラティブ・レビュー. Comprehensive Medicine 全人的医療 21(1):62-80, 2022

SFNと考えられている症候もしくは病態

線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の49%(病理検査+角膜共焦点顕微鏡検査)
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: ME/CFS)の31%(病理検査)
体位性起立頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)の38%(病理検査)は
小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFN)であったとの研究結果が報告されています。

以下の症候もしくは病態も同様にSFNと考えられています。

  • 全身性労作不耐症(systbic exertion intolerance disease:SEID)
  • 神経性起立性低血圧
  • けいれん
  • 掻痒症
  • 発汗異常
  • 慢性頭痛
  • ドライアイ
  • ドライマウス
  • むずむず脚症候群(restless legs syndrome:RLS)
  • 複合性局所症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)
  • 口腔内灼熱症候群(burning mouth syndrome:BMS)
  • 異常感覚性背部神経痛(notalgia paresthetica)
  • 異常感覚性大腿神経痛(meralgia paresthetica)
  • 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:以下IBS)
  • 機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)
  • 間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(interstitial cystitis/bladder pain syndrome:IC/BPS)

など

  • Grayston R, Czanner G, Elhadd K et al: A systbatic review and meta-analysis of the prevalence of small fiber pathology in fibromyalgia: Implications for a new paradigm in fibromyalgia etiopathogenesis. Sbinars in Arthritis and Rheumatism 48: 933-940, 2019
  • Joseph P, Arevalo C, Oliveira RKF, et al: Insights From Invasive Cardiopulmonary Exercise Testing of Patients With Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome. CHEST 6: 1-10, 2021
  • Gibbons CH, Bonyhay I, Benson A, et al: Structural and Functional Small Fiber Abnormalities in the Neuropathic Postural Tachycardia Syndrome. PLoS One 8(12): e84716, 2013
  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019
  • Grayston R, Czanner G, Elhadd K et al: A systbatic review and meta-analysis of the prevalence of small fiber pathology in fibromyalgia: Implications for a new paradigm in fibromyalgia etiopathogenesis. Sbinars in Arthritis and Rheumatism 48: 933-940, 2019
  • Joseph P, Arevalo C, Oliveira RKF, et al: Insights From Invasive Cardiopulmonary Exercise Testing of Patients With Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome. CHEST 6: 1-10, 2021
  • Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve Systb Disease 10: 1-6, 2018
  • Oaklander AL, Klein MM: Evidence of Small-Fiber Polyneuropathy in Unexplained, Juvenile-Onset, Widespread Pain Syndromes. PEDIATRICS 131(4):1091-1100, 2013
  • Terkelsen: AJ,: Karlsson P, Lauria G et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017
  • Lawson VH, Grewal J, Hackshaw KV et al: Fibromyalgia syndrome and small fiber, early or mild sensory polyneuropathy. Muscle Nerve 58: 625-630, 2018
  • Voortman M, Fritz D, Vogels OJM, et al: Small fiber neuropathy: a disabling and underrecognized syndrome. Curr Opin Pulm Med 23(5): 447-457, 2017
  • Zeidman LA: Advances in the Managbent of Small Fiber Neuropathy. Neuro Clin 39: 113-131, 2021
  • Matthews CA, Deveshwar SP, Evans RJ, et al: Small fiber polyneuropathy as a potential therapeutic target in interstitial cystitis/bladder pain syndrome. Int Urogynecol J 30(11): 1817-1820, 2019
  • Chen A, De E, Agroff C. : Small fiber polyneuropathy is prevalent in patients experiencing complex chronic pelvic pain. Pain Med 20: 521-527, 2018
  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. J of Neuromuscular Diseases 8: 185-207, 2021
  • Cazzato D, Lauria G: Small fibre neuropathy. Curr Opin Neurol 30(5): 490-499, 2017
  • Farhad K: Current Diagnosis and Treatment of Painful Small Fiber Neuropathy. Curr Neurol Neurosci Rep 19(12):  -  , 2019

小径線維ニューロパチー(SFN)発症の概要

小径線維(small fiber)は、健康や命を守るため、最前線で戦う、最ももろく、最も自己犠牲的な神経です。

小径線維(small fiber)は、生体(ヒト)が健康であることに不都合な毒素、感染症、免疫攻撃などがあると、一時的な興奮性の変化、誤作動、時には退化してしまいます。

  • Sommer C, Üçeyler N: Small Fiber Pathology in Pain Syndromes. Small Fiber Neuropathy and Related Syndrome: Pain and Neurodegeneration. Springer Nature Singapore Pte Ltd. : Singapore, pp121-129, 2019

小径線維ニューロパチー(SFN)の症候と病態による分類

  • Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve Systb Disease 10: 1-6, 2018より引用

トッド・D・レヴィン医師は、SFNをその症候と病態により

  • 小径線維Naチャンネル障害(small fiber sodium channel dysfunction:SFSCD
  • 小径線維介在有痛性ニューロパチー(small fiber mediated painful neuropathy:SFMPN
  • 小径線維介在広汎痛(small fiber mediated widespread pain:SFMWP
  • 小径線維介在自律神経機能障害(small fiber mediated autonomic dysfunction:SFMAD

に分類しました。

  • Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve Systb Disease 10: 1-6, 2018
  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. J of Neuromuscular Diseases 8: 185-207, 2021
参考サイト

小径線維Naチャンネル障害(small fiber sodium channel dysfunction : SFSCD)

  • Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve Systb Disease 10: 1-6, 2018より引用

Levine Tは、従来、肢端紅痛症(erythomelalgia)発作性疼痛(peroxysmal pain)とラベルされていた疾患を、小径線維・Naチャンネル機能障害(SFSCD)という用語を使用することを勧めています。
SFSCDは、原因から遺伝性SFNに分類されます。感覚神経の後根神経節(DRG)に存在するNaV1.7、1.8、1.9などのNaチャンネルタンパク質の変異が証明される、発作性の神経障害性疼痛の症状を呈する疾患です。軸索を変性させることなく、生理的に証明された神経の過剰な興奮を有します。

肢端紅痛症(erythomelalgia)

