線維筋痛症(FM)

 

線維筋痛症(fibromyalgia: FM)とは

 

とにかく、いつも全身が痛いこわばるように痛い。いつまでも続く、刺されたような痛み切られたような痛みじりじりした痛みズーンとした重い痛み突然襲いかかる激しい痛み

 

全身が重い重しが全身にいつも乗っているよう水の中で生活しているよう少しでも活動すると、何日も回復しない

 

物忘れがひどい思考力がおちている頭がぼーっとする

 

お腹の調子も悪い。

 

他にもいろいろな身体の症状がありすぎて説明できない。

 

気分が、わけもなく落ち込むわけもなく不安になる眠れない寝付きが悪い。寝付いてもすぐに起きてしまう

 

あまりのつらさで、のたうち回っていても‥‥‥誰も理解しようとしてくれない。誰にも理解されない。ときには、心ない言葉を投げかけられ、時に精神論でかたづれられてしまう。軽くあしらわれてしまう。

 

これだけ、辛いのに、社会は理解してくれない。社会的保障もない社会支援も期待できない。かえって心ない対応をされてしまう。軽くあしらわれてしまう。

 

 

★比較的重症の方は上記のような症状、心理状態、社会的状況で苦しんでいます。

 

本邦の線維筋痛症ガイドライン2017によると

 

線維筋痛症(FM)は、からだの広い部位に、筋肉や関節の慢性の痛みとこわばりを主な症状とし、

明らかな部位に圧痛(おすと起きる強い痛み)以外に、一般的な検査所見に異常がなく、

治療抵抗性(治療しても改善することがむずかしい)であり、

疲労感、睡眠障害や抑うつ気分(落ち込んだ気持ち)などの多彩な身体および精神・神経症状を伴い、

中年以降の女性に多く起きる原因不明のリウマチ性疾患である。」

とあります。

線維筋痛症(FM)は全身の痛みがつらく長く続いてしまう疾患ですが、自分以外の人や、医師にまでも理解されないことが多く孤独な闘いを強いられます。

 

FMは、いまだに、その病因、病態の解明、治療法の確立が遅れており、この疾患の診療医療機関は全国的に数が少ないようです。

 

整形外科外来では、肩こり、腰痛などの痛みの患者さんの中に、線維筋痛症(FM)の患者さんがしばしば存在します。わが国の報告において、2011年の改定診断基準(Wolfら)を満たした患者のうち、医療施設を受診しFMと診断されたのはわずか2.5%であったと報告しました(Nakamura Iら)。

 

またFMは過小診断や誤診されることの多い疾患であり主に診断基準および治療法などの医学的な不確実性が影響していると報告されています(Hauser Wら)。

さらに医師側の原因として、

 

1、FMの認識と診断について十分な知識を持っていない可能性がある。

2、FMに対するスティグマを考慮し、診断を下すことを避けている可能性がある。

3、臨床診断を確認するための検査での客観的異常やバイオマーカーによる判断に慣れており、

FMなどのFSSに対する心理社会的アプローチや症状に基づく診断の不確実性に対する消極性の可能性がある。

4、FMは「存在しない」という考えによる可能性などを挙げています。

 

 

・日本線維筋痛症学会,日本医療研究開発機構線維筋痛症研究班:線維筋痛症診療ガイドライン2017.日本医事新報社,東京,pp4-9, 2017

・Nakamura: I,: Nishioka K, Usui C et al: An epidemiologic internet survey of fibromyalgia and chronic pain in Japan. Arthritis Care Res (Hoboken) 66: 1093-1101, 2014

・Häuser: W,: Puttini PS, Fitzcharles MA: Fibromyalgia syndrome: under-, over- and misdiagnosis. Clin Exp Rheumatol 37: 90-97, 2019

 

 

線維筋痛症(FM)世界啓発デー

 

 

