起立不耐症 (起立性調節障害)

 

起立不耐症(orthostatic intolerance:OI)とは、起立中のめまい、たちくらみ、頭痛、倦怠感などの症状を呈し、横になることにより症状が緩和される近縁の病態の総称です。本邦では起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD)と多く呼ばれます。

 

OIには起立性低血圧(orthostatic hypotension:OH)、体位性起立頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)および血管迷走神経性失神(vasovagal syncope:VVS)などがあります。

 

以下、

 

1,小児心身医学的見地からのOI(OD)

 

2,小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFN)の見地からのOI

 

3,線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の見地からのOI

 

4,筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalopathy / chronic fatigue syndrome:ME/CFS)の見地からのOI

 

5,新型コロナウィルス感染症後症候群(long COVID)の見地からのOI

 

分類して述べます。

 

 

 

 

1,小児心身医学の見地によるOI(OD)

 

本邦の小児科では起立性調節障害(OD)の名称が一般的であるため、この章では起立不耐症(OI)ではなくODと表現します。

 

ODは頻度の高い病態で、一般中学生の約1割、小児科を受診する中学生の約2割を占めます。ODはあくまでも「身体機能異常(からだの異常)」が中心となる病態ですが、心理状態、社会状況とに関わりで悪化してしまう心身症の側面が強い疾患です。

 

日本小児心身医学会から、小児起立性調節障害診断・治療ガイドラインが報告されました。

 

 

 

OD 診断・治療ガイドラインより、抜粋してできるだけ分かりやすいようにしました。

 

子ども・家族用のガイドから

 

 

1,起立性調節障害(OD)とはどんな病気?

 

OD自律神経の働きが悪くなり、

起立時に身体や脳への血流が低下する病気です。症状は午前中に強く、午後からは体調が回復します。

夜には元気になり、目がさえて眠れません

 

 

 

2,起立性調節障害(OD)の症状

 

 

 

 

症状の程度は‥‥

 

 ・日によって異なる

 ・天候によって異なる

 ・一般に春先から夏に悪くなる

 

 

その他に‥‥

 

 ・慢性疲労、気分不良、動悸、寝付きが悪い

 ・失神発作、イライラ、頭痛、腹痛など

 

 

さらに、その他に‥‥

 

 ・脳の霧(brain fog

   思考力低下、短期記憶障害

   語彙検索の困難さ(ことばがでてこない)

   成績の低下 など

 

 

3,なぜ起こるのでしょうか?(病態生理)

 

ODの病態生理は

サブタイプ(いろいろなタイプ)によって異なりますが、

脳の自律神経中枢(大脳辺縁系、視床下部など)機能が悪くなり、

その結果、交感神経と副交感神経の働きが強すぎたり弱すぎたりして、

両方のバランスが崩れてさまざまな症状が出現します。

また、遺伝的体質精神的ストレス大きく影響を受けます。

 

 

4,だらだらして怠けているのではないですか?

 

そのような見方は正しくありません。

 

 

ODの子供は、疲れてだらだらしているように見えます。

特に午前中にひどく、朝なかなか起きられません。

それは、自律神経機能障害が午前中に著しいためです。

登校しぶりや「怠け」のように見えますが、

そのような見方は正しくありません。

 

 

 

 

ODでは自律神経機能が悪いために、

起立時に全身の血流が悪くなり、

その結果、

さまざまな症状が出現します。

特に、脳血流が悪いと、

立ちくらみ、ふらふら、倦怠感だけではなく、

思考力の低下、判断力の低下、イライラがひどくなります。

 

 

5,かかりやすい年齢と頻度

 

 

原因ははっきりしていませんが、

現代の夜型社会や、複雑化した心理社会的ストレスが背景に

あるといわれています。

 

 

 

 

6日常生活や学校生活で注意すること

 

 

 

水分を多くしましょう11.52 L)。

 

塩分を多くとりましょう。

 いつもの食事に3g程、余分にとりましょう。11012g

 

 

・寝た状態・座った位置から、急に立ち上がってはいけません。

 30秒以上かけてゆっくりと。

 

・朝起きるときは、

 上のイラストのように、頭を下げたまま歩き始めてください。

 頭を上げて立ち上がると、脳血流が低下して気分が悪くなります。

 1度気分が悪くなると、なかなか治りません。

 

 

 

・早寝・早起きなど、

 生活リズムを正しくしましょう。

 だるくても日中は体を横にしてはいけません。

 

 

 

・暑気は避けてください。

 

・学校の体育の見学は日陰か室内で。

 

 

 

 

7,どのような治療がありますか?