発作的に、両下肢が対称的に、紅斑(赤くなる)、温感、灼熱感が出現する疾患です。発作時には、痛み、浮腫(むくみ)、しびれを伴うことがあります。また、しばしば無汗症もしくは発汗低下が観られます。 原発性(他の病気の影響はない)肢端紅痛症は、遺伝性の病気で常染色体優性遺伝性の疾患です。この疾患は散発性、家族性の可能性がありますが、遺伝子変異とは関連のない患者さんも報告されました。 原発性肢端紅痛症は、後根神経節および交感神経節ニューロンで発現するナトリウムチャンネル1.7 (Nav 1,7)というタンパク質の変性が原因です。 発作の予防として、トリガーイベント(熱への暴露、長時間の立位、身体活動、ストレス、アルコール摂取、辛い食べ物、血管拡張薬、時に振動や軽い接触)の暴露を制限することが必要です。 症状発現時、冷水や氷に触れて、手足を挙上することで緩和されることがあります。鎮痛剤はほぼ無効です。 続発性(他の病気の影響)肢端紅痛症は、骨髄増殖性疾患と関連していることが多いと報告されています。骨髄増殖性疾患、腫瘍随伴症状、自己免疫疾患、毒素および感染症で引き起こされます。後天性、遺伝性、症候群性SFNの原因で引き起こされます。

  • Leroux MB: Erythomelalgia: a cutaneous manifestation 0f neuropathy? An Bras Dermatol 93(1): 85-94, 2018

Wikipedia参照

発作性疼痛(peroxysmal pain)

近年、本邦において、小児四肢疼痛発作症(infantile-onset episodic limb pain)という病名で、この疾患の理解を促す運動が起こっています。
この疾患は、後根神経節(DRG)のナトリウムチャンネル1.9(Nav1.9)というタンパク質の変性が原因です。

小児四肢疼痛発作症(infantile-onset episodic limb pain)乳児期から発症することがあり、ほとんどの方が3歳までに発症し、小学~中学で症状が顕著になります。

秋田大学や京都大学のチームなどが中心となって研究、啓蒙活動をおこなっているようです。

こころあたりのある方は、下のサイトが参考になります。

小児四肢疼痛発作症サイト

小径線維介在・疼痛性神経障害(small fiber mediated painful neuropathy : SFMPN)

  • Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve Systb Disease 10: 1-6, 2018より引用

  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al.: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. Journal of Neuromuscular Diseases 8(2): 185-207, 2021

SFMPNは一般に病理学的定義により

  • 非長さ依存性小径線維ニューロパチー
    (non length-dependent small fiber neuropathy:NLDSFN
  • 長さ依存性小径線維ニューロパチー
    (length-dependent small fiber neuropathy:LDSFN

に分類されます。

  • Terkelsen: AJ,: Karlsson P, Lauria G et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017
  • Levine TD, Bellaire B, Arellano A, et al: A Proposed Taxonomy of Isolated Small Fiber Neuropathy. Neuromuscular Journal 1(4): 18-23, 2020

非長さ依存性小径線維ニューロパチー(NLDSFN)

非長さ依存性小径線維ニューロパチー(NLDSFN)は、長さ依存性小径線維ニューロパチー(LDSFN)より若年である40-50代の女性に多く発症し、SFN患者全体の1/5~1/4を占め、比較的頻度が多い割には、正確な診断がされていない疾患です。

身体症状症、身体障害性疼痛、心因性疼痛、機能性身体症候群(本来の定義と異なり、病名のくずかご的に使用される)などと、診断されてしまいます。

また、ACR2010の線維筋痛症の診断基準に当てはまることがあり、圧痛のない線維筋痛症として診断を受けることもあります。

主に、欧米のこの分野に詳しい神経内科医が、盛んに、この疾患の存在を伝えています。

  • Gbignani F, Bellanova MF, Saccani E, et al: Non-length-dependent small fiber neuropathy : Not a matter of stocking and gloves. Muscle & Nerve 65: 10-28, 2022
  • Zeidman LA: Advances in the Managbent of Small Fiber Neuropathy. Neuro Clin 39: 113-131, 2021
  • Voortman M, Fritz D, Vogels OJM, et al: Small fiber neuropathy: a disabling and underrecognized syndrome. Curr Opin Pulm Med 23(5): 447-457, 2017

NLDSFNの障害の様式

NLDSFNは、後根神経節障害(ganglionopathy:ガングリオノパチー)と非長さ依存性・遠位軸索障害があります。非長さ依存性・遠位軸索障害とは非長さ依存性のdying-back型の軸索変性であり、症状の強さは長さに依存しません(手足の端っこから順々に障害を受けません)。

  • 秋口一郎 監修, 岡伸幸, 川崎照晃, 他:カラーアトラス末梢神経の病理 第2版. 中外医学社, 東京,pp.1-8,2021

NLDSFNの感覚症状のトポグラフィー(神経地図)

しびれや痛みが上下肢の近位(つけねの近く)もしくは遠位(手足のはしっこ)、体幹(胴体)、顔面、舌などの部位にパッチ状に、長さに依存しない(ばらばら)分布をとります。

症状は、時に持続的、時に断続的、時に発作的、時に移動性、通常は夜間に悪化します。

  • Gbignani F, Bellanova MF, Saccani E, et al: Non-length-dependent small fiber neuropathy : Not a matter of stocking and gloves. Muscle & Nerve 65: 10-28, 2022

米国のある神経内科医の臨床経験による、NLDSFNの患者さん23人の感覚症状のトポグラフィーです。

  • Gorson KC, Hermann DM, Thiagarajan R et al: Non-length dependent small fibre neuropathy/ganglionopathy. J Neurol Neurosurg Psychiatry 79: 163-169, 2008

NLDSFN の疾患関連性

代謝・栄養

 糖尿病/糖尿病予備軍、耐糖能異常、メタボリック・シンドローム、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏(B12欠乏、B1欠乏、葉酸欠乏)

免疫介在性

 膠原病(シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、MCTD)、サルコイドーシス、セリアック病、モノクローナル免疫グロブリン血症、抗MAG抗体ニューロパチー、クリオグロブリン血症、傍腫瘍性、アミロイドライト鎖-アミロイドーシス、炎症性腸炎、小径線維ギランバレー症候群、ワクチン接種 、坑CASPR2 症候群、FGFR3(線維芽細胞成長因子受容体3 )自己抗体、TS-HDS (三硫酸化ヘパリン二糖類)抗体

薬物と有害物質
  • 抗生物質 (ニトロフラントイン:Nitrofurantoin、メトロニダゾール:Metronidazole、リネゾリド:Linezolid、シプロフロキサシン:Ciprofloxacin、レボフロキサシン:Levofloxacin)
  • 化学療法(プロテアーゼ抑制薬:Proteasome inhibitors、白金化合物:Platinum compounds、タキサン:Taxanes )
  • TNF-阻害薬、坑レトロウィルス薬、スタチン、フレカイニド(抗不整脈薬)、アルコール、シガトキシン(天然毒、シガテラ食中毒)
感染症