近代看護の道を切り開いた、フローレンス・ナイチンゲールの生誕日である、5月12日に、線維筋痛症(FM)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)化学物質過敏症(multiple chemical sensitivity:MCS)が世界各地で行われます。本邦でも、開催される地区があるようです。

 

フローレンス・ナイチンゲールは、クリミア戦争に従軍の後、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)にかかっていたのではないかと言われています。彼女は、その後、50年間をほぼ寝たきりの状態だったとも言われています。

 

そのような彼女にちなみ、看護の日と同じ日に、世界啓発デーが開催されることになりました。

 

 

線維筋痛症(FM)は、のリボン

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS」は、のリボン

化学物質過敏症(MCS)は、のリボン

 

で象徴されます。

 

そのことを踏まえて、

各地で、大きな建造物に対して、紫、青、緑色のライトアップが行われています。

 

 

 

線維筋痛症(FM)対する理解の新たなパラダイム

 

本邦の最新の慢性疼痛診療ガイドラインによると、

 

線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は

 

身体の広範な部位に、原因不明の慢性疼痛と全身性のこわばりを主徴候とし、随伴症状として多彩な身体症状、神経・精神症状を伴い、いずれの徴候も慢性疼痛と同様に

体診察や一般的画像検査を含む臨床検査では症状を説明できる異常を見いだせない

 

と定義されています。

 

 

さらに、線維筋痛症の痛みは侵害受容性疼痛ではなく、病巣が特定されない神経障害性様の中枢性疼痛とされており、いわゆる痛みの中枢感作が成立し、中枢感作症候群(central sensitization syndrome:CSS)の一つであると記載されています。また内因性の痛みの抑制メカニズムの欠損であるとも考えられています。

 

つまり、線維筋痛症の痛みは、脊髄や脳の働きの障害が引き起こすものであるということです。

 

さらに、近年、線維筋痛症は、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に次ぐ、第3の痛みとして痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)であると明言されるようになりました。

 

痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)とは、末梢侵害受容器の活性化を引き起こす、実質的または切迫した組織障害の明確な証拠がないにも関わらず、

あるいは、痛みを引き起こす体性感覚系に疾患や病変の証拠がないにもかかわらず、侵害受容が変化することによって生じる痛みと定義されています。

 

 

 

慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編: 慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易(株)医書出版部, 東京, 2021

松本美富士:線維筋痛症の臨床:痛覚変調性疼痛とその治療. 現代医学69(1): 44-49, 2022

臼井千恵:線維筋痛症. 臨床精神薬理 25: 513-519, 2022

 

 

ところが…

 

2013年、ハーバード・メディカルスクール・マサチューセッツ総合病院、神経内科医アン・ルイーズ・オークランダー教授が線維筋痛症臨床における革新的な論文を報告していました。

 

それによると、線維筋痛症(FM)の一部は小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy:SFNであり、原因は不明ではなく、一部のFMはSFNとして病理学的に明らかに証明できるものであると述べました。

 

そして、線維筋痛症(FM)の一部は診断ではなく小径線維ニューロパチー(SFN)に対するラベルの一つであり、SFNで理解できるものであと述べました。

 

この報告以来、欧米の線維筋痛症(FM)に対する理解に、SFNの病理が加わり、議論の的となりました。

 

以後、同様の報告が、数多くなされるようになりました。

 

 

 

・Oaklander: AL,: Herzog ZD, Downs H et al: Objective evidence that small-fiber polyneuropathy underlies some illnesses currently labeled as fibromyalgia, Pain 154(11): 2310-2316, 2013

 

 

 

 

 

 

 

中枢性感作症候群(痛覚変調性疼痛) VS  小径線維ニューロパチー 

 

欧米のFM臨床の世界では、FMの病態理解に対する、中枢性感作症候群(CSS)小径線維ニューロパチー(SFN)の関連についての議論が多数あります。

 

 

 