 

 

 

毎日、運動しましょう。

 無理をせず、15分程度の散歩から始めます。

 

水泳は身体にかかる重力が少ないので、おすすめです。

 

 

ODに効く薬がある場合があります。

 医師の指示に従って服用してください。

 

・薬はヘッドアップ・チルト試験などによって、

 ODのタイプを診断した後に、

 そのタイプに合わせて処方します。

 

 タイプによっては適切な薬がない場合があります。

 

・その他に、OD予防装具があります。

 市販製品もありますが、詳しくは医師にご相談ください。

 

 

いつ頃に治るのでしょう

 

・どのような状態を「治る」と考えるのか、それによって答えも変わります。

 

 ここでは、

 「身体症状があっても薬を服用せずに日常生活に支障が少なくなった状態」

 とします。

 

軽症 :適切な治療が行われた場合、数カ月で改善します。

     しかし、翌年に再発する可能性もあります。

 

中等症:日常生活に支障があります。

     1年後の回復率は約50%、23年後は7080%です。

 

重症 :不登校を伴います。

     1年後の復学率は30%であり、短期間での復学は困難です。

     社会復帰に少なくとも23年はかかると、考えたほうがよいでしょう。

 

 

・体力に見合った高校に進学した場合、

 第23学年になると90%程度が治ると考えられます。

 

身体症状の残存率は、数年後でも2040といわれており、

 軽い症状は成人しても続く場合があります。

 

 

 

 

8,朝起きが悪いが、起こしたほうがよい?

 

朝起きが悪い理由

 

① 朝に交感神経の活性化が悪い。

  血圧が上がらないので、脳血流が維持できない。

 

② 午後から交感神経が活性化して、

  夜に最高潮になり、寝つきが悪くなる(入眠困難)。

 

③ 寝られないので遅くまで起きてしまい、

  また朝起きが悪くなる。

 

 

①~③が悪循環になり、ますます朝起きが悪くなります。

 

どれが一番問題なのか、まだわかっていませんが、

①→③の順で病気が進むと考えたほうがよいでしょう。

 

多くの家族は③が一番問題だと考えてしまいます。

 

軽症の場合:親が声をかけるだけでなんとか起きます。

 

中等症以上の場合:大声だしても起きることができません

そこで、夜に早く寝かせようとして、

怒鳴ったり、怒ったりするようになり、

家族のほうがイライラして、親子関係の悪化につながります。

 

 

①が一番の原因と考えましょう。

いくら大きな声で怒鳴っても、よい結果になりません

 

そこで次のようにします。

 朝起こすとき、何回か声かけをする、でも怒らない

 カーテンを開けて朝日を部屋に入れ、布団をはがす。

 夜は眠くなくても、日常就寝時刻より30分早く布団に

  入るように努め、消灯する。

 

 

,不登校が続いているが、どうすればよい?

 

ODに不登校を伴うことは、めずらしくありません。

過去の調査によると、約半数に不登校を伴います。

登校を阻害する5つの要因に対して適切な対応が必要です。

 

① 朝目覚めない、身体を起こすことができない。

体調が悪いのに、登校させると逆効果です。

体力が回復してから登校を促しましょう。

電車通学の場合は、座席に座れるように、

ラッシュアワーを避けるのも一案です。

 

② 遅刻をするのが嫌、授業の途中では入りづらい。

  怠け者と言われそう。

③ 学校側の理解が乏しく、怠け者のレッテルをはられて、

  学校との信頼関係が損なわれている。

ODは病気です。

学校にもよく理解してもらい、

午後からの登校や別室登校(保健室や相談室)を

試みてください。

体力に自信がなければ、家族が付きそうようにしてください。

 

 

 周囲に気配りをする性格(過剰適応な性格傾向)で、

  実は学校生活に疲れはてている。

 子どもの家族に対する抑圧された依存感情

 (抑え込んでいた甘えたい気持ち)や反抗(両価性感情)が

  不登校によって満たされる。

④と⑤は、いわゆる「不登校」の子どもと共通した心のメカニズムが

働いています。精神疲労が強い可能性もあります。

十分な休養が必要ですので、登校や学習刺激はしばらく控えるのが

得策です。

親の過干渉は、病気の治療を遅らせます。

 