 HIV 、HCV、ライム病(野鼠や小鳥など・保菌動物、ダニによって媒介、人獣共通の細菌:スピロヘータ)、らい病、シャーガス病(サシガメという昆虫が媒介)

その他の後天性疾患

 世界貿易センター・ニューロパチー、非凍結性低温障害

遺伝性・遺伝的

 ナトリウムチャネル障害:NaV1,7 NaV1,8 NaV1,9、トランスサイレチンアミロイドーシス、ファブリー病、遺伝性感覚自律神経ニューロパチー(HSAN)

特発性

原因不明・多因子 ⇒ 約50%

  • Gbignani F, Bellanova MF, Saccani E, et al: Non-length-dependent small fiber neuropathy : Not a matter of stocking and gloves. Muscle & Nerve 65: 10-28, 2022

★近年、long COVID(コロナウィルス感染後の症状)、コロナワクチン接種後にNLDSFNの表現型の症状が出現する患者が存在し、一部では注目されています。

特発性・NLDSFN の一般的な治療

  • 食事療法・生活習慣への介入
  • 糖尿病予備軍・糖尿病の血糖値管理
  • ビタミン欠乏の改善
  • 薬剤による神経毒性の予防や軽減
  • Gbignani F, Bellanova MF, Saccani E, et al: Non-length-dependent small fiber neuropathy : Not a matter of stocking and gloves. Muscle & Nerve 65: 10-28, 2022

NLDSFNの診断

文献上のNLDSFNの診断のアルゴリズムです。

  • Gbignani F, Bellanova MF, Saccani E, et al: Non-length-dependent small fiber neuropathy : Not a matter of stocking and gloves. Muscle & Nerve 65: 10-28, 2022
欧米の一部の神経内科医の意見

臨床症状が主な決定要因である。発症病態と臨床症状を理解していれば十分である。

  • Gbignani F, Bellanova MF, Saccani E, et al: Non-length-dependent small fiber neuropathy : Not a matter of stocking and gloves. Muscle & Nerve 65: 10-28, 2022
  • Zeidman LA: Advances in the Managbent of Small Fiber Neuropathy. Neuro Clin 39: 113-131, 2021
  • Voortman M, Fritz D, Vogels OJM, et al: Small fiber neuropathy: a disabling and underrecognized syndrome. Curr Opin Pulm Med 23(5): 447-457, 2017
臨床経験上の個人的な見解

上記で示すアルゴリズム(重症例が集まる、専門病院の医師の見解と考えられる。)による診断を経なくても、小径線維の後根神経節(DRG)は、わずかな体内環境の変化によって、過敏に反応し、NLDSFNの症状が出現するとの認識を持つと、一般整形外科外来を受診する患者さんから注意深く症状を聞き出すことにより、多くの患者さんに一時的な感覚神経の興奮による特発性NLDSFNの症状が出現しているとの印象を持ちます。また、線維筋痛症などの慢性の痛みの患者さんに、多く合併しているようです。訴える症状(非定型的な痛みと感覚異常の分布)を1つでも切り捨てないで、すべてを中枢性感作(痛覚変調性疼痛)と考えないで、まず末梢神経の病態ありきと考えることが大切であると考えています。

  • Terkelsen AJ, Karlsson P, Lauria G, et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017
  • Farhad K: Current Diagnosis and Treatment of Painful Small Fiber Neuropathy. Curr Neurol Neurosci Rep 19(12), 1-2019
  • Levine TD, Bellaire B, Arellano A, et al: A Proposed Taxonomy of Isolated Small Fiber Neuropathy. Neuromuscular Journal 1(4): 18-23, 2020
  • 秋口一郎(監修), 岡伸幸, 川崎照晃, 他: カラーアトラス末梢神経の病理 第2版. 中外医学社, 東京, pp1-8, 2021
  • Khoshnoodi MA, Truelove S, Burakgazi A, et al: Longitudinal Assessment of Small Fiber Neuropathy. JAMA Neurol 73(6): 684-690, 2016
  • 杉山和成, 加藤晃己, 喜山克彦: 腰下肢痛が主訴であった線維筋痛症の一例. 慢性疼痛39(1): 119-125, 2020
  • 加藤晃己, 喜山克彦:末梢病態として特発性・非長さ依存性小径線維ニューロパチー(iNLDSFN)が疑われた機能性身体症候群(FSS)の1例. 慢性疼痛41(1): 193-200, 2022

長さ依存性小径線維ニューロパチー(length-dependent small fiber neuropathy : LDSFN)

手足の遠位部ほど強い症状を呈します。これを手袋靴下型(glove & socks type)の神経障害といいます。

LDSFNは自律神経症状より、しびれなどの感覚障害が先に出現します。

  • Terkelsen AJ, Karlsson P, Lauria G, et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017

長さ依存性小径線維ニューロパチー(LDSFN)は、長さ依存性のdying-back型の軸索変性によるものです。

糖尿病性、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、リンパ増殖性疾患、血管炎性、アルコール中毒を含む多くの中毒代謝性、傍腫瘍性などがこのパターンをとります。

  • Terkelsen AJ, Karlsson P, Lauria G, et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017
  • Levine TD, Bellaire B, Arellano A, et al: A Proposed Taxonomy of Isolated Small Fiber Neuropathy. Neuromuscular Journal 1(4): 18-23, 2020
  • 秋口一郎(監修), 岡伸幸, 川崎照晃, 他: カラーアトラス末梢神経の病理 第2版. 中外医学社, 東京, pp1-8, 2021

小径線維介在・広汎痛(small fiber mediated widespread pain : SFMWP)

  • Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve Systb Disease 10: 1-6, 2018より引用

小径線維介在・広範痛(small fiber mediated widespread pain:SFMWP
は大きく2つに分けられます。

一つは筋けいれん(muscle cramp)、もう一つは線維筋痛症(fibromyalgia:FM)です。

筋けいれん(muscle cramp)

筋けいれん(muscle cramp)の研究において、神経因性疼痛(SFMPN)のない連続する筋けいれんの患者に対して皮膚生検を行ったところ60%がSFNであったとの報告があります。

  • Lopate G, Streif E, Harms M, et al: Cramps and small-fiber neuropathy. Muscle Nerve 48(2): 252-255, 2013

線維筋痛症(fibromyalgia)

線維筋痛症の痛みは侵害受容性疼痛ではなく、病巣が特定されない神経障害性様の中枢性疼痛とされており、いわゆる痛みの中枢感作が成立し、中枢感作症候群(central sensitization syndrome:CSS)の一つであるという病態理解が一般的です。