主張1

SFNとFMの間で多様なケラチノサイト(角化細胞:皮膚の最外層の表皮に存在する主要な細胞であり、ヒトでは表皮の細胞の90%を占める)のトランスクリプトーム(mRNAの総称)・ シグネチャー(2群間を分類する際に使用される特徴的な遺伝子)が得られており、両者の小径線維感受性の病理メカニズムが異なることを示唆し、高度診断の基礎となることが期待される。

 

Karla F,  Bischlerb T, Egenolfa N et al: Fibromyalgia vs small fiber neuropathy: diverse keratinocyte transcriptome signature. Pain 162(10): 2569-2677, 2021

 

 

主張2

線維筋痛症(FM)の中枢メカニズムの1つとして同定されている島における興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)の増加との関連性が示唆されており、表皮内小径線維密度(IENFD)を減少させる可能性がある。つまり、中枢神経系の変調がSFNにつながる可能性がある。

 

Harte SE, Clauw DJ, Hayes JM, et al. Reduced intraepidermal nerve fiber density after a sustained increase in insular glutamate: a proof-of-concept study examining the pathogenesis of small fiber pathology in fibromyalgia. PAIN Rep 2: e590.,2017

 

 

主張3

病理学的に証明された小径線維ニューロパチー(SFN)患者の大脳辺縁系および疼痛処理領域において、構造的および機能的な障害が確認された。脳形態計測とfMRIを組み合わせることによって、SFNのバイオマーカーを得ることができ、疾患の重症度と中枢神経の関与との関連性を客観的に評価することができる。神経障害性疼痛の末梢感作に加えて、皮膚の変性の伴う脳内反応の低下も明らかになり、末梢神経障害による神経障害性疼痛の中枢メカニズムにも光が当てられた。

 

Hsieh PC, Tseng MT, Chao CC, et al: Imaging signatures of altered brain responses in small-fiber neuropathy: reduced functional connectivity of the limbic system after peripheral nerve degeneration. Pain 156(5): 904-916, 2015

 

 

主張4

線維筋痛症(FM)と診断された患者のうち、小径線維ニューロパチー(SFN)が確認された患者とされなかった患者では、ほとんどの症状が同程度の重症度で認められこれらの集団が重複していることがさらに証明された。また、いくつかの症状、すなわち、知覚異常の存在と重症度、末梢性自律神経障害の集合的な症状は、症状のある患者間のスクリーニングに予測的な有用性を持つかもしれない。さらなる努力が必要である。

 

Lodahla M ,  Treisterb R, OaklanderaAL: Specific symptoms may discriminate between fibromyalgia patients with vs without objective test evidence of small-fiber polyneuropathy. Pain reports 3: 1-6, 2018

 

 

主張5

線維筋痛症患者の大きなサブグループに小径線維ニューロパチーが認められたことは、自律神経失調症神経障害仮説を補強し、線維筋痛症の痛みを検証するものである。これらの新しい知見は、線維筋痛症が主として神経学的なものであることを支持するものである。

 

Lavín M:  Fibromyalgia and small fiber neuropathy: the plot thickens!. Clinical Rheumatology37: 3167–3171, 2018

 

 

主張6

線維筋痛症(FM)患者における小径線維ニューロパチー(SFN)が確認されたことにより、治療、特に神経障害性疼痛の治療において何らかの示唆を与えることが期待される。これまでFMは、病態生理のはっきりしない曖昧な疾患として扱われ、その診断も主観的な基準に基づいて行われてきた。FMにおけるSFNの研究は強固であり、一部の患者では末梢組織病変の基本的な要素があることが示唆されている。さらに、SFNはFM患者において容易に検出され、診断をより客観的なものにする。さらに、FM で見られる症状の多くは、免疫介在性である可能性が高いという結論に至る。残念ながら、この研究は一部の患者にしか適用できず、FMやSFNが持つ複雑性のすべての側面を説明するためには、まだまだ研究が必要である。

 

Swiecka M,  Maslinska M , Kwiatkowska B: Small fiber neuropathy as a part of fibromyalgia or a separate diagnosis? .Int. J. Clin. Rheumatol 13(6): 353-359, 2018)