 

 

 

ODの詳しい説明

 

 

OD4つのサブタイプ

 

・動脈系の異常が関与する病態

 

  1, 起立直後性低血圧:INOH

 

 

・静脈系の異常が関与する病態

 

  2,体位性起立頻脈症候群(体位性頻脈症候群):POTS

  3,遅延性起立性低血圧:delayed OH

  4,血管迷走神経性失神:VVS

 

 

・★ hyper response型:新しいサブタイプ、起立後脳血流のみ低下

 

 

 

・ODの必須の検査

 ヘッドアップチルト試験  (当院ではParamaTec社nico PS-501を使用

 

薬物治療

 

その他、血液検査24時間血糖値測定の結果より

食事療法サプリメントを勧めるときがあります。

 

 

薬物治療

 

塩酸ミドドリン(α受容体刺激薬

  早朝と夕食後(眠前)投与から開始、18mgまで

  血圧上昇は8週目ごろから

  服薬2カ月後くらいに臨床効果が高まる

  心拍増加をきたしにくい

        INOH, POTSに効果的

  学校が休みの日には、服薬を中止する

 

メチル硫酸アメジニウム(ノルアドレナリン再吸収阻薬)

 

 

 

 

睡眠薬・抗精神病薬

 

睡眠リズムを整える

 

 ・メラトニン 12mg 午前10時ごろに服用

 ・15歳以上、ラメルテオン(ロゼレム🄬)28mgを使用

 

抗精神病薬に一定の指針はありません。

 

精神科専門医独自の判断で使用されています。

 

一般に抗精神病薬は起立性低血圧を起こしやすいので注意が必要です。

 

 

元々身体の問題だったOD

こころと社会の問題加わって

状態が複雑になります。

 

ODはお子さんのとって

予期せぬ、つらい、長く続く身体の症状です。

周囲の家族、学校、友人たちに理解されず、

そのため、心理的、精神的、社会的にも追い込まれ

さらに、つらい思いをしてしまいます。

何よりも周囲の理解と温かい支援がとても必要です。

 

 

2,小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFN)の見地からのOI

 

Levineによる分類において、

SFNには

小径線維介在・自律神経機能障害small fiber mediated autonomic dysfunctionSFMAD

存在します。

SFMADは心臓血管系の自律神経障害から

起立不耐症(OI)を引き起こします。

 

体位性起立頻脈症候群postural orthostatic tachycardia syndromePOTS38

病理学的にSFNであった。

との報告もあります。

 

・Gibbons CH, Bonyhay I, Benson A, et al: Structural and Functional Small Fiber Abnormalities in the Neuropathic Postural

Tachycardia Syndrome. PLoS One 8(12): e84716, 2013

 

 

 

 

自律神経の節後線維はほぼC線維です。

C線維は、体内の環境の悪化により、

優先的に障害を受けます。

 

血液成分に不都合があったり、

血液そのものが十分に届かないと、

C線維は、一時的もしくは長期間、

興奮や、機能低下をきたします。

 

元々、自律神経機能の低下している方(小児のときのODが残っている方など)には

追い打ちをかけてしまいます。

 

また、心臓の筋肉にエネルギーを作るための

材料が足りなくなると

心臓の筋肉(心筋)の働きが弱くなり、

心臓の自律神経機能低下の症状がさらに悪くなります。

 

 

治療は

SFNに対する原因治療(血液成分を正常化する、血液を十分に供給する)、

OIに対する非薬物治療と対症的薬物治療

おこないます。

 

OIに対する対症的薬物治療には

十分なエビデンスはありません。

また、臥位高血圧の問題もあり、

できるだけ控えたほうがよいと考えます。

 

 

 

 

 

 

・喜山克彦, 永田勝太郎: 起立不耐症が潜在する慢性疼痛患者に対する治療. 慢性疼痛 40(1): 174-180, 2021

・田村直俊: 起立性低血圧(体位性頻脈症候群も含めて). 標準的神経治療:自律神経症候に対する治療. 神経治療 33(6): 658-663, 2016

・井上博ほか: 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版).循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告): 9-23, 2012

・Lahmann H, Cortelli P, Hilz M et al: EFNS guidelines on the diagnosis and management of orthostatic hypotension. European Journal of Neurology 13(9): 930-936, 2006