さらに、近年、線維筋痛症(FM)は、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に次ぐ、第3の痛みとして痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)であると明言されるようになりました。

  • 慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編: 慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易(株)医書出版部, 東京, 2021
  • 松本美富士:線維筋痛症の臨床:痛覚変調性疼痛とその治療. 現代医学69(1): 44-49, 2022
  • 臼井千恵:線維筋痛症. 臨床精神薬理 25: 513-519, 2022

ハーバード・メディカルスクール・マサチューセッツ総合病院、神経内科医アン・ルイーズ・オークランダー教授は、線維筋痛症の痛みは小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFN)であり、原因は不明ではなく病理学的に明らかに証明できるものであると述べました。以後、このことに対する研究が次から次へと報告されるようになりました。

Oaklander: AL,: Herzog ZD, Downs H et al: Objective evidence that small-fiber polyneuropathy underlies some illnesses currently labeled as fibromyalgia, Pain 154(11): 2310-2316, 2013

参考サイト(英語字幕と日本語翻訳により、日本語の字幕で観ることができます)

以後、欧米では、線維筋痛症(FM)の病態における中枢性感作症候群(CSS)または痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)と、小径線維ニューロパチー(SFN)の関与に関する議論が行われています。

  • de Tommaso, Vecchio E, Nolano M: The puzzle of fibromyalgia between central sensitization syndrome and small fiber neuropathy: a narrative review on neurophysiological and morphological evidence. Neurological Science 43. 1667-1684, 2022
  • Kelley MA, Hackshaw KV: Intraepidermal Nerve Fiber Density as Measured by Skin Punch Biopsy as a Marker for Small Fiber Neuropathy: Application in Patients with Fibromyalgia

さらに、線維筋痛症(FM)は筋細胞への微小循環障害である虚血・再灌流障害(ischbia-reperfusion injury:IRI)による虚血性筋痛(ischbic myalgia:IM)であるという報告もあります。

  • Qube LF, Ross JL, Jankowski MP: Peripheral Mechanisms of Ischbic Myalgia. Front Cell Neurosci 11: 1-15, 2017

本ホームページの線維筋痛症の項目で説明しています。

小径線維介在・自律神経機能障害(small fiber mediated autonomic dysfunction : SFMAD)

  • Levine TD: Small Fiber Neuropathy: Disease Classification Beyond Pain and Burning. Journal of Central Nerve Systb Disease 10: 1-6, 2018より引用

自律神経の概要

  • Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡 監訳:神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京,p.193,2021)

末梢自律神経系の遠心路の模式図

  • 鈴木郁子(編著): やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み. 中外医学者, 東京, pp11, 2015

自律神経(内臓求心路)の模式図

  • 鈴木郁子(編著): やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み. 中外医学者, 東京, pp50, 2015

小径線維介在・自律神経機能障害(SFMAD)

ホメオスタシスの歪みによる血液内および体液内の物質的不足、毒素、感染症、免疫攻撃などにより優先的に障害される

  • Science News from research organizations: Small nerve fibers defy neuropathy conventions. Johns Hopkins Medicine, April 11, 2016
心臓と血管の自律神経障害

心臓と血管の自律神経の障害が起きると、疲労感、立ちくらみ、めまい、息切れ、頭痛、手足の冷え、下肢のむくみなどが出現し、起立不耐症(起立性調節障害)という、長時間立つことや、座ることが困難な状態になることがあります。

圧受容反射・基本的神経経路

  • Barrett KE, Barman SM, Boitano S et al: Ganong’s Review of Madical Physiology 24thEdition. (岡田泰伸監訳:ギャノン生理学24版, 丸善出版株式会社, 東京, pp671, 2012)
起立時の生理的機能

ヒトは、姿勢が臥位(あおむけ)から立位に変わるとき、または長時間の立位中に、日常的に起立性のストレスを受けます。

仰向け(横臥位)から直立(直立)位に移行するとすぐに、約500 mlの血液が胸部から横隔膜の下の拡張性静脈容量系へと重力により移動します(静脈プール)

その結果、中心血液量が急激に減少し、続いて心室前負荷、拍出量、平均血圧が 低下します。

血管系では、これらの変化の基準となる定量的な決定因子は、圧力が姿勢に依存しないvenous hydrostatic indifference point:HIP(静水圧の変化しない点:和訳は不明)です。人間では、静脈HIPはほぼ横隔膜レベルにあり、動脈HIPは左心室のレベル近くにあります。静脈コンプライアンスと筋肉の活動によって大きく影響されます。

立ち上がると、下肢の筋肉の収縮と静脈弁の存在により、断続的な一方向の流れが提供され、静脈HIPが右心房に向かって移動します 。

呼吸によっても静脈還流が増加する可能性があります。これは、深吸気により胸腔圧が低下し、腹腔内圧が上昇して腸骨静脈と大腿静脈の両方が圧迫されるため、逆流が減少するためです。

重要な臓器に適切な灌流圧を提供するために、立ち上がるとすぐに神経調節系の効果的なセットが活性化されます。

交感神経系は作用が速く、主に機械受容器によって、また程度は低いものの化学受容器によっても調整されます。

動脈圧受容器(高圧受容器)は頸動脈洞と大動脈弓にあり、圧受容インパルスを頸動脈洞と大動脈降下神経を介して脳幹、特に孤立路核に伝えることで、血管運動中枢の緊張性抑制を決定します。

対照的に、心肺圧受容器(容積受容器)は大静脈と心腔にあり、中心静脈循環の充満の変化を検出しますが、起立性心血管恒常性には必須ではありません

頸動脈洞と大動脈弓の血圧が突然低下すると、数秒以内に圧受容器を介した代償メカニズムが誘発され、心拍数、心筋収縮力および末梢血管収縮が増加します。

追加の局所軸索反射である静脈細動脈軸索反射により、筋肉、皮膚、脂肪組織への動脈血流が収縮し、起立時の四肢の血管抵抗の増加がほぼ半分になります。

最終的には、起立性安定化は通常、約1分以内に達成されます。

長時間の安静立位中、静脈プールに加えて、横隔膜下腔での経毛細管濾過により、中心血液量と心拍出量が、約15 %から20%減少します。この経毛細血管移動は、直立姿勢を約 30 分続けると平衡に達し、この間に血漿量が最大 10% 減少する可能性があります。

直立姿勢を継続すると、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系などの神経内分泌機構も活性化されますが、これは患者の体液量の状態に応じて強度が異なる場合があります。

それでも、長時間の起立性ストレスに対する、最も重要な恒常性応答は、頸動脈圧反射を介した末梢血管抵抗の上昇であると思われます。これらの要因のいずれかが適切にまたは協調して機能しない場合は、システムが初期または持続的な姿勢の課題を補償できなくなる可能性があります。