 

 

主張7

線維筋痛症の診断基準の改訂により、かえって線維筋痛症とSFNを区別することはできない線維筋痛症とSFNを区別するためには皮膚生検、レーザー誘発電位、QST、角膜共焦点顕微鏡を行うとよい。正しい診断ができれば、患者に適切な情報を提供することができ、薬物療法や非薬物療法を適応させることができる。患者のケアを向上させるために、これら2つの疾患の個別化に関するさらなる研究が必要である。

 

Bailly F: The challenge of differentiating fibromyalgia from small-fiber neuropathy in clinical practice. Joint Bone Spine 88, 2021

 

 

主張8

線維筋痛症(FM)は小径線維ニューロパチー(SFN)と中枢性感作症候群(CSS)の複雑な相互作用による幅広い表現型をもつ疾患である。

 

de Tommaso, Vecchio E, Nolano M: The puzzle of fibromyalgia between central sensitization syndrome and small fiber neuropathy: a narrative review on neurophysiological and morphological evidence. Neurological Science 43. 1667-1684, 2022

 

 

主張9

線維筋痛症(FM)のある症例では中枢神経を介したプロセスが、他の症例では末梢神経を介したプロセスが原因であり、おそらくは、その2つの組み合わせである可能性がある。

 

Kelley MA, Hackshaw KV: Intraepidermal Nerve Fiber Density as Measured by Skin Punch Biopsy as a Marker for Small Fiber Neuropathy: Application in Patients with Fibromyalgia

 

 

 

 

 

番外編

虚血性筋痛(Ischemic Myalgia:IM)

 

線維筋痛症(FM)は筋細胞への微小循環障害である虚血・再灌流障害(ischemia-reperfusion injury:IRI)による虚血性筋痛(ischemic myalgia:IM)であるという報告もあります。

 

Queme L, Ross L, Jankowski M: Peripheral Mechanisms of Ischemic Myalgia. Front. Cell. Neurosci 11: 1-15, 2017

 

 

 

 

 

 

 

 

私案・一次性(SFNは含む)線維筋痛症(FM)のタイプ

 

欧米の線維筋痛症(FM)の病態(痛覚変調性疼痛nociplastic pain: NP小径線維ニューロパチーsmall fiber neuropathy: SFN虚血性筋痛ischemic myalgia: IM)に対する主張や議論および、本邦における主に永田勝太郎らが報告してきた過去の現象論的臨床仮説に基づく臨床報告を総合して、以下のような、線維筋痛症(FM)の病態に対する私案を創りました。

 

小径線維ニューロパチー(SFN)型は痛みの表現型が先天性もしくは後天性の感覚神経(Aδ線維とC線維)中心神経障害性疼痛であり、虚血性筋痛(IM)型は、神経原性後天性の主にC線維である心血管系自律神経系障害:SFN先天性・自律神経機能の脆弱性)筋原性(後天性の心筋代謝障害:栄養障害など、先天性の心筋機能の脆弱性:小心臓症など)により引き起こされるものとしました。

 

 

 

あくまでも現時点での私案です。あくまでも、現時点での線維筋痛症(FM)の患者さんに対する、自分の認知様式を整理するためです。自分自身でも、絶対的なものとして信じていません。当然、世の中のコンセンサスは得られていません。(独善と言えます。)自らの臨床において現象論的態度で検証し、時には創りなおし、すべてを否定し(unlearn:学びほぐし)、時には新たな理論に一新し、再構築し(relearn)、自分自身の線維筋痛症(FM)臨床の参考にしていきたいと思います。

 

 

 

線維筋痛症(FM)克服、改善のための登山ルート

 

 

多くの臨床家は、中枢性感作症候群(CSS)・痛覚変調性疼痛(NP)の登山ルートを歩いています。

 