 

 

 

 

3,線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の見地からのOI

 

世界の疼痛臨床において、線維筋痛症(FM)の病態に対する理解は、

 

1,中枢感作症候群(central sensitization syndrome: CSS)

2,機能性身体症候群(functional somatic syndrome: FSS)

3,小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFN)

 

に分けられます。

 

線維筋痛症 (FM)49病理学的にSFNであったとの報告があります。

 

・Grayston R, Czanner G, Elhadd K et al: A systematic review and meta-analysis of the prevalence of small fiber pathology in

fibromyalgia: Implications for a new paradigm in fibromyalgia etiopathogenesis. Seminars in Arthritis and Rheumatism 48: 933-

940, 2019

 

私は、それぞれの理解はFMに対して理解の視点を変えただけであると考えています。

そして、それぞれの病態は、Henningsenらの身体的苦悩(bodily distress: BD)の病態の概念モデル(当ホームページを参照してください)上で説明できると考えています。

 

・ Henningsen P,: Zipfel S, Sattel H et al: Management of Functional Somatic Syndromes and Bodily Distress.

Psychother Psychosom 87: 12-31, 2018

 

そして、最も大切なことは、

特発性SFN(ideopathic SFN: iSFN)初期段階(initially iSFN: iiSFN)のうちに適切な治療介入を行い、

CSSあるいは、その固定された状態である痛覚変調性疼痛(nociplastic pain:以下NP)や、

難治性の多彩な身体症状や精神症状を呈した慢性機能障害性身体的苦悩(chronic disabling bodily distress:以下CDBD)を予防することと考えています。

 

・Aydede M, Shriver A: Recently introduced definition of “nociplastic pain” by the International Association for the Study of Pain needs better formulation. Pain 159: 1176-1177, 2018

・日本痛み関連学会連合用語委員会: Nociplastic pain の日本語訳に関する用語委員会提案【要約版】. 2021,(オンライン)

・ Henningsen P,: Zipfel S, Sattel H et al: Management of Functional Somatic Syndromes and Bodily Distress.

Psychother Psychosom 87: 12-31, 2018

 

できあがってしまった病態に、抗精神病薬、抗てんかん薬などや、認知行動療法などで対症することではなく

 

線維筋痛症(FM)はまずSFNで理解し初期の段階で、できるだけ早く適切な治療することが大切であると考えています。

 

 

4,筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalopathy / chronic fatigue syndrome:ME/CFS)の見地からのOI

 

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalopathy / chronic fatigue syndrome:ME/CFS)は

起立不耐症(OI)と線維筋痛症(FM)を高率に合併します。

 

2017年に提示された本邦のME/CFS診断基準、2015年、米国から提案されたME/CFSに変わる診断名である全身性労作不耐症(systemic exertion intolerance: SEID)診断基準では、特に起立不耐症(OI)が診断項目の1つとして重要視されています。

 

従来、脳神経の炎症がみられるか否かについて否定的な意見も多かったのですが、脳内の神経炎症つまり脳内ミクログリアの活性化が発症に関与しているのではないかとの研究報告がありました。しかし、脳内ミクログリアの活性化は、ME/CFSやFMに特異的なものではなく、アルツハイマー病や脳血管障害でもみられるため、関連はまだはっきりしません。

 

★国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院放射線診療部(佐藤典子部長)および神経研究所免疫研究部(山村 隆特任研究部長)の研究グループは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の自律神経受容体に対する自己抗体に関連した脳内構造ネットワーク異常を明らかにしました。(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ホームページ https://www.ncnp.go.jp/topics/2020/20200703.html)

ME/CFSにおいて、この自己抗体が新たな血液診断バイオマーカーの一つとなる可能性が考えられます。また、治療の観点から、この自己抗体を除去する、あるいは産生を減少させる治療法が抗体価の高い患者に有効な可能性が考えられます。(同ホームページ)

 

大変期待できる研究だと思います。

 

ただ、まだ有効に治療薬の開発には至っていないため、現在できる、治療法を考えなくてはなりません。

中枢神経へ作用する治療法は対症療法でしかないため、

末梢神経の関与がある程度存在すると仮定し、治療を行うことが臨床上の現実であると考えています。

 

 

 

 

 

5,新型コロナウィルス感染症後症候群(long COVID)の見地からのOI