これにより、一過性または持続性の低血圧状態が発生する可能性があります。これは、起立性課題の早期または後期のいずれかで、症状のある脳低灌流および意識喪失につながる可能性があります。

venous hydrostatic indifference point:HIP(静水圧の変化しない点):

姿勢が変化すると、一部の身体部位が上方になり圧力が下がり、他の部位は下方になり圧力が上昇し、したがってどこかに圧力が変化しない中間点があるという仮定から生まれたものです。このポイント(位置)では、体位変換後の血管容積、壁張力、スターリング力のバランスにほとんど変化がないと考えられます。心臓機能の観点から、これは重要です。なぜなら、体位の変化に応じて、圧受容器はHIPへのそれぞれの距離に応じて圧力信号を感知するからです。

F Ricci, R De Caterina, A Fedorowski: Orthostatic Hypotension Epidbiology, Prognosis, and Treatment. JACC 66(7), 2015

脳の霧(brain fog)

小径線維ニューロパチーによる、神経障害性調節不全は、慢性的な毎日の頭痛、認知機能障害(脳の霧:brain fog)などの脳症状にも関与している可能性があります。

起立不耐症の一つである、体位性起立頻脈症候群(POTS)患者の138人中132人が脳の霧(brain fog)と表現される不明確な認知障害をきたしたとの報告があります。

この脳の霧(brain fog)の原因の一つとして、POTSで生じる過呼吸が呼吸性アルカローシスから神経ニューロンの興奮性変化を含む複数の影響を及ぼし、このことは低CO2性脳血管収縮による酸素需要、脳神経の興奮性、交感神経の活性化を推進する可能性があります。

酸化ストレスを伴う虚血・再灌流障害(ischbia/reperfusion injury:IRI)によって脳の霧(brain fog)が生じる可能性があります。

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251,2019
  • Del Pozzi AT: Schwartz CE, Tewari D, et al: Reduced cerebral blood flow with orthostasis precedes hypocapnic hyperpnea, sympathetic activation and POTS. Hypertension 63(6): 1302-1308, 2014
  • Qube LF, Ross JL, Jankowski MP: Peripheral Mechanisms of Ischbic Myalgia. Front Cell Neurosci 11: 1-15, 2017

消化器の神経障害

  • Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡(監訳): 神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京, pp337, 2021)より引用
  • Robinson DR, Gebhart GF: Inside information – The unique features of visceral sensation. Mol Interv 8(5): 242-253, 2008

  • 鈴木郁子(編著): やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み. 中外医学者, 東京, pp49, 2015

  • Bear MF, Connors BW, Paradiso MA: Neuroscience: Exploring the Brain. Enhanced Forth Edition. Jones & Bartlett Learning, LLC, MA, 2016(藤井聡(監訳): 神経科学 脳の探求 改訂版. 西村書店, 東京, pp409, 2021)より引用
  • 仙波恵美子:末梢自律神経系の機能解剖. 自律神経機能検査. 第5版, 文光堂, 東京, pp15-20, 2015
  • Damasio A:The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures. Pantheon Books, New York, 2018 (高橋洋訳 : 進化の意外な順序 感情, 意識, 創造性と分化の期限. 白揚社, 東京, pp75, 2019)

消化器(胃や腸)の自律神経の障害により、腹痛、下痢、便秘などと引き起こし、過敏性腸症候群の状態になることもあります。

Oaklanderは、SFNによる神経障害性微小血管障害(neuropathic microvasculopathy)によって引き起こされる消化器の障害を神経障害性腸血管障害(neuropathic dysregulation of enteric vasculature)もしくは消化管狭心症(gastointestinal angina)と表現しました。

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

その他臓器の自律神経障害

泌尿器系、婦人科系、汗の調整などいろいろな臓器に影響を与えてしまいます。

Levine Tによる、その他の分類の提案

Levine Tはさらに、下のような分類も提言しています。

  • 局所性小径線維単ニューロパチー(focal small fiber mononeuropathy)
  • 多巣性小径線維単ニューロパチー(multifocal small fiber mononeuropathy)
  • 自律神経優位の小径線維ニューロパチー(autonomic predominant small fiber neuropathy)

Levine TD, Bellaire B, Arellano A, et al: A Proposed Taxonomy of Isolated Small Fiber Neuropathy. Neuromuscular Journal 1(4): 18-23, 2020

参考サイト

Todd Levine CorinthianLab

局所性小径線維単ニューロパチー(focal small fiber mononeuropathy)

口腔内灼熱症候群(burning mouth syndrome:BMS)、異常感覚性背部神経痛(notalgia paresthetica)、異常感覚性大腿神経痛(meralgia paresthetica)、が相当すると考えられます。

  • Terkelsen AJ, Karlsson P, Lauria G, et al: The diagnostic challenge of small fibre neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. Lancet Neurol 16: 934-944, 2017 =
  • Lawson VH, Grewal J, Hackshaw KV, et al: Fibromyalgia syndrome and small fiber, early or mild sensory polyneuropathy. Muscle Nerve 58: 625-630, 2018
  • Cazzato D, Lauria G: Small fibre neuropathy. Curr Opin Neurol 30(5): 490-499, 2017

これは、私見ですが、前胸部の一部限定された部位が痛む、前皮枝神経絞扼症候群(anterior cutaneus nerve entrapment syndrome: ACNES)、側胸部の一部限定した部位が痛む、側皮枝神経絞扼症候群(lateral  cutaneus nerve entrapment syndrome: LACNES)、背部の一部、限定した部位が痛む、後皮枝神経絞扼症候群(posterior  cutaneus nerve entrapment syndrome: POCNES)、腰部から腸骨部にかけて痛む上殿皮神経痛、腰部から大腿骨大転子部にかけて痛む腸骨下腹神経痛もこの分類に含まれる可能性があると考えています。

  • 浅井武,岩村喜信,新居章,他: Anterior cutaneous nerve entrapment syndrome(ACNES)の2小児例. 日小外会誌 53(4): 944-948, 2017
  • Maatman RC, Papen-Botterhuis NE, Scheltinga MRM et al: Lateral Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome (LACNES): A previously unrecognized cause of intractable flank pain. Scand J Pain Oct 17: 211-217, 2017
  • Boelens OB, Maatman RC, Scheltinga MR, et al: Chronic Localized Back Pain Due to Posterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome (POCNES): A New Diagnosis. Pain Physician 20(3): 455-458, 2017