永田勝太郎らは、40年以上の長い間、虚血性筋痛(IM)の登山ルートを歩いてきました。

総合内科医であり、システム論を中心(心理主義、中枢神経主義ではなく)に臨床を行う心療内科医だからこそ気づいた、線維筋痛症などの慢性疼痛の病態であると考えます。

 

そして、新たなルートとして、神経内科的病態である、小径線維ニューロパチー(SFN)が見つかりました。

 

 

虚血性筋痛(IM)の登山ルート小径線維ニューロパチー(SFN)のルートは合流したように思います。

 

線維筋痛症の山(臨床)は、誰も到達していない険しい山であり、困難なMissionです。

 

もしかしたら、この3つの登山ルートは合流して大きな1本の道になるかもしれません。(あくまでも私見です。)

 

 

 

 

線維筋痛症(FM)おける虚血性筋痛(IM)のメカニズム

 

 

筋痛は局在の不明瞭な鈍い痛みとして知覚されます。筋痛は痛みというよりは、時に不快感として表現され、しばしば関連痛(referred pain)を伴います21)

 

近年、線維筋痛症(FM)の筋痛は筋細胞に対する、虚血・再灌流損傷(Ischemia Reperfusion injury:IRIによる虚血性筋痛(Ischemic Myalgia:IM)であるとの報告があります。

 

つまり、筋細胞に対する血液の供給不足とその後の再灌流により、活性酸素種(ROS)などの酸化ストレスの増加し、筋細胞や小径線維の損傷に至り、筋間質液の成分変化が起こり、主にfasciaに分布するⅢ・Ⅳ群線維(Aδ・C線維)が興奮し、筋痛となります。

 

そして、虚血性損傷を来した、それらの神経の後根神経節において多様なチャネルや受容体が発現し、末梢感作もしくは痛覚変調性疼痛と関連します。

 

 

 

虚血・再灌流損傷(Ischemia Reperfusion injury:IRI

 

虚血・再灌流損傷(Ischemia Reperfusion injury:IRIを引き起こす筋の毛細血管から筋細胞への血液供給の不安定さを引き起こすメカニズムは以下の2つが考えられます。

 

 

1,神経障害性微小血管障害(neuropathic microvasculopathy)

 

2,血行動態不良症候群(起立不耐症)

 

 

 

1,神経障害性微小血管障害(neuropathic microvasculopathy)

 

SFNにより除神経され拡張した動静脈吻合により動脈血が静脈血にシャント毛細血管をバイパスすることにより筋細胞から動脈血を奪い局所の低酸素血症が生じます。これを神経障害性微小血管障害(neuropathic microvasculopathy)と云います。このことは骨格筋灌流障害深部痛労作不耐症を少なくとも部分的に説明することができます1,5,28,29)

 

 

Oaklander AL, Nolano M: Scientific Advances in and Clinical Approaches to Small-Fiber Polyneuropathy: A Review. JAMA Neurol.76(10): 1240-1251, 2019

 

 

 

 

2,血行動態不良症候群起立不耐症

 

筋細胞の毛細血管レベルでの虚血(ischemia)再灌流(reperfusion)を繰り返す病態として、血行動態不良症候群(起立不耐症)があります。

 

永田勝太郎らは、1980年代より、ヘッドアップ・チルト試験(head-up tilt test: HTT)あるいはシェロングの起立試験(active standing test: AST)に伴う血行動態を、ParamaTec製の血行動態測定器(GP303sなど)を使用することにより、コロトコフ音図から心係数全末梢血管抵抗などを算出し、病態理解につなげていました。

 

GP303sは現在、発売中止となっており、当院ではGP nico PS501を使用しています。

その他、血行動態を測定できる機器として、Finapres Medical System社 Finapres NOVAがあります。多くの研究報告はこの機器で行われいます。

 

Parama Tec社ホームページhttps://www.parama-tech.com/ より・

 

永田勝太郎らは、長年、この機器を使用して、全身の痛み、慢性の痛みの患者さんの血行動態を測定し、臨床報告を続けてきました。

特に、血行不良タイプ(血行動態不良症候群、低反応型:心臓のinotropic の低下)が、病態の中心であるとの結果が出ていました。

 