多巣性小径線維単ニューロパチー(multifocal small fiber mononeuropathy)

糖代謝異常、クリオグロブリン血症、全身性血管炎、サルコイドーシスおよびHIV感染と関連しています。

Levine TD, Bellaire B, Arellano A, et al: A Proposed Taxonomy of Isolated Small Fiber Neuropathy. Neuromuscular Journal 1(4): 18-23, 2020

自律神経優位の小径線維ニューロパチー(autonomic predominant small fiber neuropathy)

後天性もしくは遺伝性のアミロイドーシス、リンパ増殖、急性自律神経ガングリオパチーなどと関連しています。

Levine TD, Bellaire B, Arellano A, et al: A Proposed Taxonomy of Isolated Small Fiber Neuropathy. Neuromuscular Journal 1(4): 18-23, 2020

小径線維ニューロパチーの検査

小径線維ニューロパチーの検査は以下のように、さまざまな検査があります。しかし、診断のためのゴールドスタンダードは確立されていません。

皮膚生検による表皮内神経線維密度(intra-epidermal nerve fiber density:IENFD)の測定を重要視とする意見が多いようです。

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurology 76(10): 1240-1251, 2019
  • Terkelsen AJ, Karlsson P, Lauria G, et al.: The diagnostic challenge of small fiber neuropathy: clinical presentations, evaluations, and causes. The Lancet Neurology 16(11): 934-944, 2017
  • Farhad K: Current Diagnosis and Treatment of Painful Small Fiber Neuropathy. Current Neurology and Neuroscience Reports 19(12): 1-8, 2019
  • Zeidman LA: Advances in the Managbent of Small Fiber Neuropathy. Neurologic Clinics 39(1): 113-131, 2020
  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al.: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. Journal of Neuromuscular Diseases 8(2): 185-207, 2021
  • Voortman M, Fritz D, Vogels OJM, et al.: Small fiber neuropathy: a disabling and underrecognized syndrome. Current Opinion in Pulmonary Medicine 23(5): 447-457, 2017

我が国では、クリニックでオーダーできる皮膚生検による表皮内神経線維密度(intra-epidermal nerve fiber density:IENFD)の測定が行える検査機関は皆無です。

帝京大学医学部附属溝口病院脳神経内科・脳卒中センターの平井利明准教授が、小径線維ニューロパチーの診断における、表皮内神経線維密度(intra-epidermal nerve fiber density:IENFD)の重要性を述べており、今後の痛みと疲労の臨床における、小径線維ニューロパチーの診断法の発展に大きな期待が持てます。

  • 平井利明:神経学的検査:皮膚生検. 自律神経 58(1):38-48, 2021

略語
  • QST: quantitative sensory testing 定量的感覚検査
  • QSART: quantitative sudomotor axon reflex testing 定量的軸索反射性発汗試験
  • TST: thermoregulatory sweat test 温熱性発汗試験
  • SSR: sympathetic skin response:交感神経性皮膚反応
  • WISW: water induced skin wrinkling test 水誘発皮膚しわ試験
解説

心血管機能(Ewing)検査: 2型糖尿病における心血管自律神経障害(cardiovascular autonomic neuropathy:以下CAN)の診断のためにEwing DJらが提唱した6つの検査のセットであり、現在CANの診断のゴールドスタンダードである。

その内容は以下の通りである。

  1. バルサルバ法に対する心拍数反応
  2. 体位変換に対する心拍数反応
  3. 深呼吸に対する心拍数反応
  4. バルサルバ法に対する血圧反応
  5. 体位変換による血圧反応
  6. 持続的な握り動作に対する血圧反応
  • Sudoscan:電気化学的皮膚コンダクタンスを測定する機器。小径線維機能に障害があると対応する電圧に対して、より低いコンダクタンスを示す。
  • Neuropad:コバルトⅡ化合物を含む包帯。発汗によりコバルトⅡ化合物が青からピンクに変化する。この色の変化時間が発汗の尺度であり、片足において変化が完了した時間が10分を超えると発汗機能障害と判断される。
  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al.: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. Journal of Neuromuscular Diseases 8(2): 185-207, 2021
  • 喜山克彦: 痛み・疲労と小径線維ニューロパチー(SFN):ナラティブ・レビュー. Comprehensive Medicine 全人的医療 21(1):62-80, 2022

各検査方法の限界と適応可能レベル

方法 限界 適応可能レベル
小径線維密度の定量化
皮膚生検
表皮内神経線維密度(intra-epidermal nerve fiber density:: IENFD)
  • ルーチン診断には適用できない組織切片の厚さ
  • 蛍光顕微鏡の利用価値が小さい
  • 光学顕微鏡で表皮の長さあたりのIENF数をカウントするには、コンピュータによる画像解析を行わなければ容易に標準化できない
  • 健常者にも形態的変化が現れる
  • IENFDの減少を伴わない形態的変化が生じることがある
  • IENFDの減少は、すべてのケースで痛みの強さとは相関しない
  • SFNの早期に正常なIENFD+形態変化が現れ、繰り返し生検を行うとIENFDが減少することがある
  • パッチ状の疾患では不明瞭な場合がある
  • 対称的で非長さ依存の神経障害性疼痛のパターンは、顔や体幹に病変があることを示唆している
  • 非長さ依存性の神経障害性疼痛で、顔や体幹にも症状が現れる
  • 後根神経節の選択的な障害を示唆している。細胞体の選択的な障害を示唆している
  • トレーニングが必要
レベル 3
汗腺の神経線維密度
(sweat gland nerve fiber density: SGNFD)
  • 複雑な3次元構造
  • 標準化された検証済みの方法がない
  • 限られた視野深度 バイオプシー厚さ50μm
  • 手間がかかる(染色のみで30~40時間)
  • 日常的な使用には適用されない
レベル 4
角膜共焦点顕微鏡(corneal confocalmicroscopy: CCM)
  • 限定販売
  • FDAによる臨床使用の未承認
レベル 4
感覚機能検査
定量的感覚検査(quantitative sensorytesting: QST)
  • 検者間のばらつきが大きい
  • 世界的な標準化の欠如
  • 患者のモチベーションの低さが検査結果に影響することがある
  • 標準値研究の手法が大きく異なるため、標準値の解釈が難しい
  • 痛みのある部位と反対側の部位の比較は、最小有意差がないため困難である
レベル 2
マイクロニューログラフィー
  • 侵襲的
  • 技術的な要求度が高い
  • 労働集約的
  • 単一の小径線維の測定
  • 標準値がない
  • 研究でのみ使用
レベル 4
副交感神経系検査と交感神経系アドレナリン検査
心臓迷走神経検査
  • 反応は、持続時間、緊張度、圧力変化率、実施する体位(標準化されていない)、
    体液の状態、操作前の休息時間と体位、吸気回数、時間帯、室温、食事量、カフェイン、ニコチン、投薬、開始方法(自発的か合図後か)、年齢に依存する
  • 複雑な生理学的メカニズム
  • 手法や基準値の標準化が浸透していないこと
  • カスタムメイドを含む様々なデバイスが利用可能
  • 訓練と専門知識の必要性
レベル 1
瞳孔測定
  • 反射の大きさは可変で、初期の瞳孔サイズに影響される
  • テストの条件を強固に標準化しない場合、感度の悪い検査となる
  • 結果の解釈は困難、障害は目に対称的に出現する
レベル 1
膀胱機能検査
  • 良好なキャリブレーションが必要
  • 患者との良好な連携と指導が必要
  • 結果の質のチェックは重要だが、アーティファクトの影響を受ける可能性がある
レベル 1
交感神経系コリン作動性試験
温熱性発汗試験(thermoregulatory sweat test: TST)
  • 高度に専門化したセンターを除き、日常的な使用には適用されない
  • 時間がかかる
  • 専用機器が必要
  • 大きなスペースが必要
  • 患者の特別な準備が必要
レベル 3
定量的軸索反射性発汗試験(quantitative sudomotoraxon reflex test:QSART)
  • 専用機器が必要
  • スタッフの訓練が必要
  • 高額
レベル 2
シリコン印象法(silicone impressions)
  • アーティファクトが発生しやすい
  • 歯型の品質が最適でない
  • 時間がかかる
  • 時間分解能なし
  • 神経因性の障害と腺因性の障害を区別することはできない
  • 標準化していない
  • 試験する肌と環境の準備
レベル 4
発汗運動機能の
定量的直接
・間接試験
(quantitative direct andindirect test ofsudomotor function:QDIRT)
  • スタッフの訓練が必要
  • 皮膚部分の色素がすでに色変化している場合は、定量化できない
  • 定義された皮膚領域がないため、個人間の比較可能性が低い
  • 間接的な部分には指標となる色素がない場合がある
  • まだ検証されていない
レベル 4
交感神経性皮膚反応(sympathetic skinresponse: SSR)
  • 個人間の比較可能性が低い
  • 加齢とともに減少し、50歳以上の対象者には見られないこともある
  • 先天性無汗症の患者でも、SSRの反応はある
レベル 1
Sudoscan/EZSCAN
  • 研究で使用されている基準値には一貫性がない
  • sudoscanが運動神経や感覚神経の機能を検査するという主張を裏付ける証拠不十分であること
  • 多くの研究はメーカーがサポートしている
レベル 1
レーザードップラーイメージングフレア(LDIflare)
  • オリジナルの方法は時間がかかる(30-90分)ため、日常的な臨床使用には限界がある
  • より時間のかからない(30分未満)修正方法が提案されているが、他の研究グループではまだ広く適用されていない
レベル 4
Neuropad
  • 診断価値に関するデータが異なる
  • 製造者の指示では、最適ではないかもしれない
  • 皮膚温度への影響については、限られたデータしかない
レベル 1
水誘発皮膚しわ試験(water induced skin wrinkling test: WISW)
  • 異常値を決定する標準的な方法がない
  • 各研究室では、正常なしわと異常なしわの年齢に合わせたカットオフ値を決定する必要がある
レベル 1
交感神経系・ノルアドレナリンテスト
定量的軸索反射性毛根運動試験(QPART)
  • 少人数でのテストのみ
  • 基準値がない
  • 強い感情と室温の影響を受ける
レベル 4
MIBG/SPECT
  • 標準的な方法がない
  • 基準値がない
レベル 2
非小径線維テスト
末梢神経超音波
  • この方法の可能性を示すために、1つだけ最適ではない研究が行われている
レベル 4
機能的磁気共鳴画像(fMRI)
  • この方法の可能性を示すために、1つだけ最適ではない研究が行われている
  • SFNの診断に特化した標準的な方法はない
レベル 4

これらのレベルは、オランダの医療制度に基づいている。

  • レベル1:総合病院で適用(どの病院でも適用しやすい)
  • レベル2:トップクリニカルホスピタルでの適用(小規模な病院では適用されないが、アカデミックホスピタルにも限定されない )
  • レベル3:アカデミックな病院でのみ適用
  • レベル4:日常診療では使用できず、研究目的でのみ使用されるもの
  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al.: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. Journal of Neuromuscular Diseases 8(2): 185-207, 2021
  • 喜山克彦: 痛み・疲労と小径線維ニューロパチー(SFN):ナラティブ・レビュー. Comprehensive Medicine 全人的医療 21(1):62-80, 2022

  • Raasing LRM, Vogels OJM, Veltkamp M, et al.: Current View of Diagnosing Small Fiber Neuropathy. Journal of Neuromuscular Diseases 8(2): 185-207, 2021

小径線維ニューロパチーに対する質問票

小径線維ニューロパチーの質問表は以下のとおりです。

小径線維ニューロパチーは神経障害性疼痛の一部ですが、小径線維ニューロパチーを理解すると、従来の典型的な神経障害性疼痛の質問表では、その病態の全体像の把握が十分にできません。

A Oaklanderのグループは、線維筋痛症と小径線維ニューロパチーを区別するスクリーニング・ツール、MGH小径線維症状調査(MGH-SSS)の開発を試みました。その際、アメリカリウマチ学会2010年線維筋痛症診断予備基準(ACR・FM診断予備基準2010)、複合自律神経症状スコア-31(COMPASS-31)、簡易健康調査-36(SF-36)、マギル簡易疼痛質問表(McGill SFQ)、皮膚生検による表皮内神経線維密度(IENFD)、診断複合自律神経機能検査(AFT)と合わせて調査しました。

  • MGH-SSS: Massachusetts General Hospital-Small-Fiber Symptom Survey
  • COMPASS: Composite Autonomic Symptom Score-31
  • SF-36: Short-Form Health Survey-36
  • McGill SFQ: McGill Short-Form Pain Questionnaires
  • IENFD: intra-epidermal nerve fiber density
  • AFT: Autonomic Function Test

M Lodahl, R Treister, AL Oaklander: Specific symptoms may discriminate between fibromyalgia patients with vs without objective test evidence of small-fiber polyneuropathy. Pain Reports (3): 1-6, 2018