血行不良タイプでは、病態とその経時的な変容による筋細胞への血液供給の不安定性が出現し、 虚血・再灌流障害(ischemic reperfusion injury:IRIを引き起こすと考えられます。

 

血行不良タイプ(血行動態不良症候群、低反応型:心臓のinotropic の低下では、起立不耐症慢性疲労多彩な症状を引き起こすと考えらます。

 

 


★ParamaTec社GP303s, nico PS 501などの機器で測定した結果を線維筋痛症の病態理解につなげるには、血行動態不良症候群、低反応型の病態概念非常に有用でした。


 

 

 

 



本邦における虚血性筋痛(ischemic myalgia)の理論の歴史

 

本邦において、永田勝太郎らは、早くから筋細胞への微小血管障害が、全身の痛みや慢性の痛みの大きな要因になる考えていました。そして、心血管系の機能異常が、それを引き起こすと考えていました。そのことは、1987年の論文にすでに発表されていました。そして、全身の痛みや慢性の痛みの脆弱性要因として、小心臓症血行動態不良症候群(起立不耐症)の存在を指摘していました。

 

永田勝太郎, 村山良介: 慢性疼痛と血行動態 ・血行動態の改善が疼痛の解除につながる. 医学のあゆみ 142(11): 804, 1987

 

永田勝太郎は、この報告の前に、九州大学医学部心療内科初代教授を退官し、小倉記念病院の院長であった池見酉次郎先生の元で、晩年の弟子として心療内科の研修をしていました。研修をしながら、その当時の自律神経学の大家であった、鳥取の本多和雄先生の元で、教えをいただいており、この理論の確信を抱いていました。

 

本多和雄、稲光哲明 編著:起立性低血圧の基礎と臨床. 新興医学出版社, 東京. 2006

 

永田勝太郎は、起立不耐症の基礎病態となる疾患概念として、ドイツの自律神経学者であるDelius Lらが提唱した循環器心身医学に基づく分類を東京大学心療内科教授の石川 中先生が分かりやすく分類したものを導入しました。以下が石川 中先生が述べた内容です。

 


1)Dysrhythmische Symdrome:精神心理因子が心拍リズムに影響を及ぼすもの

2)Dysdynamische Syndrome:精神心理因子が循環器系に対し、血行力学的な影響を及ぼすもの

‥‥‥① hyperkinetische Herzsyndorom:動揺性高血圧、頻脈、軽い収縮期雑音、皮膚温上昇

‥‥‥② hypokinetische Herzsyndom:機能性心機能不全(全身倦怠と脱力)

3)Dysathetische Syndrome:心および血管系に異常感覚をもつもの

‥‥‥心臓神経症や四肢末端の血管の異常(AkroparethetischeおよびErythromelalgia)


 

石川中:循環器の心身症. 心身医学-基礎と臨床-. 朝倉書店, 東京. pp470-478, 1979

 

永田勝太郎は、この分類のうち、2)Dysdynamische Syndromeに注目し、血行動態不良症候群と名づけました。また、hyperkinetische Herzsyndoromを高反応型、 hypokinetische Herzsyndomを低反応型と名づけました。

 

 

 

以後、永田勝太郎らは、全身性の疼痛、慢性の疼痛の基本病理を、主に脆弱性要因およびさまざまなストレッサーにより引き起こされる心血管系の機能異常である血行動態不良症候群(Dysdynamische Syndrome:DS)、低反応型(hypokinetische Herzsyndom)を中心として臨床報告を次々と行いました。

 

近年では、血行動態不良症候群、低反応型を引き起こす病態として、酸化ストレスおよび糖化ストレスの影響を強調しており、小径線維ニューロパチーの発症病理と一致するようになりました。

 