★当院では、一般整形外科クリニックにおける慢性疼痛診療の限界により、この論文を参考に、永田勝太郎先生の実績を受け継ぎ、簡易的な評価およびフォローアップのため、ACR・FM分類基準1990ACR・FM診断予備基準2010COMPASS-31McGill SF-MPQ-2、自律神経機能検査のうち、ヘッドアップチルト試験に伴う血行動態検査(Parama-Tech 社 nico PS501)を行なっています。

質問票

スクリーニング質問票
ポリニューロバチー
アセスメント質問票
ポリニューロバチー
小径線維ニューロバチー 痛みの強さ
  • リーズ神経因性症状および徴候の評価(LANSS)
  • 神経心理学的問票/神経性療痛-4(NPQ/DN4)
  • Pain DETECT
  • ID pain
  • 神経障害性疼痛
    スクリーニング省間票/
    数値化された疼痛尺度(NPS)
  • 神經障害性疼痛症状一覧(NPSI)
  • マギル簡易疼痛質間表(McGill SFQ)
  • Pain DETECT
  • 神経障害スコア(NIS)
  • ミシガン糖尿病性
    神経障害尺度(MDNS)
  • 小径線維ニューロパチー
    スクリーニングリスト
    (SFNSL)
  • SFN 症状一覧質問票
    (SFN-SIQ)
  • SFN に特化した
    Rasch-build の
    総合障害尺度(SFN-RODS)
  • 自律神経症状の調査(SAS)
  • ユタ早期神経障害スケール
    (UENS)
  • 複合自律神経症状スコア/
    小径線維多発ニューロバシー
    (COMPASS/SFPN)
  • 修正トロント臨床神経障害
    スケール
    (mTCNS)
  • 総合神経障害スケール
    (TNS)
  • Visual Analogue Scale
    (VAS)
  • 簡易感痛一覧(BPI)
  • 簡易マギル感痛貨間表-2
    (McGill SF-MPQ-2)|
  • 簡易健康診昕(SF-36)
略語
  • LANSS: Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs
  • NPQ/DN4: Neuropathic Pain Questionnaire/ Douleur Neuropathic Pain Questionnaire
  • NPS: Neuropathic Pain Scale
  • NPSI: Neuropathic Pain Symptom Inventory
  • McGill SFQ: McGill Short-Form Pain Questionnaire
  • NIS: Neuropethy Impairment Score
  • MDNS: Michigan Diabetic Neuropathy Score
  • SFNSL: Small fiber Neuropathy Screening List
  • SFN-SIQ: SFN Symptom Inventory Questionnaire
  • SFN-RODS: SFN Rasch-built Overall Disability Scale
  • SAS: Survey of Autonomic Symptoms
  • UENS: Utah Early Neuropathy Scale
  • COMPASS/SFPN: Composite Autonomic Symptom Scale/small fiber polyneuropathy mTCNS: modified Tronto Clinical Neuropathy Score
  • TNS: Total Neuropathy Score
  • BPI: brief pain inventory
  • McGill SF-MPQ-2: Short-Form McGill Pain Questionnaire-2
  • SF-36: 36-Itb Short Form Health Survey

径線維ニューロパチーの一般的な質問票

小径線維の役割

小径線維(Aδ線維、C線維)は、私たちを危害から保護するために進化しました。胎児の発生の過程で、血液-脳関門のシェルターを放棄し、体内環境の脅威を迅速に検出し対応する役目を持ちました。

そして、小径線維は、からだの外からくる危険を監視して、からだに何らかの刺激があると危険から回避するために素早く反応し、脊髄や脳に伝え(外受容感覚:exteroception)、外傷に対してホメオスタシス維持します。また、からだの内部の物理的環境を監視して、痛みとかゆみの信号を脊髄や脳に送り(内受容感覚:interoception)、ホメオスタシスを維持するために反応を先導します。

中枢神経(脳と脊髄)は、これらの外受容感覚(exteroception)内受容感覚(interoception)の入力を統合して生存の確率を上昇させようとします。

つまり、私たちが生きながらえるための大切なしくみです。

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

Damasio Aのホメオスタシス論(感情・ホメオスタシス・小径線維)

  • 人間の文化の発展は、痛みや苦しみから、健康、快に至ろうとする感情が必要である。
  • 医学におけるテクノロジーと科学の統合は、身体的外傷から感染、さらにがん至る疾病によって引き起こされる痛みや苦しみ(感情)の対応という形で始まった・
  • 痛みや苦しみは、幸福、快、繁栄の見通し(感情)などとは対極をなす。
  • 医学は、病気の診断という難題や、生理学的な謎を解くために知恵を競い合う知性の競技会として始まったのではなく、患者や医師が特定の感情を経験することで生まれたのだ。
  • この感情には共感から生じたと考えられる思いやりが含まれ、その種の動機は今日でも残存している。
  • 感情とはホメオスタシスの心的な表現であり、感情の庇護のもとで作用するホメオスタシス、初期の生物を、身体(神経系以外の体:body proper)と神経系の並外れた協調関係へと導く、機能的な糸と見なすことができる。
  • 感情は、脳が単独で作りだしたものではなく、体内を駆けめぐる化学物質と神経回路を介して相互作用をする、身体(神経系以外の体:body proper)と脳の協調の産物である。
  • ホメオスタシスの不備は、主にネガティブな感情で表現されるのに対して、ポジティブ感情ホメオスタシスが適切に保たれていることを示している。
  • 私たちの生存に不可欠なホメオスタシスや、それに大幅に依存する調節のための貴重なインターフェースたる感情が、漏れやすく遅い、ミエリン化されていない太古の線維(C線維:小径線維)の手に委ねられているのは、実に奇妙に思える。
  • Damasio A:The Strange Order of Things: Life, Feeling, and the Making of Cultures. Pantheon Books, New York, 2018

(高橋洋訳 : 進化の意外な順序 感情, 意識, 創造性と分化の期限. 白揚社, 東京, pp75, 2019)

洞窟(炭鉱)のカナリア

小径線維(Aδ線維とC線維)はからだの変調を真っ先に教えてくれます。
まるで洞窟(炭鉱)のカナリアです。

by Polydefkins M

  • Science News from research organizations: Small nerve fibers defy neuropathy conventions. Johns Hopkins Medicine, April 11, 2016

歩哨(Sentinel)

小径線維(Aδ線維とC線維)はからだの変調を真っ先に教えてくれます。
まるで歩哨(sentinel)です。

by Oaklander AL

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

救急医療におけるファースト・レスポンダー

小径線維(Aδ線維とC線維)はからだの変調を真っ先に教えてくれます。
まるで救急医療におけるファースト・レスポンダー(first responder)です。

by Oaklander AL

  • Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

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