血行動態不良症候群(Dysdynamische Syndrome:DS)、低反応型(hypokinetische Herzsyndom)は、心原性(心筋代謝障害:栄養障害、酸化ストレス、糖化ストレス、先天性の脆弱性:小心臓症など)および神経原性(小径線維ニューロパチー、先天性の自律神経機能の脆弱性)に分類されるが、ほぼこの2つの混合型です。

 

この疾患概念は、起立不耐症を、ストレス負荷による心血管系機能異常の視点(心身医学的視点)から述べたものと考えられます。現在でも、ドイツでは、Dysdynamische Syndromeの病名を使用しているようです。



 

 

3,虚血性筋痛(IM)と小径線維ニューロパチー(SFN)の病態の接点

 

 

心臓のinotopic action(血液を押し出す力)に影響を及ぼす後天的原因には

 

1,筋原性(心筋代謝障害)

2,神経原性(小径線維ニューロパチー:SFN、心血管系自律神経障害、循環血液量の減少

 

が考えられます。

心筋代謝障害、小径線維ニューロパチーの発症には、

糖化ストレス酸化ストレス栄養障害微小炎症免疫攻撃毒素等、共通する要因が関与しています。

 

 

 

 

 

虚血性筋痛(IM)の末梢性感作(PS)

 

 

虚血性損傷を起こした筋のfasciaなどにはATP、乳酸、プロトン(H+)などの代謝産物や過酸化水素など有害なフリーラジカルが発生し、それらの刺激にⅢ・Ⅳ群線維(Aδ・C線維)が反応します。虚血状態ではⅣ群線維(C線維)が優先的に活性化します。

 

虚血性損傷を来した筋ではNGFグリア細胞株由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor:GDNF)およびIL(interleukin)1βなどの炎症サイトカインなどが発生しⅢ・Ⅳ群線維(Aδ・C線維)の自由神経終末や後根神経節を刺激するします。

 

 

そして虚血性損傷を来したそれらの神経の後根神経節では多様なチャネルや受容体が発現し痛みの末梢性感作(peripheral sensitization:以下PS)に関連します。

 

 

 

fascia(ファッシア)の痛み

 

Ⅳ群線維はC線維に相当し、終末の多くはfasciaと骨格筋内の細動脈壁に存在します。

 

筋の支配神経は約43%の感覚神経(Aβ、Aδ、C線維)、約40%の血管運動神経(交感神経節後線維:C線維)そして約17%の運動神経(Aα、Aβ線維)で構成されます。

 

そのうち感覚神経の約80%はⅢ群線維(Aδ線維)およびⅣ群線維(C線維)で、特にⅣ群線維(C線維)が多くを占め、間質受容体(自由神経終末)としてfasciaに多く存在します。

 

Fasciaは全身におよぶ連続する広大な一枚の構造を持ち、筋、骨、関節、腱、内臓を覆い最も大きな感覚器官と言われます。

 

 

おすすめ参考書籍

 

 

 

 

線維筋痛症(FM)の診断基準および臨床評価など

 

線維筋痛症(FM)の診断基準、分類基準、臨床評価は多数あり、どの基準が最も病態を反映し、臨床の現場で有用なのかは、現在も議論されています。

アメリカリウマチ学会(ACR)が公式に認めているものは、現在のところ、1990年分類基準および2010年診断基準です。

 

米国リウマチ学会(ACR)1990年 線維筋痛症分類基準の圧痛点(Wolfeら)

 

1,「広範囲の疼痛」の既往がある

定義

・疼痛は以下のすべてが存在するとき「広範囲の疼痛」とされる

・身体左側の疼痛、身体右側の疼痛、腰から上の疼痛、腰から下の疼痛さらに体幹中心部(頸椎、前胸部、胸椎、腰椎のいずれかの痛み)が存在する

 

2,手指による触診で18箇所の圧痛点部の11箇所に圧痛を認める

定義

・約4kgの強さの手指による触診で、下図に示した合計18箇所の圧痛点のうち11箇所以上に疼痛を訴える

 

判定

上記の2項目を認める場合に、線維筋痛症と診断(分類)される。

「広範囲の疼痛」は少なくとも3か月以上持続する必要がある

 

 

米国リウマチ学会(ACR)診断予備基準(2010)

2010年診断基準は以下の3項目からなります。

 

 

①定義化された慢性疼痛の広がり(疼痛拡大指数:widespread pain index:  WPI)が一定以上あり、かつ臨床SSスコアが一定以上あること。

②臨床徴候が診断時と同じレベルで3か月間は持続すること。

③慢性疼痛を説明できる他の疾患がないこと。

 

この3項目を満たす場合に線維筋痛症(FM)と診断できる。

 

 

 

 

 

2011年改訂診断基準(Wolfeら)

 

 

 

 

2016年改訂診断基準(Wolfeら)

 

 

FAS31を用いた診断および疾患活動性の評価のための問診票

 

 

 

 

線維筋痛症質問表(JFIQ: The Japanese version of the FIBROMYALGIA IMPACT QUESTIONNAIRE)

 

 

線維筋痛症の AAPT(ACTTION-APS)診断基準

 

米国食品医薬品局(FDA)および米国疼痛学会(APS)とのACTTIONの官民パートナーシップ

 

ACTTION: The Analgestic, Anesthetic, and Addiction Clinical  Trial Translation Innovations Opportunities and Networks

鎮痛薬・麻酔薬・依存症、臨床試験の翻訳、イノベーション、機会、ネットワーク

FDA:Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)

APS:American Pain Society(米国疼痛学会)

痛みを感じる体の部位の数患者には、2面体人型イラストの痛みを感じる部位にチェックを入れてもらう(あらかじめ網掛けしてある部位は無視する)。あるいは、患者は身体部位のチェックリストを使用してもよい。最大9つの身体部位から別々の部位の数を合計する。

 

 

次元1:コア診断基準

 

1. 9つの疼痛部位のうち、6つ以上の疼痛部位がMSP(multisite pain :複数部位の疼痛)と定義される

2. 中等度から重度の睡眠障害または疲労

3. MSPと疲労または睡眠障害が少なくとも3ヶ月以上続いていること

 

 

注 他の疼痛疾患や関連症状があっても、FM の診断が否定されることはない。
FM の診断を否定するものではない。しかし、患者の症状を十分に説明しうる、または重症化させる可能性のある疾患を評価するために、臨床評価を行うことが推奨される。
しかし、患者の症状を完全に説明できる、または症状の重篤度に寄与する可能性のある疾患を評価するために、臨床評価を行うことが推奨される。

 

 

Arnold L, Bennet R, Crofford L , et al  :  AAPT Diagnosis Criteria for Fibromyalgia. The Journal of Pain 20(6): 611-628, 2019

 

 

 

 

線維筋痛症(FM)の臨床症状と重症度分類

 

ステージⅠからステージⅤまでの段階は、

身体的苦悩(BD)から慢性機能障害性身体的苦痛(CDBD)へ至る段階と一致すると考えられます。

 

ステージⅠの段階、その前の段階で、

治療介入ができると回復可能性が高いと考えられます。

 

 

若年性線維筋痛症診断基準

 

線維筋痛症(FM)の治療

 

線維筋痛症(FM)の治療は、ガイドラインで示されています。調べるとすぐにいろいろな薬物治療が勧められています。

また、いろいろな代替医療が行われています。

 

多くは、痛覚変調性疼痛(nociplastic pain:NP)もしくは慢性機能障害性身体的苦悩(chronic disability bodily distress:CDBD)に至ったステージの治療と考えられます。

 

できるだけ早期に、身体的苦悩(bodily distress:BD)つまり、可逆性の初期・特発性・小径線維ニューロパチー(initially ideopathic SFN:iiSFN)および虚血性筋痛(IM)のステージの時期にホメオスタシスの歪みを改善する治療および身体症状から引き起こされる心理反応に対する適切なカウンセリングを行うことが大切であると考えます。